記録で話すサイトではあるが、印象で話したい。昨日もワールドシリーズを見ていたが、強打者の打球が野手の正面を突くケースが非常に多かったように見えた。
MLBの内野手は極端に守備位置を変えることが多い。遊撃手が二塁を越えて守ることもあるし、二塁手が二塁にふれんばかりの位置で守ることもある。
そしてしばしば、その正面に打球が飛ぶのだ。
これは、偶然ではないだろう。打者に合わせてシフトを敷いているのだろう。
シフト自体は古典的な戦術だ。王貞治の王シフトなど、流すことがほとんどない王の打撃に合わせて、右側に野手陣が寄るというものだが、MLBで今やっているシフトはそのレベルではない。投手がこのゾーンに投げ込めば、Aという打者はこのあたりに打球を飛ばす、ということが精細に調べられていて、野手はそこにあらかじめ控えているという感じだ。
イチローの打席でも、会心の当たりが正面を突いたり、「あ、これは内野安打だ」と思える当たりが捕球されたりすることも多い。
恐らくは、外野手も含めて、イチローの打球が飛ぶエリアへの対策は尽くされているのではないか。
セイバーメトリクスは、「記録マニアを喜ばせる」という領域を超えて、MLBのさまざまな領域で活用されている。


選手の評価や将来性の予測に使われているのは良く知られている。WARなどがその代表的な数値だ。選手のデータをより高い精度で取るために、MLBの試合では1球ごとに記録が取られる。投球も打球も、細かく分割されたメッシュにポイントされ、その総体がデータとして集計されるのだ。
おそらく、そのデータは、各球団の戦略、戦術にも活用されているに違いない。清武英利氏の「巨魁」には、巨人GMだった清武氏がニューヨーク・ヤンキース=NYYの戦略室に案内され、細かなデータに基づいた作戦について紹介されるシーンが出てくるが、各球団はこうした形で、野球をデータ化し、試合に活用しているのだろう。
松井秀喜は2年ほど前、「MLBは毎年進化している。相手は打者を研究し尽くしている。だから、こちらも進化しないと追いつけなくなる」と語っていたことがある。
私も含め、多くの人は、これを「毎日努力しなければだめになる」的な精神論だと思っていたが、恐らくそうではなくて、そういう「情報戦、データ戦」の中に身を置いているということが言いたかったのだろう。
その手の話はMLB関連の本には結構出てきている。それもかなり以前から。しかし最近まで、私はなかなかそれが信用できなかった。しかし、ここ2,3年の試合の動きを見ていて、データ戦は実戦レベルで通用するようになってきたのではないか、と思うようになった。
162試合のペナントレースが、そういう精度にまで高まりつつあるのだとすれば、そこで活躍できる選手は、データをうまく活用できる選手、あるいはデータで捕捉できない選手ということになろう。
三冠王ミゲル・カブレラは、追い込まれるまでは大きな当たりを狙って振り回すが、2ストライクになってからは一転、流し打ちを狙うようになる。ポストシーズンでは、その巧打を見せつけたが、この選手などは、データで捕捉できない、あるいはデータを超越した選手と言えよう。
こうしてみると、MLBとNPBの差は予想外に大きいのかもしれないと思う。日本の野手、とくに内野手が活躍できない一因かもしれない。
もう一つ言えば、MLBは戦術、戦略面で大きな投資をしているはずだ。レギュラーシーズン、ポストシーズンの1試合にかけるコストは大きくなっているのではないか。WBCなどで、MLBのチームが弱いのは、選手のコンディションもさることながら、こうした情報面での施策がなされていないからではないか。
MLBの試合では、NPBならば「ここは送りだ」というところで手を打たなかったり、「併殺狙い」のはずが、その守備位置を組んでいなかったり、不可解な戦術が良くみられる。日本の解説者などは「MLBの野球は荒い」と嗤うことがあるが、ひょっとするとこれもデータに基づいているのかもしれない。その可能性が高いように思う。
ワールドシリーズもこうした観点から見ると、面白いことが見えてこよう。サンドバルが無敵のバーランダーを打ち崩したのも、フィルダーがサンフランシスコの投手陣に抑え込まれているのも「偶然」や「力」の差ではなかったのかもしれない。
私のサイトにお越しいただき、ありがとうございます。ぜひ、コメントもお寄せください!
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そしてしばしば、その正面に打球が飛ぶのだ。
これは、偶然ではないだろう。打者に合わせてシフトを敷いているのだろう。
シフト自体は古典的な戦術だ。王貞治の王シフトなど、流すことがほとんどない王の打撃に合わせて、右側に野手陣が寄るというものだが、MLBで今やっているシフトはそのレベルではない。投手がこのゾーンに投げ込めば、Aという打者はこのあたりに打球を飛ばす、ということが精細に調べられていて、野手はそこにあらかじめ控えているという感じだ。
イチローの打席でも、会心の当たりが正面を突いたり、「あ、これは内野安打だ」と思える当たりが捕球されたりすることも多い。
恐らくは、外野手も含めて、イチローの打球が飛ぶエリアへの対策は尽くされているのではないか。
セイバーメトリクスは、「記録マニアを喜ばせる」という領域を超えて、MLBのさまざまな領域で活用されている。
選手の評価や将来性の予測に使われているのは良く知られている。WARなどがその代表的な数値だ。選手のデータをより高い精度で取るために、MLBの試合では1球ごとに記録が取られる。投球も打球も、細かく分割されたメッシュにポイントされ、その総体がデータとして集計されるのだ。
おそらく、そのデータは、各球団の戦略、戦術にも活用されているに違いない。清武英利氏の「巨魁」には、巨人GMだった清武氏がニューヨーク・ヤンキース=NYYの戦略室に案内され、細かなデータに基づいた作戦について紹介されるシーンが出てくるが、各球団はこうした形で、野球をデータ化し、試合に活用しているのだろう。
松井秀喜は2年ほど前、「MLBは毎年進化している。相手は打者を研究し尽くしている。だから、こちらも進化しないと追いつけなくなる」と語っていたことがある。
私も含め、多くの人は、これを「毎日努力しなければだめになる」的な精神論だと思っていたが、恐らくそうではなくて、そういう「情報戦、データ戦」の中に身を置いているということが言いたかったのだろう。
その手の話はMLB関連の本には結構出てきている。それもかなり以前から。しかし最近まで、私はなかなかそれが信用できなかった。しかし、ここ2,3年の試合の動きを見ていて、データ戦は実戦レベルで通用するようになってきたのではないか、と思うようになった。
162試合のペナントレースが、そういう精度にまで高まりつつあるのだとすれば、そこで活躍できる選手は、データをうまく活用できる選手、あるいはデータで捕捉できない選手ということになろう。
三冠王ミゲル・カブレラは、追い込まれるまでは大きな当たりを狙って振り回すが、2ストライクになってからは一転、流し打ちを狙うようになる。ポストシーズンでは、その巧打を見せつけたが、この選手などは、データで捕捉できない、あるいはデータを超越した選手と言えよう。
こうしてみると、MLBとNPBの差は予想外に大きいのかもしれないと思う。日本の野手、とくに内野手が活躍できない一因かもしれない。
もう一つ言えば、MLBは戦術、戦略面で大きな投資をしているはずだ。レギュラーシーズン、ポストシーズンの1試合にかけるコストは大きくなっているのではないか。WBCなどで、MLBのチームが弱いのは、選手のコンディションもさることながら、こうした情報面での施策がなされていないからではないか。
MLBの試合では、NPBならば「ここは送りだ」というところで手を打たなかったり、「併殺狙い」のはずが、その守備位置を組んでいなかったり、不可解な戦術が良くみられる。日本の解説者などは「MLBの野球は荒い」と嗤うことがあるが、ひょっとするとこれもデータに基づいているのかもしれない。その可能性が高いように思う。
ワールドシリーズもこうした観点から見ると、面白いことが見えてこよう。サンドバルが無敵のバーランダーを打ち崩したのも、フィルダーがサンフランシスコの投手陣に抑え込まれているのも「偶然」や「力」の差ではなかったのかもしれない。
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コメント
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彼の打席ではSSがセカンドベースの後ろに守るケースが多く、ピッチャー返しでセンター前に抜けそうなゴロがSSゴロになっていた。
松井のケースにもみられるように左打ちのプルヒッターはライトゴロに近いセカンドゴロもありましよね(BOSのオルティーズとか)。
エントリで紹介されている『セイバーメトリクスリポート1』。あの執筆陣が先日『セイバーメトリクスマガジン1』を上梓しています。その中で、FIELD f/xは聞いたことがあったものの、お恥ずかしながらCOMMAND f/xなる単語に初めて遭遇しました(苦笑) いわく「投手がボールをリリースする瞬間の捕手のミットの位置と、実際に捕球した位置とをそれぞれ把握し比較することで投手の制球力を評価する」という映像解析を用いた評価システムのようです。
へえーとびっくり。実は同様の試み、今季、私も何度か試みたことがあります。来季は楽天戦144試合全球で記録をとってみようかしようかしら?と、止めたほうがいい妄想を抱いているところです(笑)
端的に言えば、MLB勢がWBCのような短期決戦で力を発揮できないのは、それこそ「マネー・ボール」にも書かれていたことと同じで、短期決戦では運に左右されることが多いので、データの確度が下がってしまうからでしょう。
以前、イチローの打撃不振について、打球方向が相手に読まれていることも不振の一因であるかのようなエントリーを見た記憶があるのですが、その裏付けになるかもしれませんね。
そしてMLBのアスリートたちは、そのデータも乗り越えていくのでしょう。
NPBは、どうなのかと思います。
子供の頃、王シフトは広島がマツダのコンピューターを使って分析した結果始められた、みたいに書いてある本を読んだ記憶があるのですが、これは本当なのでしょうか?
>王シフトは広島がマツダのコンピューターを使って分析した結果始められた
やばいゼ!
子供の頃に良く漫画ネタでありましたね。
Windows98も出てない頃の重版コミックでも載ってたwww
ネタ的時期的に見てSFCより劣ってる時代のPCで
何が分析できたのか興味がわいてきましたwww
やばいゼ!
今のverのエクセル、パワ-ポイントも動かないんだろうなwww
てか楽勝でしょ?
ずっと同じチームで他に良いバッターがいないとかなり不利かも。
短期決戦は「偶然」なような気もしますけどね。でも、あまり研究されなさそうな選手がMVP取ったりする場合が多いのは、そういう意味なのかな?
漫画に出てくる当時のスパコンに情報を送るスパイ(今はスコアラ-)は
必ずサングラスで黒服wしかもズ-ム機能も無いビデオカメラw
あれは広島だったのかな?
多分、当時の分析ならアウトロ-に投げたらこの打者は流すとか程度だったんじゃないですかねぇ~?
僕がPCを始めた頃は300GHzでしたから・・・。
当時のスパコンって・・・当時の広島ってスパコン買えたのwww
NPBはどうなんでしょうね!?
相変わらず勘ピューターに頼っているように思えますけど。
NYを完膚無きまでに叩き潰したタイガースが手も足も出ない様はNYの選手が一番ショックなのでは?
ここからの見所は本拠地に帰ったタイガースが直接対決の「情報」を上手くアウトプット出来るのか?
…アレっ、今日も負けてる。
まぁタイガースには野武士西鉄の様な雰囲気があるので三連敗からの四連勝も無くはない。
しかしボーグルソン、コントロール良くなったなぁ…、外角なんて最高。
それにしても与田。
実況アナ無視して、青木に質問し過ぎ。
WBC見込んで思考引き出したいのか…。
青木の逆質問には笑ったけど。
そういえば、仁志はセカンドでの守備位置変更を積極的に行っていたけど、投手から迷惑だという意見や、あれはスタンドプレーだという意見も多かったような。
裏目に出れば余計なことをという話になりがちだから(笑)、個人ではなくチームぐるみでやる必要があるのでしょうが。
それで真正面でキャッチあれて非常に苦々しい思い出が・・・
あれは天才選手の勘だったのでしょうか。
バレンティンのように露骨に穴がある選手がそこそこ打ててしまえるのは、NPBではスカウティングレポートの強制力が弱く、選手個々の判断がある程度尊重されているのではないか、と想像できます。実は「組織野球」「管理野球」と言われるNPBの方が、球団方針の徹底性が弱いのではないでしょうか。
「マネーボール」に、「選手の知性は、高すぎても低すぎてもダメだ」という下りがあります。これはつまり、選手に球団の方針を理解できる程度の知能を要求し、逆に球団方針を逸脱するほどの研究力は求めていない、という事だと思います。つまり戦略を考える管理職と、それを実践する選手との徹底した分業化です。実にアメリカ的な発想と言えるでしょう。
近年AAAから日本に来る選手は、「真面目」「よくメモをとる」と報道される例が多い。アメリカの選手は、すでにデータ野球に慣れきっていて、データがあって当然なのでしょう。もしかしたら、球団から提供されるデータが不十分なため、自主的にデータを集めているのかも知れません。
MLBとNPBの差は、経営力、選手の身体能力、そして情報化。この3つが大きいと思います。その中でも、一番差を詰められそうなのが、この情報化でしょう。巨人の圧勝をきっかけにして、情報化の流れが進めばいいと思います。