ポスティング・システムについての交渉は予断を許さないが、何らかの進展もあったようだ。
報知新聞より

日本野球機構(NPB)は3日、都内で臨時の12球団代表者会議を開き、新しいポスティングシステム(入札制度)について協議した。米大リーグ機構(MLB)が主張する、入札金の上限を20億円(約2000万ドル)に抑える案を検討。上限額設定は受け入れる方向で大筋合意したが、金額については引き上げを求めて交渉を継続するとみられる。

ポスティング・システムの交渉がストップしているのは、アメリカ側の事情による。
ポスティングで獲得する選手は、FA権を獲得する以前の選手のため、MLB球団はNPB球団に入札金を支払う必要があるのだが、ダルビッシュの場合5170万ドルという金額になった。
ヤンキース、ドジャースなど金満球団はそうした金を提示する余裕があるが、パイレーツ、アストロズなど貧乏球団には手が出ない。
そうした球団が「我々にもチャンスをくれ」と言いだして、システムの改定が遅れているのだ。入札金を下げること、さらには入札金を「贅沢税」に含めるべきだと言っている。
貧乏球団の言うことはもっともな気もするが、こうしたお金のない球団は、金満球団の贅沢税の恩恵を受けているし、MLB機構から放映権料などの支援も得ている。
金満球団にしてみれば「俺たちの利益を分配してやっているのに、それを投資に活かさず内部留保している」という不満がある。
MLBでは完全ウェーバー制のドラフトによって、その年最も有望な選手は最も弱い球団に入るのが当たり前になっている。弱小球団は、戦力均衡のためにも、ポスティング・システムを見直せと言っているのだ。一筋縄ではいかない。

これに対し、日本側には争点はほとんどない。NPBの権利を守るとか、選手の利益を守るとか、そういう防衛線はない。
選手会がポスティング・システムの改定に難色を示したが、結果的には選手会の遅延策がこの問題をこじらせた。彼らの意図は、よくわからない。単に「いっちょ噛み」したかっただけか、と思えてしまう。

ポスティング・システムは、NPBの99%の選手にとっては縁もゆかりもない制度である。MLBが大金を払ってでもほしいと思うのは、NPBで群を抜いて優秀な選手。それも右腕の大型先発投手だけである。
今年、田中将大がMLBに行けば、来年は前田健太が対象になろうが、そのあとは全く見えない。菅野智之、大谷翔平あたりが見えてくるのだろうか。

過去には野手でもポスティングで移籍した選手はいるが、入札金は微々たるものだったし、イチロー、青木宣親を例外として活躍した選手はいない。
恐らくMLBでは「NPBの野手は使えない」は定説になっている。日本ではトップクラスの内野手だった中島裕之には、MLBでプレーする機会さえ与えられなかった。

ポスティング・システムは、今のところ田中将大という1人の選手のためにある。
交渉と言うが、NPBには守るべき一線はないと思われる。ただ、まとまってほしいと言うだけだ。
端的に言えは「マー君をアメリカに行かせてやりたい」という感傷的なモチベーションでアメリカと交渉しているように思える。

その間にも事態は動いている。楽天のケイシー・マギーが昨日になって、保留選手リストから外してくれと言いだした。MLBの球団から声がかかったからだろう。
リストに載ったままMLB球団と交渉すればタンパリング(保留権が他の球団にある選手に対し、獲得を前提とした事前交渉をすること、発覚すれば大きなペナルティを科せられる)に当たるからだ。

NPBでプレーしている外国人選手は、本音でいえば「MLBでやりたい」のだ。何といっても年俸が違うし、野球人として最高の舞台はMLBだからだ。
口に出しては言わないが、NPBでプレーをするのは「どさまわり」あるいは「都落ち」だと思っている。
そして同じ理由で日本人選手の中にも「MLBでやりたい」という選手が増えている。

NPBは、選手の野放図な流出を食い止めるとともに、NPBの選手がMLBで不当な扱いを受けるのを避けるためにも、日米間でしっかりした取り決めを行うべきだ。
その基本は、NPBとMLBの位置関係を確定することだ。
二つの球界は、パートナーなのか、上下関係なのか。
そしてそれに基づいて、フレックスな人的交流を制度化すべきだ。今のように大きな金が動くのでは、選手の異動は限定的になるし、NPBはMLBの選手の供給源になってしまう。

もちろん年俸格差は厳然としているのだから、事態は簡単な話ではないが、5年、10年というスパンで、パートナーとしての共存共栄を図っていくべきだ。
その前提には、NPBがまともな組織になることがあるのは言うまでもないが。



※ポスティング・システムについては豊浦彰太郎氏のブログが的確。この人は外資系企業の部長さんであり、実際に国際ビジネスの舞台で活躍している。その視点からの解説は明快。問題点をしっかり指摘している。
一読あれ。

行方に予断を許さぬポスティング新案を分析・評価する(その1)

行方に予断を許さぬポスティング新案を分析・評価する(その2)

ポスティング交渉 NPB担当者渡米への懸念

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