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5月11日、スポーツニッポンの電子版にこんなおわびが載った。
イチロー選手の記事に関するおわび
【おわび】当サイト上で5月9日に配信した「イチロー、三塁守備は?『ややこしい打球きたらたまらん』」の速報記事は初出時、イチロー選手が三塁守備を「拒絶した」とする内容、及び見出しになっていましたが、これは事実ではありませんでした。イチロー選手及び関係者、さらにファンの皆様には大変ご迷惑をお掛け致しました。おわびして訂正いたします。
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記事の中身は他愛のないものだ。
ロッカールームで三塁守備の話題が出て、「ややこしい打球きたらたまらん」とイチローが話したというもの。他紙でも報じられた。
スポニチの記事も概ね穏当なものだったが、「『あんな場面で勘弁してください。ややこしい打球きたらたまらん』と苦笑いしながら“拒絶”していた」と書き、ネットの記事になったときには「三塁守備を拒絶」というきつい見出しが使われたのだ。

その記事はのちに修正されたが、恐らくイチローサイドが厳重に抗議をしたために、おわびの告知をしたということらしい。

イチローは、この記事がきっかけで「起用法に不満を持っている」という風評が立つことを恐れたのだろう。日本ではなく海外でプレーしているイチローにとって、周囲に誤解を与えかねない報道には、些細であっても神経をとがらせているのだ。

タレントが記者会見でちょっと涙を見せると「号泣」、芸人が少し真剣な顔で抗議をすると「激怒」。
どうでもいいことを大げさに表現する、この手の安易な見出しは、ちょっとスポーツ紙をめくれば、いくらでも見つけることができる。
また、インターネットもアクセスを集めるために、刺激的な見出しを掲げる傾向が強い。スポーツ紙、ネット、二つのメディアの“体質”が相まって、この見出しになったのだ。

イチローが冗談半分で「三塁守備はごめんだ」と発言したものを「拒絶」と書くくらい、スポーツ紙的にはなんでもないことだっただろう。

スポーツ新聞の“言語感覚”には、首をかしげたくなることが多い。

MLBの短信記事などで、クローザーが救援に失敗し、裏に味方がサヨナラ勝ちして、白星が転がり込んだケースに「○○投手、今季初白星」。

WBCで田中将大が先発投手から中継ぎに回ったことを「降格」。この表現は数紙に載った。上原浩治がtwitterで抗議していたが、反応したメディアはなかった。イチローと上原のステイタスの差があるのだろうか。

元の監督の前で選手が活躍すると、「恩返し」。死球禍の後の試合は「遺恨」。事実関係はそうなのかもしれないが、馬鹿の一つ覚えでこういう見出しが躍るのを見ると、何も考えていないのかと思う。

記事の見出しは取材記者ではなく、整理部の記者がつけるのが普通だ。多くの情報を処理するから、流れ作業的に見出しをつけるのだろうが、その精度、クオリティの低さが、スポーツ新聞の信頼感を著しく損なっていることを認識すべきだと思う。

スポーツ紙に比べれば影響力は取るに足らないが、ブログを書くうえでも見出しは重要である。見出しひとつでPVが違ってくる。しかし、内容にそぐわない見出しを掲げると、すぐにきついコメントが返ってくる。炎上することもある。ブログが他のメディアにピックアップされるときに、どぎつい見出しが付けられることがあるが、そういう場合もブログに直に抗議が飛び込んでくる。
スポーツ紙の場合「これくらいのことは言うだろう」と受け手が諦念を持っている感があって、そういう声が反映されにくい。
言い方を変えれば、スポーツ紙の報道には、世間はもはやあまり期待をしていないとも言えよう。

誰でもただで情報発信ができるご時世である。定番メニューではなく、精度があり、鮮度感のある記事、見出しを発信しないと、スポーツ紙はますます埋没するだろう。

もう一つ、今回の謝罪記事が「イチロー選手及び関係者、さらにファンの皆様」となっていることも看過できない。
スポーツ紙もプレスの一員である限り、「Free Press=報道の自由」の守り手であるべきだ。今回のような与太記事は、取材源に謝罪しても仕方がないと思うが、本来、報道は「読者のために」「取材源が嫌がることも報じる」姿勢を持つべきだ。

取材拒否をされては困るから、と平身低頭するような新聞は、広告チラシと何ら変わらない。書いたものに責任を持つとともに、たとえどんな大物から抗議をされても、一歩も引かない気概をもたなければプレスとは言えない。
プレスパスをもって、一般人が行けない場所に踏み込んでいく特権は、提灯記事を書くためにあるのではない。

謝罪すべきは、まず読者であるはずだ。いい加減な記事を書いて信頼を損なったとすれば、その対象は読み手である。そのことを最重要視しないのは報道機関として失格である。

小さな記事だが、今のスポーツ紙の問題点が凝縮されていると思うので、取り上げた次第。



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