白夜書房 『野球小僧8月号「アンダーワールド」』






今から80年ほど前、私の祖父は四国から出てきて、箕面の旅館の家付き娘の婿に入った。バイオリンが好きだったが、毎日激しく練習するため、「今度来た婿は、“腹下るほど”琵琶(バイオリンは知られていなかった)を弾く」と言われたそうだ。

過ぎたるは及ばざるがごとし、というが、趣味というものは「過ぎたる」ところから妙味が分かりだす。表面をなでるようにしたって、面白みは分かるものではない。「過ぎたる」すなわち「腹下る」である。

毎度毎度「腹下る」特集を展開する『野球小僧』。8月号は、「アンダーワールド」。アンダースローの投手の特集だ。表紙は西武の松沼兄やん。いまどきの絵柄ではない。売り出し中の牧田和久や、現役の渡辺俊介だけでなく、山田久志、松沼博久、会田照夫、有志の親子、仁科時成、深沢恵雄をリードした袴田英利、MLBのジーグラー、甲子園、韓国のアンダースロー投手まで、アンダースローと名のつくことはすべて取り上げようというすさまじい内容だ。ここまでするか、という思いがする。

歴代下手投げ投手のモノマネの仕方、サブマリン投手のストップウォッチ計測。じっくり読めば、1週間くらいかかるのではないか。

このムックの編集会議。アイディアが次々と出てくると編集局長の末井昭さんが、あの長い顔で「じゃ、全部やれば」なんていっているのではないだろうか。「腹下る」面白さを知悉しているだけに、少々のことでは驚かないのだと思う。

1988年、西宮球場のラッキーゾーンで、ゆったりとしたフォームで投げる最晩年の山田久志を見て「何と美しい」と感嘆した思い出のある私にとっては、家宝にしたい一冊だ。


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