わずかな期間で、これほど評価が下がった選手も珍しい。マット・マートンは今、ファームで無聊をかこっている。昨日は3打数1安打だった。
Murton20120822




この選手はMLBでは、1軍半という扱いで、一時期は将来を嘱望されたが、MLBに定着することが出来ず、日本へやってきた。
ミートのうまい中距離打者。NPBで成功しそうなタイプではあった。1年目はフル出場して.349、イチローを抜く214安打のNPB最多記録をマークした。
ベンチで、NPB投手についてのメモをするマートンの姿が何度もテレビで紹介されたが、阪神は本当に良い外国人選手を獲得したと評判になったものだ。

2年目は、コーチに打撃フォームをいじられたために、春先は低迷したが、統一球で多くの打者が軒並み成績を下げる中で、後半戦には完全に調子を取り戻し、2年連続3割、最多安打をマークした。
しかし、この年5月26日、マートンは守備でひどいボーンヘッドをした。千葉ロッテ戦で、アウトカウントを間違えて、捕球した右飛をスタンドに投げ込んだのだ。
このときは沼沢正二球団本部長が、マートンを「事情聴取」。南球団社長からは「本人は大反省していた」というコメントが出された。

このころから、集中力に欠けるプレーがしばしばみられるようになり、新聞にはマートンに対する否定的な記事が載るようになった。
そして今年、打率は春先から低迷、凡打して一塁に全力で走らなかったり、緩慢な守備でピンチを招いたりするケースが多くみられるようになった。

そして、8月17日のヤクルト戦、緩慢な左翼守備で二つの飛球を安打にしたマートンを和田監督は試合途中にベンチに下げた。そして試合後のミーティングで、マートンを叱責した関川外野守備走塁コーチと口論になり、マートンは選手登録を外され、二軍落ちしたわけだ。

MLBで将来を嘱望されながら、肝心な時に結果を残さなかったことを見てもわかるように、神経は太い方ではなかったのだろう。まじめで熱心だが、思い込みが強く、柔軟な思考ができなかったのは事実だろう。
日本に来た当初、大活躍をしてファンに受け入れられたときは良かったが、打てなくなったりボーンヘッドをして非難されたりすると、気持ちが萎縮して、負のスパイラルに陥るようなところがあったのだと思う。
しかし、同時に「日米の文化の差」「責任の取り方の違い」が、マートンをかたくなにしたことも考えられると思う。

今年の5月21日、4回5失点で降板したテキサス・レンジャーズ=TEXのダルビッシュは、ベンチに戻るとロン・ワシントン監督に「Sorry」と誤った。すると指揮官はダルに「野球ではこういうときもある。絶対に謝るな」といったという。
アメリカでは、MLB選手は一個の野球人として尊敬を受ける。ダルがわざと打たれるような投球をしたのならともかく、頑張ったうえで失敗したのなら、それを謝罪する必要はない。ダルは教育課程の若者ではなくMLB選手だ。反省は自分自身ですればよいのだ。また逆に言えば、謝罪したところでダルの責任は軽くなるわけではない。指揮官は、その選手を使うことが不適切だと思えば、黙ってレギュラーやローテーションから外せばよいのだ。

自己責任が徹底された社会ならではの考え方だ。見方を変えれば、非常にシビアでもある。

日本では、失敗をした選手を監督やコーチが叱責することはふつうである。コーチなどはそれが仕事のような面もある。また、失敗した選手がチームや指揮官に謝るのも普通だ。
しかし、それは一個の完成された野球人であるMLBプレイヤーにとっては、屈辱と映っているかもしれない。済んだことであり、わざとではない過失について謝罪するのは、理解できないことかもしれない。

日本という国は、基本的に同質社会であり、同じ顔ぶれが角を立てることなくずっと仕事をするのがベースだ。失敗をして謝るのは、円満に仕事をするためのマナーだろう。
しかし、諸事実力の世界であるMLBでは、失敗はした時点で「謝って済む問題ではない」し、結果責任が軽くなるわけではない。

昨年春先から、マートンはコーチにフォームをいじられた。また、ミスをすると指導者やフロントから叱責を受けた。これは、完成された野球人としては屈辱だったかもしれない。そういうことが積み重なって、「ここは俺のいる場所ではない」と思うようになったのかもしれない。

阪神という球団は、負けが込むと犯人捜しをし始める悪癖がある。マートンなどはスポーツ紙に「A級戦犯」の名前が躍る日が近いだろう。つまらないことである。

マートンの数字の下落、失策は、間違いなく本人の責任だ。日米の文化の差を乗り越えられなかったことも、自身の線の細さゆえだ。

しかしながら、NPBの各球団も、もう少し外国人選手の使い方が上手になっても良いと思う。

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