昨日のフェンウェイパークでのボストン・レッドソックス=BOS、テキサス・レンジャーズ=TEX戦を見ていて思ったのは、「NPBとMLBは本当に違うな」ということだ。
ダルビッシュが出てくるまで、私は松坂大輔の試合を中心に追いかけていた。そのときはあまり感じなかったのだが、ダルビッシュの視点で見ると、この球場はつくづく変である。BOSの1番のエルズベリー、3番のペドロイアという生え抜き組は、明らかに、左翼94mにそびえるグリーンモンスターに当てることを考えてスイングしていた。右打者のペドロイアは、ノックの球を打ち上げるようだった。昨日は欠場していたが、デービッド・オルティーズもよく“壁当て”の打球を飛ばす。

まるで、近所の空き地で「あの家の塀を超えたらホームラン」と決めて草野球をやっているような感じである。

ダルビッシュは昨日「運の悪い打球もあった」と語ったが、そうではなくて、この球場で左翼に深い当たりが飛べば、運不運にかかわらず。みんなそうなってしまうのだ。

そういえば、数年前までこの左翼は、マニー・ラミレスの“住処”だった。マニーは打球が飛ぶと、早々にダイレクトキャッチをあきらめて、壁面に向き合い、クッションボールがやってくるのを悠長に待った。投手にしてみればたまらないところだが、それがラミレスであり、レッドソックスなのだ。

日本なら「理不尽だ」という声が上がることだろう。フェンウェイの左翼外側には道路が通っていて、スペースがないということになっているが、だったらホームベース側をずらすなり、角度を変えるなり方法はありそうである。そもそも、建て替えの機運が起こってもおかしくない。

しかし、アメリカではそういう声はとんと起こらないのだ。ホームランがたくさん出ては困るということで、一応高い壁を設けてはいるが、二塁打が量産されることは平気である。ボストン、そしてアメリカのファンはこれを喜んでいるのだ。

MLBには他にも不思議な球場がいくつかある。外野の壁一面にツタが生い茂り、ボールがまぎれこむと二塁打になる球場、外野の一部が上り坂になっている球場、外野の壁面がのこぎりの刃のようにギザギザになっている球場。

中にはヤンキー・スタジアムのように形状が修正された球場もあるが、多くの変わった形の球場は、そのままの形で使われている。ファンも平気だし、選手も文句は言わない。「それが伝統だ」と喜んでいる節もある。

セイバーメトリクスだなんだとデータ野球全盛のMLBだが、肝心の競技場は理不尽な形のまま。データを計測するにはあまりにも不正確だ。



思い浮かぶのは、ゴルフのセント・アンドリュースゴルフ場のオールドコースだ。世界最高峰のゴルフ場と呼ばれるが、ここは「神が創りたもうたゴルフコース」と言われ、草の茂みや岩がそのまま残されている。アンジュレーション(起伏)には、手が入っていない。ゴルファーは、スコットランド特有の強風の中、この荒れ地のようなコースを攻略するのだという(実際に見たわけではないけど)。

バブル華やかなりしころ、日本にはいたるところにゴルフ場が生まれた。私もそのいくつかの販促や広告の仕事をしたが、日本のゴルフ場は、もとあった山の起伏を完全に削ってまっ平らにし、そこにあとから盛り土をして起伏を作るのだ。難しすぎるゴルフ場は敬遠されるから、コース幅もしっかり取り、極端なドッグレッグは作らないようにする。まるで「お子様ランチ」みたいなコースばっかりになるのだ。完全な人工物、という感じがした。

日本の場合、野球場も同様である。インフィールドも、ファウルグランドも左右対称。両翼の長さもほぼ100m。外野のふくらみは球場によって差があるが、少なくとも左右の打者で不公平が出ないように作ってある。そして形状に関係はないが、たいていは人工芝である。

欧米人は、それが「伝統」だと認定すれば、多少不合理でも、不公平でも、それを尊重してそのまま使い続ける傾向があるのではないかと思う。それに対して日本人は、自分たちにとって使い勝手が良いように、すべてを平らにならして人工物にしてしまう傾向があると思う。

「人工物の野球場」で野球をしてきたダルビッシュにとって、フェンウェイはあり得ない球場なのかもしれない。なぜ、こんな球場が今も使われているのか、と思っているかもしれない。
しかしMLBではそれを乗り越えてこそ一流の投手だ。あのペドロ・マルチネスは、この変な球場を本拠にして歴史に残る快投を演じたのだ。

ダルビッシュが今、苦しんでいる四球病や、不安定な投球も、せんじ詰めればこうした「日米の野球観」の差に帰結するのかもしれない。
NPBの常識では手を出してくれる球に、MLBの選手たちは手を出さない。そしてとんでもない球を打ったりもする。
ダルは、NPBの野球の先入観を拭い去らない限り、不振から脱出できないのではないか。

ダルが降板した後、どんどんストライクを先行させ、直球だけでアウトカウントを稼いでいた田澤純一=彼はNPBの野球を知らない を見るにつけ、そんな思いがする。

日米の野球文化の溝は意外に深い、だから面白いともいえるが、ダルビッシュはその長い脚で、溝を飛び越えることができるのだろうか。

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