昨日の巨人元GM清武英利氏の記者会見で、巨人軍、そしてNPBの権力構造が崩れるのではないかと期待した向きは多かったと思う。
たまたま宮崎市にいるのだが、清武氏の地元であり、巨人の第2のフランチャイズと言うべき土地柄だから「今日はどうなるか」と身構える人が多かった。
が、昨日の会見では、渡邉恒雄会長の牙城を崩すのはまず不可能だろう。渡邉氏の強権ぶりや傍若無人はよくわかったが、この記者発表の内容では、渡邉氏が辞任をすることはまずないだろう。
配られた資料によると、清武さんは6つの訴えたいことがあったという。

1)岡崎郁ヘッドの留任を渡邉会長の了承の下、決めていたのに「鶴の一声」で江川卓ヘッド、岡崎降格が決まったこと。これはコンプライアンス違反だ、と会長に翻意を迫ったが、渡邉会長は「1、2年後には君を社長にするから」と取り合わなかった。

2)日本のリーディングペーパーの最高実力者である渡邉氏が、多くのマスコミの前で確信犯的に「俺は何にも報告聞いていない。俺に報告なしに、勝手にコーチの人事をいじくるというのは、そんなことありえんのかね。俺は知らん。責任持たんよ」と虚偽の発言をしたこと。

3)江川卓氏をヘッドにする人事が、江川氏本人やファンを愚弄していたこと。渡邉氏は「江川なら集客できる。彼は悪名高いが、悪名は無名に勝る。彼をヘッドコーチにすれば、次は江川が監督だと江川もファンも期待するだろう。しかし、監督にはしないんだ」などと、この独断人事の狙いを打ち明けた。

4)渡邉氏が巨人軍の原辰徳監督らを今回のコンプライアンス違反の問題に巻き込んでしまったこと。巨人の象徴的存在である監督を権限外の問題に巻き込むことは許されない。

5)GMの権限で決めた適正人事を、権限のない渡邉会長が「鶴の一声」で公然と破ろうとしたこと。これまでそうしたことは一度もなかった。

6)清武さんは2005年の一場靖弘への裏金事件を機に巨人のフロント業務にトップに就いた。以後、巨人軍の信用回復のため、不祥事の再発防止、コンプライアンスの徹底に努めた。また「育成制度」を創設したり、選手評価にMLBの手法を導入するなど、改革を進めた。しかし、旧来の商店経営の典型である、鶴の一声で渡邉氏はこれを覆そうとした。


そのうえで、日本シリーズの最中に解任したことを「暴挙」と断じている。さらに、今回の渡邉氏の暴挙には、桃井オーナーも憤っていたことなども明らかにした。また、前回の読売側の記者会見への反論もしている。

うーん、聞いたことのある話が多い。1)と5)は重複しているように思う。江川卓氏をめぐる話は耳新しいが、正直言って「ナベツネなら、それぐらいのことは言うでしょう」という感じだ。人事権を侵害されたことは、アメリカならコンプライアンス違反だろうが、日本では親会社幹部の子会社への干渉はよくあることだ。日本シリーズ中の解任は、あんたが日本シリーズ中に反旗を起こしたからでしょう、と言われればそれまでだ。
渡邉会長が一場事件について全然反省していないこと、そして相変わらずの暴君だったことは良く分かるが、ダメージを与えるには浅すぎる。既知感が強すぎる。

たとえば、長野や澤村に栄養費を渡せと言われて、それを持って行ったとか、「加藤は何でも俺の言うことを聞くんだ。だからコミッショナーにしてやったんだ」と豪語している録音があるとか。そういうのでなければ、世間は驚かない。江川氏の問題は録音でも出てくればインパクトがあるが。

渡邉会長は「10人の弁護団を組織して対抗する」といっていた。何たる小心、と笑ってしまったが、それくらい恐れていたのだ。恐らく胸をなでおろしているだろう。

清武の反乱は、渡邉会長に大きなダメージを与えたことは間違いない。早晩引退するのではないかと思う。
最近思いなおしたのだが、それでは状況は変わらないと思う。読売という組織が、独裁者をいただく体質をもっており、伝統的にその独裁者がNPBを壟断してきたことを考えると、渡邉会長は引退ではなく、引責辞任させる必要があった。それによって、巨人の特権的地位をなくす必要があったのだ。「清武の乱」はその千載一遇のチャンスだったのだが。

清武さんの追随者が内部から出るか、渡邉会長側が「敵失」するか、すれば次の展開はあるだろうが、今のままではじり貧だ。もっとないのか、清武さん。






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