頭からこの報告書を読んだ人の多くは、ショックを受けた事と思う。日本で最も人気のあるスポーツの一つを統括する組織が、こんなおかしな運営をしていたとは。
しかし、新聞もテレビも、この報告書についてちゃんと報道していない。
この報告書から浮かび上がってくる問題はすでに4回にわたって書いたとおりだ。

1)昨年までの2年間、NPBでは両リーグのアグリーメントに記された下限値を下回る「不正球」を大量に含む「統一球」を使用していた。

2)NPB事務局は、セリーグとパリーグに異なった説明をしていたか、セリーグにだけ説明をしていた可能性が高い(情報の非対称)。さらにセリーグの意向を受けて動いた可能性もある。

3)下田事務局長は加藤コミッショナーに無断で統一球の仕様変更を進めた。またNPBの他の職員にも知らされなかった。

4)NPBは、複雑な二重構造になっており、組織としてまともに機能していなかった。

この4つはいずれも、報道に値する由々しき問題だと思うが、新聞の反応は鈍いものだった。

多くのメディアが反応したのは2点。

「公には変えたと言わずに、芯を変えてはどうか」
「黙って変えちゃうのが一番いい」

という発言者不明の発言。上はセリーグ社長懇談会、下は12球団代表者会議で出た発言とされる。これを読めば、球団側の圧力で統一球が改変されたとの印象を受けるが、それは早計だ。また、それだけが問題ではなかった。
報告書を流し読みして、目についた部分を記事にしたと言う印象だ。

もう1点は「受け入れがたい」という加藤前コミッショナーの反論

もうこの人は過去の人だ。加藤氏の発言をことさらに取り上げても仕方がない。加藤氏は無能で無責任だったと思うが、同時に今のコミッショナーの権能が実質を伴っていなかったことも事実だ。
スキャンダルっぽくなるから人目を引くのかもしれないが、この人はNPBの実態についてほとんど知らなかったのだから、内部告発も期待できない。

日本野球機構(NPB)は一般社団法人である。社団法人は、株式会社とは異なり公益目的事業を行うことが求められている(営利事業も行うが)。
NPBが行う公益目的事業は

九 教育、スポーツ等を通じて国民の心身の健全な発達に寄与し、又は豊かな人間性を涵養することを目的とする事業

だ。プロ野球はこうした目的で行われているのだ。

その主たる事業である公式戦で不正な球が使われていたこと、そして重要な事項の決定に際して不公正なプロセスがとられていた可能性があること、一部の人間によって独断専行的に業務が仕切られていたこと、さらにその背景に組織の乱脈があったことは、いずれも由々しきことだと思うのだが、新聞はそうは思わないのだろうか?

端的に言えば、今回の報告書は、NPBは公益目的事業を公正かつ公平に運営する能力があるかどうか疑わしい、と指摘しているのだ。
また、自らの問題点を客観視し、それを改革する「自浄能力」にも疑念を呈しているのだ。

このことをマスコミはなぜ問題にしないのだろうか。



新聞が毎日かくも大量の紙の束を人々にあまねく配布しているのは、テレビ番組表を届けるためでも、折り込みチラシを挟むためでも、4コマ漫画を届けるためでもないはずだ。
我々は新聞に、我々があずかり知らぬ世の中の問題点や懸念を知ることを期待している。「社会の木鐸」とは、そういうことだろう。

統一球報告書について新聞の反応が鈍いのは、「ニュースバリューがない」からだろう。
統一球問題は今年6月に派手なスキャンダルとなったが、それはもう消費してしまった。今更書いても社会の注目を集めそうにない。
また、報告書に書いてあることは、マスコミでは周知のことであり、ことさら書くようなこととは思えない。

今の新聞は「伝えるべきことを伝える」のではなく「読者が喜びそうなことを伝える」メディアへと変化している。これは「劣化」と呼ぶべきだと思う。

また、多くの分野で取材対象と癒着し、健全な批評精神を失っている。
そもそも今回の事件の当事者であるNPBの下田邦夫事務局長も共同通信の記者上がりだったのだ。また、NPBのオーナー会議には新聞社も参加している。このことが、批判の切っ先を鈍らせているのだろう。

しかし「たかがプロ野球」のことでさえ、ここまで腰が引けている新聞に、今後何を期待することができるだろう。我々の将来の指針となるような情報を提供することができるとはとても思えない。

今回の統一球に関する報告書は、一般の人間が目を通しても「異様だ」と思えるような内容になっている。それを「ニュースバリューがない」と判断するメディアは、すでに「腐っている」のではないか。

NPBは今回の報告書を受けて、理事会として「混乱は事務局長から求められるまま、統一球の取り扱いを事務局に一任したことに端を発しており、すべての球団幹部に責任があったと深く反省している」などのコメントを出した。

つまり「事務局長に任せたのが悪かった」と事態を矮小化しているのだ。
このまま看過すれば、NPBは何も変わらないだろう。

新聞がちゃんと報道しないのであれば、我々はネットで声を上げるしかないと思う。
少なくともNPBによって恣意的に施された「伏字」の解除を求めるべきだと思う。

今回の記事はここでいったん終わるが、引き続きこの問題を考え、提起していきたい。


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