昨年の春以来、「球数制限」「投手の酷使」をめぐる国際的な議論が起こっているが、愛媛済美高校の安楽智大は、常にその渦中にあった。
安楽をめぐる昨年以来の動きをまとめた。

anraku


昨秋の故障は、肘をよく使う野球選手、テニス選手が良くやる故障だ。酷使が原因の場合が多い。骨に異常はなかったようだが、神経に関わる故障は外見からわかりにくいだけに長引く可能性がある。
一説にはワールドカップで滑りやすい使用球を投げて肘への負担が増したことが大きいとされる。
医師の指示で年内はノースロー調整。これは正しい措置だっただろう。

しかし年明けになっても安楽は投げることができない。
愛媛済美高校は安楽不在のまま春の県大会で敗退、春のセンバツには出場できなかった。

4月5日に故障以来、初めて登板した安楽は以後、ハイスピードで調整する。
最後の夏に向けて、安楽の気持ちは逸ったのだろうが、この期間の調整は大きな問題をはらんでいるように思える。

一つは、ほぼすべての練習試合で投げた事。練習ではなく、実戦で感覚を磨こうとしたのだろうが、これは肩、ひじの酷使に他ならない。
最高球速がばらつき、投球も出来不出来があったことは、安楽が本当の意味で回復していなかったことを意味しているのではないか。
もう一つは、スプリッターを投げ始めた事。意見が分かれるところではあるが、スプリッターは他の球種よりも肘に負担をかけるとされる。
安楽は10km/hも落ちた球速を補うためにこの球種を投げ始めたのだと思うが、将来のことを考えれば無謀だと思う。

この間のリハビリは、安楽自身が考えてやっていたのではないか。性急で、勝ちにこだわる子どもっぽいプランだ。
大人は何をしていたのか、が気になる。
愛媛済美の上甲正典監督は、球数制限には批判的である。
「日本野球の伝統を守る」「肉体の酷使を精神力で乗り越える」が身上だ。要するに「根性だ」「頑張れ」という以外何もしない角兵衛獅子の親方のような指導者だと言うことだ。
安楽が自己流で何とかがんばろうとしているときに、この監督は科学的な根拠に基づいたしっかりしたアドバイスをしたのだろうか?スプリッターを投げることに異論はなかったのか。
「肘が痛いのによく投げてくれた」は、指導者の言葉ではない。

夏の予選、3戦目で安楽の愛媛済美はシード校の東温に負けて甲子園出場はならなかった。

188cmの長身から投げ下ろす速球は玄人には未だに魅力的なようで、スカウトたちは二重丸を付けている。
甲子園での酷使がなくなったことで、彼らは胸をなでおろしているかもしれない。

私は高校野球、甲子園は「教育」でも「青春」でもないと思っている。学校や指導者の栄達の具に成り下がっていると思う。そんなくだらないものや、郷土の期待などという無責任なもので、若者を消費し尽くしてはならないと思う。

指導者の使命は、「野球で生きていきたい」という夢を抱く若者たちの「資産」を毀損することなく次のステップに送り届けることに尽きるのではないか。
高校野球に「教育」の名が許されるとすれば、そのことだけではないか。
教育は将来投資であり、子どもの持つ可能性を引き出して能力を開発することである。その可能性を「私的に流用して」くじくことは許されない。

アメリカでは10代の酷使がその後の野球人生に深刻な影響を与えるとしている。日本でも高校野球での酷使によってマウンドに上がれなくなった選手は多い。
安楽の軌跡を見ると、まさにその道をたどっているように思える。
安楽は本当に再び157km/hを投げることができるのか。


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