6月9日のオリックス戦後に「俺は能見さんが嫌いだから、オリックスに点をあげたんだ」などと冗談ながら問題発言をしたことが、直接の原因となっているようだ。
南信男球団社長は、「(国際スカウト担当の)三宅部長を通じ、球団として、誤解を招くような発言は慎むよう注意しました。マートンも『申し訳ない。すいません』と言っていた」と説明した。


またぞろ、阪神のお家騒動。調子が悪くなってくると、犯人探しが始まる。今季のマートンはブラゼルとともに開幕から不調で、阪神の貧打線の最大の要因になっていた。彼が責められるのは、いわば当然である。人気球団だけに、プレッシャーがかかるのもやむを得ないところだ。

しかし、マートンはそうした数字に表れる低迷以前に、異常な行動が目立っていた。記憶に新しいのは、昨年5月26日、アウトカウントを間違えて、フライを捕球してスタンドに投げ入れたことだ。
この時も阪神タイガースの沼沢正二球団本部長がマートンを事情聴取し、「本人は大反省していた」というコメントが出された。

昨年は、その後成績を盛り返し、最終的には打率.311、2年連続の最多安打に輝いている。

しかし、マートンの精神状態は、その頃から徐々に蝕まれていったのではないか。

1年目、NPB記録の214安打を打ったマートンは、称賛の嵐に包まれていた。毎試合ごとにメモをつけて相手投手を研究する真面目さ、日本や日本野球に対する尊敬の念などが報道されたこともあり、人気は高まった。彼自身も「日本に来てよかった」と本当に思ったことだろう。

しかし、日本人は、自分たちにとって喜ばしい言動をする選手には温かいが、そうでなくなった途端に手のひらを返したような態度を取る。外国人選手が、日米のカルチャーギャップに苦しんでいることなど、忖度することなく、すこしでも緩慢なプレーをすれば、遠慮のない非難が飛んでくる。

昨年のボーンヘッド以来、マートンを取り巻く空気は次第に変化していったのだろう。

これは推測だが、ボーンヘッドに対して球団幹部に謝罪させられたことが、大きなストレスになったかもしれない。
MLB(だけでなくアメリカ)では、失敗は故意でない限り、許される。ダルビッシュが乱調な投球をした後にワシントン監督に「Sorry」と言いに行って、割と強い口調で「謝るな」と言われたことでもわかるように、失敗に対して謝る文化がない。反対に言えば、謝ったところで、処遇が改善されるわけでもない。
マートンの場合は、ちょうどこの反対で、故意ではないプレーに対して、謝罪させられたことが、大きなストレスになった可能性もあろう。

今年に入ってマートンは、さらに集中力に欠けるプレーが目立つようになった。ゴロを打って走らなかったり、フライを取ってからの動作が緩慢だったり。2年前のマートンとは、明らかに違う態度を取るようになった。これは、マートンの精神状態、日本、日本野球に対する思いを反映しているのだろう。

もちろん、マートンは、異文化に接するには、あまりにも繊細すぎる気もする。しかし。球団側は、そうした彼に、メンタルケアなどは一切施さなかったのではないかと思うのだ。

MLBは、アメリカでもっともメディカルケアが完備された職場だと言われている。成績が悪ければ即座に去らなければいけないが、在籍している限り、最高の治療を受けることが出来る。心因性の疾患に対しても、手厚いメンタルケアを受けることが出来る。
カルチャーギャップに悩んでいても放っておかれるNPBとは、雲泥の差があるのだ。

日本では、ストレスで成績を落としたり、仕事ができなくなったりすることは、「本人の責任」であり、「甘えている」とみなされることが多い。しかし、心の病は、身体の病と同様、自分自身ではどうすることもできない場合も多い。そういうケースでは、専門的なケアが必要だ。

これほどMLBの情報が入ってくる時代になっても、良く働く外国人選手を獲得するのは、大変なことだ。
マット・マートンは球団の大切な資産だと思う。このままフェードアウトして消滅させるのではなく、大事に手入れをして再生させるのが、球団のやるべきことだと思う。球団はマートンの味方になってやるべきだ。

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