機会を見つけて書いてきたが、アメリカと日本の野球ファンで大きく異なる部分があるとすれば、それは「歴史」に対する姿勢だと言えるのではないか。
アメリカでは野球ファンと言うのは、「野球史ファン」とオーバーラップする部分が多い。親子三代、四代にわたって特定のチームのファンと言う家に生まれた子供は、父や祖父から往年の名選手について聞かされながら育つ。
それによって、ひいきチームの歴史は自分の家の歴史のようによく知っている。在りし日の大選手たちは、プレーする雄姿を見たことがなくても、あこがれの存在になる。
そういう積み重なりが、各チームに存在する。
誰かが「シカゴ・カブスのファンだ」と言ったとすれば、「じゃ、19××年のオーダーを言ってみろ」という声がかかる。そこから話しの花が咲く。ヲタクと言うほど熱心なファンではなくとも、ひいきのチームについてはそれくらい知っているのが当たり前。
マクミラン社から出版された「Baseball Encyclopedia」など巨大な本がベストセラーになり、さまざまな野球史の専門書が出版されること。
MLB公式サイトだけでなく、ESPNやBaseball Reference、Fangraphsをはじめとする膨大な記録を紹介したサイトがあり、多くはビジネスとして採算性が取れていること。
さらには、ベースボールファンタジーというシミュレーションゲームに数百万人が夢中になっていること。
などの事実から見えてくるのは、アメリカの野球ファンが150年になろうとする「野球史」の延長線上に「今」の野球をとらえているということだ。
そういう彼らにしてみれば、「野球殿堂」は、最高の栄誉だ。野球選手は引退すれば終わりではなく、そこから多くの人々によってそのプレーや記録が評価され、歴史的な存在になっていく。
そのために何百万、何千万語もの言葉が飛び交う。彼らはそれを無上の喜びとしているのだ。
残念ながら、日本にはそういう習慣は希薄だ。今年の野球殿堂は野茂英雄がMLBの野球殿堂選考で落選したこと、NPBの野球殿堂では候補になって1年目で選ばれたということが大きな話題となったが、選考そのものは至って静かだった。
世間の関心は冬季オリンピックに向いているのだろうが、野球界にとって「殿堂入り」はオフの最大のイベントのはずである。しかしスポーツ紙も他のメディアも実におとなしいものだった。
私は毎年、江夏豊、平松政次、加藤秀司らが選出されないのはおかしいと言ってきたが、そうしたことがスポーツ紙などのメディアで話題になったことは一度もない。
メディア関係者は「選考基準」や、選考の経緯にはほとんど興味がないようだ。
ただ発表を淡々と伝えるのみである。
その背景には「ファンはそんなことに興味を持っていない」という判断があるのだろう。
日本の野球ファンはマー君がどの球団に行くか、奥さんはどうするのか、バレンティンは野球ができるのか、藤浪晋太郎は今年も活躍できるのか、などには興味があるが、引退した選手がどんな評価を受けるかなど、ほとんど気にかけていないのだ。
確かに球場でお遊戯をし、風船を飛ばすのが大好きなファンが、そういう細々したことに興味を抱くとは思えないのは事実ではあるが。
球団やスポーツ紙がそういうファンだけをターゲットにするのは、あまりにも情けないと思う。


本来、専門メディアは、読者、ファンの人々の興味を掻き立て、新しいニーズを掘り起こすべきだと思うが、今のスポーツ紙は「ファンが知りたいこと」を後追いしているだけである。
野球メディアの担い手と言う自覚も、責任感も乏しいと言わざるを得ない。
しかし、プロ野球、野球と言うスポーツの発展と未来への継承を考えるならば「野球史」を大事にし、その意義をアピールするのは本当に大切だと思う。
台湾や韓国の野球を見ていると、ナショナルチームが勝てば人気は上がるが、そうでなければ下火になる。野球は一過性のスポーツのままだ。それは「野球史」「野球文化」が根付いていないからだ。
地味なコンテンツかもしれないが「野球史」は、野球の未来のために絶対に必要だと思う。その最高のよりどころが「野球殿堂」だ。
今後もこのことにこだわって情報発信していきたい。
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そういう彼らにしてみれば、「野球殿堂」は、最高の栄誉だ。野球選手は引退すれば終わりではなく、そこから多くの人々によってそのプレーや記録が評価され、歴史的な存在になっていく。
そのために何百万、何千万語もの言葉が飛び交う。彼らはそれを無上の喜びとしているのだ。
残念ながら、日本にはそういう習慣は希薄だ。今年の野球殿堂は野茂英雄がMLBの野球殿堂選考で落選したこと、NPBの野球殿堂では候補になって1年目で選ばれたということが大きな話題となったが、選考そのものは至って静かだった。
世間の関心は冬季オリンピックに向いているのだろうが、野球界にとって「殿堂入り」はオフの最大のイベントのはずである。しかしスポーツ紙も他のメディアも実におとなしいものだった。
私は毎年、江夏豊、平松政次、加藤秀司らが選出されないのはおかしいと言ってきたが、そうしたことがスポーツ紙などのメディアで話題になったことは一度もない。
メディア関係者は「選考基準」や、選考の経緯にはほとんど興味がないようだ。
ただ発表を淡々と伝えるのみである。
その背景には「ファンはそんなことに興味を持っていない」という判断があるのだろう。
日本の野球ファンはマー君がどの球団に行くか、奥さんはどうするのか、バレンティンは野球ができるのか、藤浪晋太郎は今年も活躍できるのか、などには興味があるが、引退した選手がどんな評価を受けるかなど、ほとんど気にかけていないのだ。
確かに球場でお遊戯をし、風船を飛ばすのが大好きなファンが、そういう細々したことに興味を抱くとは思えないのは事実ではあるが。
球団やスポーツ紙がそういうファンだけをターゲットにするのは、あまりにも情けないと思う。
本来、専門メディアは、読者、ファンの人々の興味を掻き立て、新しいニーズを掘り起こすべきだと思うが、今のスポーツ紙は「ファンが知りたいこと」を後追いしているだけである。
野球メディアの担い手と言う自覚も、責任感も乏しいと言わざるを得ない。
しかし、プロ野球、野球と言うスポーツの発展と未来への継承を考えるならば「野球史」を大事にし、その意義をアピールするのは本当に大切だと思う。
台湾や韓国の野球を見ていると、ナショナルチームが勝てば人気は上がるが、そうでなければ下火になる。野球は一過性のスポーツのままだ。それは「野球史」「野球文化」が根付いていないからだ。
地味なコンテンツかもしれないが「野球史」は、野球の未来のために絶対に必要だと思う。その最高のよりどころが「野球殿堂」だ。
今後もこのことにこだわって情報発信していきたい。
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コメント
コメント一覧
名球会の方がハードルは高いですが、格差も時間が経てば解消されることでしょう。
80年近い歴史を有するチームには、過去を語れるファンは多いと思われます。
球団経営陣の施策もその場凌ぎや日銭稼ぎ的なものが多いようにも映るけど、過去に関心が無いということは未来に対する関心や展望の無さにもつながるのかも。
>アメリカ人が何かにつけ歴史を重んじるのは、歴史が浅い国家だからでしょうね。
アメリカだからというわけではないでしょう。欧州におけるサッカーも同様です。真に文化として根付いているかいないか、あるいは見る側が敬意を持っているかいないか、それだけだと思います。
>本来、専門メディアは、読者、ファンの人々の興味を掻き立て、新しいニーズを掘り起こすべきだと思うが、今のスポーツ紙は「ファンが知りたいこと」を後追いしているだけである。
日本のスポーツ紙は、真の意味でのスポーツ紙ではないですよね。芸能記事や風俗の記事は不要のはずですし、事件記事も極端な言い方をすれば、一般紙に任せておけばいい。余計な記事が多すぎるので、肝心の「スポーツ」の記事が浅いのです。
強いて言うならば、そのスポーツ紙を補うのが雑誌メディアだと思うのですが、週刊ベースボールは日々のこまごまとした話題しか取り扱っておらず、「大きな話題」を扱う気概にかけていると感じます。
確か、そういうマニアックな話題向けの野球専門紙があったような気がします。
もしかしたら廃刊になってるかもしれませんが。
競馬もそうなんですが、専門紙はなかなか商売にならないのですよね。
深く知りたい人にはそちらの方がいいのでしょうが、
売れない上に価格がどうしても高くなってしまいます。
競馬だとスポーツ紙は130円ですが専門紙は500円もします。
これでは、いろいろな情報が得られる前者に流れるのも仕方ないですね。
これは野球のことではないのですが、「盛り上げるために『盛り上がってる感』を演出した」ことで、実際に人気が出たという話を聞きました。
NPBやスポーツメディアも、殿堂が話題のトピックになるように、積極的に仕掛けていってほしいですね。
今は、野茂のように、若い世代がリアルタイムで知っている選手が殿堂入りする時代ですから、そういう意味では若い世代の野球ファンのニーズを掘り起こすチャンスだと思います。
ただ同時に、私はまだ20代前半ですが、祖父の代から3代にわたっての巨人ファンですし、もちろん、往年の川上、王、長嶋などの話をたくさん聞いていますし、自分が見てきたように語ってしまって、よくお前が見たわけじゃないだろっておこられたりもします。
そういう意味で、別にコアなファンや、オタクな人々じゃなくても、潜在的に引退後の選手に対する殿堂には、興味があると思うのですけどね。私自身も最近は、自身がプロ野球を見始めた頃のスター選手が続々と引退していくことを淋しいなと思ったりもします。
なので、やっぱり、ファンがどうのというよりはマスコミにも問題があるような気もします。詳しい殿堂入りの情報を調べようと思っても中々難しいものがありましたし・・・。
仰るのは「BASEBALL TIMES」のことですね。エルゴラの成功を受けて野球でも同じことをやりたかったようですが、確かに上手くいかなかったようです。
ちなみに私が言いたかったのは、新聞ではなく、雑誌の話です。雑誌なら長いスパンで、より大きな話題を扱えると思ったからです。上のコメントにも書いたように、日本のスポーツ紙にはこれ以上期待していません。
この一文は余計じゃないですか?
多くのファンが野球殿堂にさして興味を持っていないのは悲しいことですし、広尾さんのおっしゃっていることには基本的に賛同します。
ですがその想いが昂じて上のようなことをおっしゃっていただきたくないです。特定球団のファンである人とそうでない人の違いはどうしてもありますし、どっちが上とかいう話じゃありません。スタンドで大騒ぎするファンが野球人気の基本的なところを支えている部分もあるのですから。
なんだか上の一文を読むと、野球玄人を認じる人がその他大勢を見下しているようなものを感じます。せっかくいいことおっしゃってるのに、もったいないと思います。
観戦スタイルの是非はともかく、ご自身の主義と相入れないファンを見下して
更にそういう層は球史に興味が無いと決めつけるのは如何なものでしょう。
これでは「そうか、これからは歴史にも敬意を払って見よう」と納得するよりも、反発を覚えるファンの方が多そうです。
ご指摘ありがとうございます。数年来そういうファンの方と論争を続けてきたために、つい書いてしまいました。おっしゃる通りです。品下がった文章になりました。
肝に銘じるために、あえて修正せずお二人のご指摘とともに残しておきます。
球場外野席に陣取る応援団は、何だかアイドル歌手の親衛隊みたいで一般層とは言い難いような気もしますが(笑)。