当サイトでは、黒田の記事の反応は、松坂大輔やダルビッシュなどに比べても小さい。
確かにきらきらとした魅力はないが、彼の実績が、日本人投手の評価を押し上げているのは間違いがない。
Hiroki Kuroda


① 結果でものをいう男

黒田博樹の投球は、見ていて面白いというものではない。
強打者相手に闘志満々で挑みかかるわけではなく、三振をばったばったと奪うわけでもない。
細心の注意でシンカー(本人は2シーム)を低めに集め、ゴロを打たせる。スライダーやスプリッターでタイミングを狂わせる。

球威は並み。球のキレは素晴らしいが、打者を圧倒するわけではない。だから打たれるときは打たれる。しかし、そういう時でも辛抱強く投げ、少しでも失点を少なくし、アドバンテージを保とうとする。

黒田の援護点は少ない。その原因はわからないが、彼が「エース」「スター」と呼ぶには地味すぎる存在であり、常に2番手として期待感がやや薄いことと関係があるかもしれない。

しかし黒田は少なくともここ5年、水準以上の仕事をこなしてきた。期待されたエースが大崩れしたりするのを横目に見ながら、イニングイーターとして黙々と回を消化してきた。

それは勤勉な日本人そのものと言う気がする。不満があっても文句を言わず、自分のやるべきことをきっちりとこなす。

上原浩治とは1歳しか違わないが、遥かに大人のたたずまいを見せている。

② 男気

黒田が男を上げたのは2011年夏のことだった。
黒田が所属するロサンゼルス・ドジャースは、経営者の内紛が絶えず、それがチーム状態にも影響して低迷していた。
チームは、フラッグシップディールで主力選手の放出を考えた。黒田も市場に出されようとした。

これは黒田にとって悪い話ではない。低迷しているチームで援護点に恵まれないまま投げるよりも、強いチームに移ってペナントレースで競り合いをする方が目立つし、モチベーションも維持できる。同じ成績なら評価も上がる。オフにFAになるにしても、その方が高く売れるというものだ。

しかし黒田は自らの契約にあったトレード拒否権を行使し、チームに残留した。そして引き続き好投をしてシーズンを終えたのだった。

成績の悪い球団がシーズン途中に選手のバーゲンセールをするのはMLBでは普通の商習慣だ。しかし黒田はどうしても納得がいかなかったのだろう。

ファンやチームメイトに申し訳ないという気持ちもあっただろうし、金で買われていくことに職業人としての抵抗も感じたのではないか。

黒田はオフに晴れてFAとなってニューヨーク・ヤンキースに移った。「自分の筋を通す男」という印象を強く持った。

ヤンキースでも黒田は「男」を通した。複数年契約ではなく1年契約を選んだのだ。
MLBには、複数年契約を結んで不良債権化している選手がたくさんいる。
とりわけヤンキースには、アレックス・ロドリゲスという天文学的な年俸をもらい続ける選手がいる。
黒田はそうした実例にかんがみて、1年契約を結んだのだろう。
30代半ばを迎えて、いつ投げられなくなるかもしれない。そのときにチームやファンに迷惑をかけたくない、という意識が強いのだと思われる。

以後も黒田は毎年、1年契約を更新している。それは古風で律儀な男の矜持でもあるのだろう。

③ 自己研鑽

広島時代の黒田は球威のある4シームとスライダー、フォークを使うオーソドックスな投手だった。
エースの名にふさわしい堂々たるピッチングをしていたのだ。

しかしMLBにわたってからは「動くボール」を身に着けた。すでにNPBで実績を挙げている投手が30歳を過ぎて、投球スタイルを大きく変えたのだ。

黒田は中6日、年間26~29試合登板と言うNPBの投球スタイルから、中4日、年間30~32試合登板と言うMLBのスタイルへの転身も果たしている。
2009年にDL入りしてローテを外れたことがあったが、以後はほぼ完全にローテを維持している。
黒田博樹より若い松坂大輔がなかなか順応できなかったMLBのスタイルに、上手く順応したのだ。
一本気な気質に見えるが、現実に対処する柔軟さを持っていた。そして、MLBの野球に対する尊敬の念も持ち合わせているのだ。

今年の黒田は球速も衰え、打ちこまれることが多い。ERAはMLBの平均程度まで落ちいている。
しかし僚友のCCサバシアの衰えがはっきりする中、必死で踏みとどまっている。

旭日のように昇りつつある新鋭田中将大にとって、投球スタイルが似ている黒田博樹は大いに手本になっていることだろう。
技術面だけでなく、その精神。挙措のありよう、出処進退の覚悟など。
背番号18番の背中から、背番号19番は、いろいろなものを学んでいるはずである。

0619-NPB


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