2009328日「MLBをだらだら愛す」掲載過去記事】

20090327-05

8回の神戸の攻撃、三塁側のベンチ前で、一度はキャッチボールをしだした先発西川が引っ込んで、吉田が現れた。三塁側の観客は雪崩を打つように前に集まり始めた。キャッチボールの最初の一球もアンダースローだった。ゆっくりと、立ったままの捕手の若林のミットに投げ込んでいく。捕手が取り損ねた球があったが、ナックルがかかっていたのだろうか。

8回まで神戸の西川は大阪を零封している。彼は、四国アイランドリーグの高知ファイティングドッグの主戦級であり、球速はないがスライダー、カーブを巧みに操って大阪打線を寄せ付けていなかった。監督の中田は、西川に開幕戦完封と言う金星をあきらめさせてまで吉田を投入した。チーム内がぎくしゃくしないだろうか、と思ったが、ベンチ横で吉田は西川にアドバイスを受けていた。チームも彼女を盛り上げようとしているのだ。

マウンドへ、本当に小さい。プレートから歩幅を何度も図ってマウンドを削っている。監督やコーチから教えられたことを一生懸命に実行しているという感じだ。

日本のプロ野球史上に初めて女性が登場した瞬間である。先頭打者、平松への第1球は、ナックルがインコースに外れた。そして立て続けに4球コースを外れて平松を歩かせる。たまらずナインと中田監督がマウンドへ。ここで降板の予定だったようだが、吉田は続投を希望。続く代打古屋へ投じたのは99km/hのど真ん中の“速球”。ナックルを交えて最後は高めのボール球を振らせて三振に打ち取った。中田監督がまた小走りにマウンドに駆け寄り、抱きかかえるように投手交代。本当に腫れ物に触るような扱いだった。

今後、彼女は戦力となるのか、客寄せパンダのままに終わるのかは不明だが、まずはめでたしというところか。

マウンドを受け継いだ小園は、北陸のBCリーグの開幕戦でも投げている投手。怪我を克服した苦労人だが、140km/h超の小気味よい速球で簡単に後続を断ってゲームセット。

何となくおとぎ話のような試合を見たと思った。現実の厳しい社会にもまれながらも、何とか生き延びてほしい。

■後日談:吉田えりは、いわば野球界のファンタジーだ。大阪のブレスなど、真剣に女子野球をやろうとしている女子とは違う次元だが、つぶれないでほしい。