結論から言えば、統一球の仕様変更は事務局が主導した。しかしそのプロセスは異様としか言いようがないものだった。
統一球導入によって、本塁打数は2010年の1605本から939本へと激減した。2012年にはさらに879本にまで減少している。
2011年オフの時点で、球団、選手は、公式球が、低反発であることには、否定的な意見が大勢を占めた。
翌年4月24日、日本プロ野球選手会は、野手側からだけでなく投手側からも統一球の見直しを望んでいる、との申し入れを行った。
NPBのG総務部次長は、この時期から統一球の仕様変更の必要性を感じ、(平田総務部長と言う存在はあったが)実質的な直属の上司だった下田事務局長とも相談して、ミズノに試作球の製造を依頼した。
試作球は5月には完成した。
しかしこの時期、加藤コミッショナーはG次長に対して「飛ばないからと言って飛ぶボールを変えれば打者の技術の進歩を妨げることなる」と話した。これを受けてG次長はミズノに統一球の仕様変更をいったん凍結するように指示した。
この時期のセリーグ社長懇談会で「(仕様変更を)公には変えたと言わずに、芯を変えてはどうか」という意見が出ていた。
2012年に入って、一般財団法人日本車両検査協会によって、統一球の反発係数の検査が行われていたが、3月30日の0.409から8月にはさらに下落して0.406となり、最も高いデータでも0.412と下限値を下回った。つまりこの時期の統一球は、すべてが両リーグのアグリーメントに照らして「不正球」になっていた。
下田事務局長はこの事態を憂慮し、統一球の仕様変更を再度進める決意をした。
下田氏は、事務局で独自に(勝手に)仕様変更の作業を進めることにした。その際の基本方針として
1.各球団から変更する、しないを明言しないで「一任」をとりつける。
2.選手が気づかない程度の仕様変更とすること
3.公表しないこと
を決めた。そして下田事務局長はミズノにゴム芯を変えて統一球の反発係数を上げるように指示をした。
2012年10月27日、NPB機構の理事会が開かれたが、加藤コミッショナーが日本シリーズの公式行事のために席を立つと、下田事務局長が統一球の仕様変更について「事務局一任」とする旨の提案を行った。
この席上では
「黙って変えちゃうのが一番いい」と言う意見が出た。
また
「漏らすなと言っても漏れる」
と言う意見も出たが、結論は先送りとなった。
しかし、ミズノによる統一球の仕様変更は続けられた。
11月になって、広島、楽天が統一球に対する意見書を提出。
巨人、阪神、ソフトバンク、オリックスが「見直し必要」。なかでも巨人は2013年から「新基準による統一球」を使うことを強く訴えた。
広島は両論併記、楽天は現状維持と言う意見だった。
セパ両リーグで統一球の仕様変更に関して、意見調整が行われたのだが、最も重要な部分がすべて伏字になっている。報告書のP46。
ただセリーグが
「ア セ・リーグによる非公表方針」と言う見出しがついているのに対し
パリーグが
「イ パ・リーグ各球団の認識」となっていることで、両リーグの認識の差をうかがうことができる。
セは、統一球を仕様変更し、その事実を非公表にすることが既定の方針として了承されたのだ。しかしパは、意見がまとまらなかったのだろう。
12月10日、セリーグ理事会が開かれてこの席上で「何らかの(伏字なので分からない)報告」がされた。
さらに同日、引き続いて加藤コミッショナーが議長を務めて12球団による実行委員会が行われ、席上、下田事務局長から「事務局一任」の提案がなされ、決定された。
その過程は非常にあいまいだったが、その結果、両リーグの球団は、以下のような奇怪な認識を持つにいたった。
セリーグ球団は理事会での報告に基づいて「統一球は仕様変更する」方向で事務局に一任したと受け止めた。
パリーグ球団は、「仕様変更を行わない」方向で事務局に一任したと受け止めた者もおり(報告書の表記のまま)、それを前提として球場の改修工事を実施した球団もあった(Kスタ宮城球場の両翼、左中間、右中間を1m前にせり出した楽天のことと思われる)。
2013年の開幕の時点で、少なくともセリーグの球団首脳は、統一球の反発係数が変わっていることを知っていたことになる。これが監督や選手にまで知らされていたかどうかはわからないが。


肝心の部分が伏字になっているのでよく分からないが、NPB事務局はセリーグ理事会に対しては担当部長が何度も報告を行い、理事会の意見を持ち帰っていた形跡がある。しかし、パリーグ理事会には何の報告もしなかったようである。
その結果として両リーグの情報格差が生じていた。
それだけでなく、統一球の仕様変更に際して、セリーグの意向が反映された可能性もある。さらに言えば仕様変更を「非公表」にしたことも、セリーグ側の意向に拠ったのではないかとも思える。
伏字の部分は、「公表しては都合が悪い」事実があったことを物語っている。
伏字のない報告書を読んだパリーグ球団側は、NPB、セリーグへの不信感を抱いたのではないかと思われる。
次期コミッショナーの選任を巡ってセパ両リーグが鋭く対立した背景には、このことがあったのではないか。
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翌年4月24日、日本プロ野球選手会は、野手側からだけでなく投手側からも統一球の見直しを望んでいる、との申し入れを行った。
NPBのG総務部次長は、この時期から統一球の仕様変更の必要性を感じ、(平田総務部長と言う存在はあったが)実質的な直属の上司だった下田事務局長とも相談して、ミズノに試作球の製造を依頼した。
試作球は5月には完成した。
しかしこの時期、加藤コミッショナーはG次長に対して「飛ばないからと言って飛ぶボールを変えれば打者の技術の進歩を妨げることなる」と話した。これを受けてG次長はミズノに統一球の仕様変更をいったん凍結するように指示した。
この時期のセリーグ社長懇談会で「(仕様変更を)公には変えたと言わずに、芯を変えてはどうか」という意見が出ていた。
2012年に入って、一般財団法人日本車両検査協会によって、統一球の反発係数の検査が行われていたが、3月30日の0.409から8月にはさらに下落して0.406となり、最も高いデータでも0.412と下限値を下回った。つまりこの時期の統一球は、すべてが両リーグのアグリーメントに照らして「不正球」になっていた。
下田事務局長はこの事態を憂慮し、統一球の仕様変更を再度進める決意をした。
下田氏は、事務局で独自に(勝手に)仕様変更の作業を進めることにした。その際の基本方針として
1.各球団から変更する、しないを明言しないで「一任」をとりつける。
2.選手が気づかない程度の仕様変更とすること
3.公表しないこと
を決めた。そして下田事務局長はミズノにゴム芯を変えて統一球の反発係数を上げるように指示をした。
2012年10月27日、NPB機構の理事会が開かれたが、加藤コミッショナーが日本シリーズの公式行事のために席を立つと、下田事務局長が統一球の仕様変更について「事務局一任」とする旨の提案を行った。
この席上では
「黙って変えちゃうのが一番いい」と言う意見が出た。
また
「漏らすなと言っても漏れる」
と言う意見も出たが、結論は先送りとなった。
しかし、ミズノによる統一球の仕様変更は続けられた。
11月になって、広島、楽天が統一球に対する意見書を提出。
巨人、阪神、ソフトバンク、オリックスが「見直し必要」。なかでも巨人は2013年から「新基準による統一球」を使うことを強く訴えた。
広島は両論併記、楽天は現状維持と言う意見だった。
セパ両リーグで統一球の仕様変更に関して、意見調整が行われたのだが、最も重要な部分がすべて伏字になっている。報告書のP46。
ただセリーグが
「ア セ・リーグによる非公表方針」と言う見出しがついているのに対し
パリーグが
「イ パ・リーグ各球団の認識」となっていることで、両リーグの認識の差をうかがうことができる。
セは、統一球を仕様変更し、その事実を非公表にすることが既定の方針として了承されたのだ。しかしパは、意見がまとまらなかったのだろう。
12月10日、セリーグ理事会が開かれてこの席上で「何らかの(伏字なので分からない)報告」がされた。
さらに同日、引き続いて加藤コミッショナーが議長を務めて12球団による実行委員会が行われ、席上、下田事務局長から「事務局一任」の提案がなされ、決定された。
その過程は非常にあいまいだったが、その結果、両リーグの球団は、以下のような奇怪な認識を持つにいたった。
セリーグ球団は理事会での報告に基づいて「統一球は仕様変更する」方向で事務局に一任したと受け止めた。
パリーグ球団は、「仕様変更を行わない」方向で事務局に一任したと受け止めた者もおり(報告書の表記のまま)、それを前提として球場の改修工事を実施した球団もあった(Kスタ宮城球場の両翼、左中間、右中間を1m前にせり出した楽天のことと思われる)。
2013年の開幕の時点で、少なくともセリーグの球団首脳は、統一球の反発係数が変わっていることを知っていたことになる。これが監督や選手にまで知らされていたかどうかはわからないが。
肝心の部分が伏字になっているのでよく分からないが、NPB事務局はセリーグ理事会に対しては担当部長が何度も報告を行い、理事会の意見を持ち帰っていた形跡がある。しかし、パリーグ理事会には何の報告もしなかったようである。
その結果として両リーグの情報格差が生じていた。
それだけでなく、統一球の仕様変更に際して、セリーグの意向が反映された可能性もある。さらに言えば仕様変更を「非公表」にしたことも、セリーグ側の意向に拠ったのではないかとも思える。
伏字の部分は、「公表しては都合が悪い」事実があったことを物語っている。
伏字のない報告書を読んだパリーグ球団側は、NPB、セリーグへの不信感を抱いたのではないかと思われる。
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コメント
コメント一覧
『特定球団の関与』という超ド級の新たな疑惑が第三者委員会によって示されたのに当初の統一球問題の時にはあれほど大騒ぎしたマスコミ各社が一転静観。
まるで『今更…、そんな事知ってました』とばかりです。
こういう事を予想していて桑田真澄は加藤Cを油断させるかのようにあえて持ち上げ(胸元真っ直ぐを投げ込み)仰け反らせていたのかなぁ。
この新事実は大問題で「ボール変更認知者」がNPB事務局だけで無く、各社球団関係者にまで広がると本当に『黒い霧』レベルのスキャンダル。
(正直日本シリーズどころじゃない事態)
ここにきて声を挙げない球界関係者に未来は無いと思う。
この「統一球問題」をキッカケにしてNPB改革が前進する事を願うばかり。
なお疑問符が付くのは何故『1社独占発注』が果たしてそれは妥当だったのか?という事。
無論、コストと品質という両条件をクリアして発注・受注したのでしょうが、品質が揺らいだ時点で1社独占の優位性は崩れ去り隠蔽対策のし易さが浮き彫りになる。
(そもそも1社独占にしなければアグリーメント違反のミズノ球が使用球から外されただけで統一球問題なぞ発生しない。)
この報告書、私もざっくりとではありますが、読みました。
細かい点を申し上げると、まずG次長は井原次長ではないと思われます。報告書の49ページに井原次長の名前が出てきますが、彼は下田事務局長の「事務局一任」発言が仕様変更だという認識はなかったと言っています。これは、ミズノに低反発ゴムの仕様変更を直接電話で指示したG次長と同一人物の発言とは到底思えません。もしG次長が井原次長なのだとすれば、彼は報告書作成のヒアリングに対して嘘を言っているとしか思えません。
また、セ・リーグ球団首脳が開幕前に反発係数の変更を知っていたと断言するのも早計かと思います。変更されているかもしれないなという可能性は感じていたかもしれませんが、最初から事実を完全に把握していたかどうかはこれだけでは証明できないと思います。
P48に
セリーグ球団は社長懇談会の内容を前提として理事会に臨んだため、「統一球は仕様変更する」方向で事務局に一任したと受け止めた者が多かった
と書かれています。どこまで事前に情報を知らされたかはわかりませんが、仕様変更とはこの場合、反発係数の変更以外には考えられないと思うのですが。
それとも、事務局に一任した結果が自分たちの思惑(反発係数の変更)通りになるという確信が別にあったのか、あるいはそれ以上の決定的な証言を別方面で得ていたということであれば、話は別ですが、この報告書では伏字の部分が多かったこともあり、そこまで確認できるとは思えませんでした。
G次長は井原氏ではないですね。読み間違えました。修正します。
今回の件も、歴史は繰り返すですね。
本来なら、日本シリーズを中止すべき事態なのに。
相撲界は、不祥事を受けて場所を中止しました。
こうみると、マスメディアは日本シリーズも中継しない、という良識さえもないのですね。
こんなうやむやで、東京五輪に野球を言われても、
良識すらない競技は五輪から除外されて当然と欧州人に言われても仕方がないですね
とすれば、あの会見での加藤コミッショナーの憮然とした表情にも納得行きます。
報告書に書いてあるのは、「セリーグの実行委員は統一球変更の意味での『事務局一任』と受け止めた者が多かった」というだけです。
これが「開幕前に知っていた」となるのは、ロジックの飛躍というか、言葉の使い方が少し雑なように思います。
「仕様変更の可能性を認識していた」のは事実でしょうが、それと「知っていた」というのは全く違うことです。
また、パリーグの実行委員についても、「仕様変更を行わない方向で事務局に一任したと受け止めた者もおり」ということですから、逆に言えば、仕様変更と受け止めた者もいたわけですから、パリーグの一部球団も開幕前に統一球の仕様変更を「知っていた」ということです。
そもそも、報告書49ページに、「事務局が統一球を現状のまま維持することのために、紛議のリスクを冒してまで、事務局一任取り付けを提案することは通常はありえない」という趣旨のことが書いてあるとおり、事務局が「事務局一任」を提案するということは、普通に考えれば、仕様を変更することを意味するわけです。
そう考えても、パリーグの球団も、変更を事前に「知っていた」ことになってしまいますね。
記事の書きっぷりが、「悪のセリーグ、被害者のパリーグ」という方向に少し振れ過ぎているように思います。
自分が連れてきた部下なら責任は免れないでしょうが、単身で乗り込んできてあてがわれた部下の不始末であれだけ袋叩きにされたのですから。
ここ最近では一番まともでやる気のある人だっただけに惜しい人材を失いました。
同意しかねます。報告書を見れば、セリーグの球団に対しては、情報を十分に提供していたのに対し、パはつんぼ桟敷に置かれたのは間違いないところです。意図的に情報格差を付けられたのは間違いないと思うのですが。
また、パには統一球が現状維持のままだと認識して、球場を改修した球団があったと明記されているではないですか。最低でも1球団は「現状維持」だと思ったのは確実です。
12月の段階で「統一球の仕様変更については事務局一任」と聞かされれば、普通は来シーズンの統一球の話だと思うのも普通ではないでしょうか。
G3さんは「そうでない可能性もある」という点を誇張しすぎておられるように思います。
記事を読んでいて、一部わかりにくい点がありましたので。
これをいかにこれからにいかすかが何よりの問題でしょう。
日本シリーズが終わった後にでも球団や選手会がドッと問題提起を起こしてくれたらいいのですが。
申し訳ないですが、陳述書ではないのでそれはしません。煩雑になりますので。報告書と併せ読んでいただければわかると思います。
仮に加藤Cが知っていたと仮定すれば、こんな報告書は無意味では?加藤Cが知らなかったということの上に成り立っている、捏造されたものに成る