昨日のオーストラリア・キャンベラと韓国・三星戦を見て思ったのは、野球における「相手を知る」ということの意味だった。
このシリーズは2か所の球場を使ってはいるが、参加チームは、同一カ所に集結している。
次の相手チームの偵察は容易だ。
いずれのチームもスコアラーに調査をさせているだろうし、テレビで相手の戦いを見ているはずだ。
キャンベラやイタリアのボローニャのように平素はなじみがなく、選手の名前も知らないチームでも、1,2試合見ればどういうタイプのチームか、おおよそ察しが付くはずだ。

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三星も、キャンベラの義大戦、楽天戦を見て、相手をそれなりに評価し、作戦もたてていたことと思う。
しかし、彼らはキャンベラを評するときに「~できない」という言葉を多用したのではないか。
「(キャンベラは)、速球しか打てない」
「しかも、ちょっと速い球は打てない(小山伸一郎の145km/hに手も足も出なかった)」
「変化球は打てない」
「大きいの(長打)は打てない」
「細かい野球はできない」
コールド勝ちだと思われた日本が苦戦したことは、当然承知していただろうが、彼らは、日本の永井怜が打ちこまれたことよりも「日本が勝った」ことに、より注目したのではないかと思われる。
「日本が勝ったのだから、我々だって勝てるだろう」
そういう意識があって、「永井と同等、いや、それ以上」の投手と彼らが目する斐英洙を先発させたのだろう。
決勝で当たるであろう楽天戦のために優秀な投手を温存させたいという意識は、十分に理解できる。

しかし、三星首脳陣は、日韓の投手力の差を頭に入れなかったものと思われる。打力において日韓に大差がないのは事実だろう。オリックスの李大浩は、統一球をものともせずNPB移籍1年目に打点王を取った。スイングの速さ、パワーでNPBの打者を凌駕していた。
しかし、投手力では大きな差がある。2009年のWBCでは韓国の多くの投手はNPB打線に全く通用しなかった。一線級の投手はともかく、二線級になると、日韓の投手は力量的に大きな差があるのだ。

韓国では二線級投手も速球で勝負しようとする。そして制球は甘めである。極論すれば、一線級投手と二線級投手は、「球速の違い」だけではないのか、と思ってしまう。

そういう投手が、ただただ速球狙いの打線に対した時の結果は、推して知るべし、ということだ。

率直に言って、三星は「相手を知る」ことも十分にできなかったうえに「自分たちを知る」ことも不十分だった。

反対に、キャンベラの選手たちは、試合前の相手チームのシートノックなどを見て、自分たちの野球のレベルの暗然としたかもしれないが、そこから徐々に自信をつけていったと思われる。
彼らは逆に、俺たちは「~できる」という言葉を共有していったのではないか。

「彼らの球についていくことができる」
「ヒットにすることができる」
「(投手も)彼らを抑えることができる」
「俺たちだって、勝つことができる」


相手を知り、自分たちとの距離を測ることで、自信を深めていったのだと思う。

昨日も書いたが、ABL(オーストラリア野球リーグ)は、MLBの肝いりで創設された。マイナーチームの扱いだから、個々の素質を伸ばすことが一番で、細かな作戦はそれほど重要視されない。だからチームとしての完成度は低いが、個々の選手のレベルは決して低くないのだ。
キャンベラには、プロスペクトになりそうな若手がいる。これにABL創設以前からオーストラリアで野球をしてきた40歳(今シリーズ最年長)のウェルズなどのベテランが混じっている。彼らは、大きなプライドがない挑戦者として、一体感を醸成していた。チームの雰囲気は非常に良いように思えた。

ここまで3試合でキャンベラは何度か「畳み掛ける攻撃」を見せた。
それは「自信の連鎖」とでも言うべきものだと思う。
難敵に対して一人が突破口を開くと、我も我もとそれに続く。もてる才能を十二分に発揮した打撃は見事だった。

斐英洙が打たれることはある程度予測していただろうが、三星は交代期を誤った。斐英洙は、1回裏、見方が同点に追いついた直後に失点した。この時点で替えておくべきだったが、投手を温存させたい意識が働いて、次の回も投げさせ、失点した。ここでWBC代表にもなった左腕車雨燦を上げたのだが、調子に乗るキャンベラ打線は、車 雨燦からも2点を奪った。
試合の流れを考えても、誠にまずかったと言えるだろう。

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キャンベラはノーエラーだったが、三星は守備でも破たんした。上から目線の野球をしていた、気持ちが弛緩していた、と言われても仕方がないだろう。
一度ゆるんだ気持ちは、試合中に締めなおそうとしてもなかなかできないのだ。

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楽天は、今日、統一と対戦する。日本が相手を侮ることはゆめゆめないとは思うが、「投げさせないが、帯同させる投手がいる」ことが、窮屈な野球につながる恐れもある。
アジアシリーズのプライオリティはそれほど高くはないだろうが、負けたダメージはそれなりに大きい。彼我の差を十分に認識し、気を引き締めて勝負してほしい。


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