私は、組織としてのNPBはJリーグに遠く及ばないと思っているが、その最たるものが経営面である。
野球協約第6章[参加資格]によれば、新たな球団がNPBに参加するためには、以下の基準を満たさなければならない。

1.発行済み資本総額1億円以上の、日本国の法律に基づく株式会社であること。
2.日本に国籍を有しないものの持株総計が資本総額の49パーセント以下であること。
3.専用球場を保有していること。
4.預り保証金25億円、野球振興協力金4億円、加入手数料1億円を支払えること


その上で、実行委員会及びオーナー会議の審議を経なければならない。

非常に敷居が高い。30億円の上納金を用意するのは大変なことだが、それができたとしても、既存球団が承認しなければ参加はできない。

この協約は、既存球団の既得権益の保護を第一にしている。よほどのことがない限り、新しい球団がNPBに加盟するのは難しいのだ。

しかしひとたび連盟に加盟すると、NPBは球団の経営状態にはほとんどタッチしない。
加盟球団は、発行済み株式数、株主すべての名称、住所及び所有株式の割合をコミッショナーに届けなければならないが、それだけのことである。
球団が赤字であろうと、儲かっていようと、経営体制がどのように変化しようと、NPBには報告の義務はないし、口出しすることもできない。
NPBの参加球団は、採算性については全く問われていないのだ。

なぜそうなのかというと、NPBの加盟球団は「企業の子会社であること」を前提にしているからだ。

良く知られているように1954年8月10日、国税庁は

親会社が、球団の当該事業年度において生じた欠損金を補てんするため支出した金銭は、球団の当該事業年度において生じた欠損金を限度として、「広告宣伝費の性質を有するもの」として取り扱うものとすること。

という通達をしている。

親会社は球団の赤字を広告宣伝費で計上できる。本来であれば連結子会社の欠損金は、そのまま親会社の欠損金になるはずだが、必要経費にすることができるのだ。

「プロ野球は親会社の広告宣伝部門」と言われる所以はここにある。広告宣伝の役割をはたしていなくても別にかまわないのだ。



Jリーグなど他のプロスポーツ組織には、こうした優遇はない。だからなかなかスポンサーが見つからない。プロ野球だけが優遇される理由は見当たらない。これも既得権益と言うべきだろう。

野球協約の[参加資格]に、30億円の上納金の項があるのは、要するに「しっかりした親会社があるかどうか」を問うているわけだ。

この税制優遇措置は、本来は球団の経営を容易にし、参入障壁を下げるために行われたと思われるが、54年以降、経営企業が変わった球団はあるが、新規参入した球団は楽天だけ。そして高橋(トンボ)、大映の2球団が消滅している。優遇措置の効果は殆どなかったと言うべきだろう。

この優遇措置があるために、プロ野球の球団は「独立採算」を目指す必要がなかった。
だから経営者は代々親会社からの出向者が務め、プロパーの経営者が育たなかった。
そして市場開拓や販路の拡大、新規事業の展開など、企業として行うべき当然の仕事も真面目にやってこなかった。

プロ野球では「経営者」と言えば、親会社の社長やオーナーのことであって、球団経営の当事者ではない。球団社長は、親会社でいえば上級幹部であって、経営者ではないのだ。
この優遇措置はプロ野球を甘やかし、まともな経営者を育てなかったという点で、百害あったというべきだろう。

税制面で優遇されなかったJリーグは、球団が健全経営であることを条件としている。
2013年に定められたJリーグ倶楽部ライセンス制度では、財務基準として、

次財務諸表(監査済み)を提出し、Jリーグの審査を受けること。その際、3期連続の当期純損失を計上していないこと。および債務超過でないこと。

を定めている。
この制度では親会社があっても構わないことになっているが、そうであっても球団単体での健全経営を前提にしているのである。

NPBが改革を行うとすれば、コミッショナー、NPB組織の抜本的な改革に加えて、球団経営に手を付けるべきである。
優遇措置を返上する必要はないが、企業としての球団を育成し、ビジネスを発展させるためにも協約に以下の2項を追加すべきだろう。

・加盟球団は単体での決算報告書(損失補てん前の)をNPB機構に提出しなければならない(NPBは各球団の決算情報の概要を公表する)。

・3年連続で球団の当期純損失が赤字であった場合、または債務超過になった場合は、球団はNPBの支援、経営指導を受けなければならない。


こうするためには、NPBに経営が分かる人材がいることが前提になるが。

債務超過の項目を加えれば、資本金の積み増しが必要な球団が続出するだろう。その際に、親会社以外から出資を募って、親会社の出資比率を下げることも意味があるかもしれない。

これは推測だが、業績好調な親会社は、球団を「節税」の道具にしたこともあったはずだ、儲かりすぎた利益を、球団の損失補てんに充てたことにして、球団内に留保したこともあるはずだ。球団の決算報告は公表されていないから、わからないのだ。
プロ野球の世界では推定年俸と実際の年俸がかい離しているケースがよくある。また裏金のうわさも絶えない。こうしたどんぶり勘定が可能なのも、球団経営が「ブラックボックス」になっているからだ。
本質論で言うなら、球団は公的な性格の強い事業を行っているのだから決算報告を公表すべきだとも思う。

連結子会社であることは、球団経営を行う上で大きなメリットではあるが、本質論でいえば、いい加減に「親がかり」の状態は卒業すべきだ。親に頼るから、いつまでも「馬鹿息子」のままなのだ。

思い切った改革を行うなら

・今後5年で、親会社との連結関係を解消する

という条項が入っても良いかもしれない。


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