火曜日に「心配はあるが、当面はGMの仕事をしてもらう」といっていた巨人桃井オーナーだが、金曜日には臨時役員会を経て「解任」の記者発表。2日の間に渡邉恒雄会長が朦朧状態から回復したということか。
桃井オーナーは「球団事務所に出入りするのも、巨人軍の許可なくしてはありえない」ともたたみかけた。この人には自分の意見はないのだろう。
さらに、長嶋茂雄終身名誉監督は「清武氏の言動はあまりにもひどい。戦前、戦後を通じて巨人軍の歴史でこのようなことはなかった。解任は妥当だと思います」とコメントを発表した。
まさに、水に落ちた犬を叩く所業である。
悲しいな、と思う。清武さんは、読売新聞出身の天下り幹部としては珍しく、ファームの選手や裏方にも目配りをし、野球という仕事に正面から取り組んでいた。前にも言ったが、「野球は幸せか?」という『週刊ベースボール』のコラムは秀逸だった。選手との交流を通じていろいろな発見をし、それをみずみずしい筆致で文章にした。我々に「野球の世界」からの報告をしてくれた。「巨人にもこんな人がいたのだ」と思ったものだ。
GMとして無能だった、また周囲に対して不遜だったという話が、この事件の後、黒煙のように立ち上がってきた。巨人は清武さんが球団代表に就任した2005年以降、530勝451敗。阪神の540勝443敗、中日の550勝435敗の後塵を拝している。その責は当然負わなければならない。しかし一方で、札束で他球団の選手を引っ張ってくる補強に依存せず、育成選手制度を導入するなど「育てて勝つ野球」を目指す方針も打ち出していた。常勝を義務付けられた(と思っている)巨人としては、物足りない数字かもしれないが、酷評を受けるような成績ではないと思う。
もちろん、そうであっても解任や降格などの人事は、企業であれば当然ありうることだ。組織人としてはそれに従うか、職を辞するかの選択をしなければならない。清武さんは人事に不満があって反旗を翻したのではないと思う。渡邉会長の傍若無人の振る舞いが、コーチ陣や選手も大きく動揺させたこと、チームの和が崩れそうになったことに、義憤を感じたのだ。
中小企業の創業者などには、自ら承認した組織やルールを平気で破って、現場に気まぐれに介入する経営者がいる。多くの社員は「長いものに巻かれろ」で従うのだが、会社のことを真剣に考えれば考えるほど、そういうトップの無責任で気まぐれな振る舞いは、耐え難く思えるものだ。そういう軋轢で、優秀な人材が辞めていくのはよくある話だ。





読売グループは、正力松太郎以来、常にトップがヘゲモニーをとって強権的に組織を掌握してきた。渡邉会長も同様の手法でグループに君臨し続けている。たちが悪いのは、全く同じやり方で、プロ野球界でも権力をふるってきたことだ。巨人が勝つことしか考えていない人物が、球界で好き勝手にふるまうことの弊害は計り知れない。清武さんは自社のことだけを考えて反旗を翻したのかもしれないが、結果的に、それが野球界の改革を推進することにつながったかもしれないのだ。
マスコミ各社は巨人サイドの取材拒否を恐れて、雪崩を打つように渡邉会長支持に回った。この業界に気骨のある人が少ないのは、戦前も今も変わらない。安全な立場でものをいうことしかできないのだ。しかし、本当にそれでいいのか、反問する人はいないのだろうか。
清武さんを破門にして、巨人は何を守ったのだろう。85歳になる渡邉会長の権力だろうか、崩壊しかかった組織の体面だろうか、岡崎郁コーチの生活だろうか。
おそらく、この事件によって、巨人の経営陣には、間違っても体制に弓を引くことなどない、従順な人が配されることだろう。
しかし、清武さんが渡邊会長に弓を引いたという事実だけは残る。これまで、だれも逆らったことのない人物に逆らったという一事をもってしても、私は清武さんを評価したい。渡邉会長の非常識さ、そして巨人、読売という会社の旧弊さが明るみに出たことは大きい。蟻の一穴かもしれないが、物事を変えていくきっかけになると思う。

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