今年の選抜高校野球に長野県の地球環境高等学校が選ばれた。この学校は通信制だ。
生徒は月2~3回あるいは半年に7日間スクーリング(面接指導)のために、佐久市にある学校に行かなければならないが、あとは在宅になる。
家では予備校衛星放送によるサテライト学習や、レポートの作成などをする。またNHK高校講座を受講して報告をすれば、それもスクーリング回数に認められる場合がある。基本的に時間の使い方は自由。一般の生徒はアルバイトをしている。
学費は1単位9000円。一般の高校よりも安い。他の学校をドロップアウトした場合は、前の学校の単位がそのまま認められる。

格差社会と言われる中、有名私学に入り塾や家庭教師に行かせてもらい、いい大学を目指す生徒がいる一方、教育費が捻出できず高校に通えない生徒もいる。また学生生活になじめず、ドロップアウトする生徒もいる。通信制高校は、そうした生徒たちにとっては現実と未来に折り合いをつけることができる、ありがたい存在だ。
しかしながら、通信制高校はその性格上、時間的な縛りが通常の高校よりも極端に少ない。地球環境高等学校は、そのメリットを活かしてスポーツクラブの活動を積極的に行っている。

wikipediaによると、最初はサッカーだった。有力な指導者が監督となり、全国から有望な選手を集めて寮に入れて、朝から晩までサッカー漬けにして、1年目から長野県大会で優勝したのだ。これに味をしめた学校は寮を拡張して生徒を大量に募集したが、指導者と学校側がもめて指導者が退職。サッカー部は今、下火になっている。

野球部は、これと全く同じやり方で強化された。全国から中学生を集めただけでなく、他校から中退して入ってくる生徒もいるようだ。

これは、通信制高校の本義とはかけ離れている。要するに高校生の皮をかぶったセミプロ選手を養成しているのだ。他の学校よりも強くなるのは当たり前だ。

このやり方はお隣の韓国の高校野球では一般的だ。韓国には野球部のある高校は100校ほどしかないが、野球部に入った高校生は原則として授業を受けず、朝から晩まで野球をする。父兄もそれを承知で子供を学校にやる。生徒たちは卒業後そのままプロに行くか、同じく野球漬けの大学に進んでプロを目指すのだ。それ以外の目的は一切ない。去年まで千葉ロッテにいた金泰均や今年オリックスに来る李大浩などはそうして野球選手になった。

日本では、こうしたやり方はなかなか馴染まない。

通信制で勉強もしながら仕事をしている若者が、時間をねん出して野球に励み強くなったというのなら、何も問題はない。普通の高校生よりもハンデがある通信制高校に通いながら、よく頑張った!ということになるだろう。そうではなくて、実態は野球しかしていない若者たちが甲子園に出場する、これが問題なのだ。

高野連や新聞社は、社会的なハンデがある相手に対して極端に弱い。「建前上はこうなっているが、本当はこうじゃないか」と切り込むことが出来ない。地区大会の実績だけを見てずるずると承認に至ったのだろう。

これが許されるとなれば、全国の通信制高校や、通信制を併設する高校は同じことをし始めるに違いない。ボーイズやリトルリーグの指導者と結託して、セミプロみたいな野球学校を作るに違いない。
そういう意味で、今回の決断は大きいと言わざるを得ない。

国際化が進み、多くの野球選手が海外に出る中で「自己管理ができること」「自分の考えをはっきりと言えること」「自分で決定できること」は、ますます重要になってきている。

MLBに挑戦する日本人選手が成功するか否かの鍵は、能力に加えてこうした「聡明さ」が大きいように思える。この「聡明さ」は野球漬けの学校では身につけることは難しい。本を読んだり、野球とは関係ないことを学んだり、一般の生徒や大人と交わることから得ることが多いのだ。

ダルビッシュ有や中田翔、田中将大などの選手は高校までは野球漬けだったが、プロに入って、レベルの高い選手や指導者、一般の人と交わることで、聡明さを身につけていったようだ。しかし、そうならない選手も多い。意識レベルが高校時代のままの選手も多いのだ。
今の時代、小学校高学年から指導者の言いなりになって野球だけをし続けて大人になったような「野球バカ」では、一流選手にはなれないのだ。

イチローは糸井重里との対談で、
「野球がうまくなりたかったら、できるだけいい道具をもってほしい。そしてしっかりとグラブを磨いてほしい」という言葉とともに
「宿題を一生懸命やってほしい」
と語っている。含蓄のある言葉だ。



「文武両道」という高校野球の看板は、高野連の物置で埃をかぶっているのだろうか。

私のサイトにお越しいただき、ありがとうございます。ぜひ、コメントもお寄せください!