高校野球は、本当にいろいろなことが起こる。選手は心身ともに未熟だし、予選は実力が極端に違うチームが対戦するから、予想外のドラマがいくつも起こる。
石川県大会の決勝で、星稜が小松大谷に0-8で負けていて9回に9点取ってサヨナラ勝ちをしたのは、まさにそんなドラマの一つだった。
恐らく実力的には、星稜は小松大谷よりも上だったのだろう。小松大谷は名前の通り真宗系の私立高校だが、野球有名校ではない。松井秀喜をはじめ錚々たる選手を輩出した北陸の雄、星稜とは名前でも実力でも大差があったはずだ。
しかし一発勝負の試合では、それでも番狂わせが起こる。

※追記 石黒謙吾さまより「小松大谷と星稜は今年に関しては互角か、小松の方が上」とのご指摘あり。

古い話で恐縮だが、40年ほど前わが母校明星高校は選抜で優勝した津久見高校と熱戦を展開し、その年の夏は大阪府の優勝候補の筆頭だった。PL学園の鶴岡泰監督が「打倒明星」をスローガンにしていたのはこの頃だ。
しかし明星は初戦で全くの無名校だった阿倍野高校に敗れるのだ。
この試合、日生球場で見ていたが、先取点を上げられても余裕綽々だった母校ナインは、回が進むにつれて固くなり、つまらない失敗をし始めた。対照的に阿倍野高校は嵩に懸って攻め立て、追加点まで上げたのだ。スタンドは大喜び。
母校のナインは最終回には蒼白になって打席に立った。私たちは声を嗄らして応援したが、逆転はならなかった。緊張と焦りで、実力を出すことができなかったのだ。

今年の星稜の場合、9回の先頭打者が出たことでスイッチが入ったのだろう。8点差と言う点差で、ナインが開き直ったのも大きかったのだろう。
反対に小松大谷は、生き返った星稜の前になすすべがなかったというところか。

この試合は国内だけでなく、アメリカでも報道された。
ニッカンスポーツ

米全国紙「USA TODAY」電子版が、27日の高校野球石川大会決勝で、星稜が9回裏に8点差をひっくり返すサヨナラ勝ちで優勝したと報道。元ヤンキース松井秀喜氏の母校と紹介し、9回の攻撃が20分以上に及んだこと、無死のまま6点を奪い、1死後は一塁へのヘッドスライディングで併殺を避けたことなどを伝えた。日本の高校野球の結果が米紙に掲載されるのは異例。記事は「日本では高校野球は一大事だ」との書き出しで始まり、「試合後は両チームが泣いていた。クレージーだ」と締めている。

アメリカ人たちが驚いたのは、「たかがハイスクールの生徒の試合が、なぜこんなに騒がれるのか」ということだ。

アメリカは、プロスポーツの国だ。オレンジ・ボウルのように全国的な人気を博するカレッジ・スポーツもあるが、基本的にはアマチュアスポーツはプロスポーツの下位に位置する。なかにはアメリカン・フットボールやバスケットボールなどのように、カレッジ・スポーツがプロと大差ないほど商業化されるケースもある。また、陸上などは実質的にプロ化している。
いずれにしてもプロスポーツよりも盛り上がるアマスポーツは考えられない。ましてやハイティーンの大会に、ほぼ1か月の間国中が熱狂するのは、「クレージーだ」ということになるだろう。

何度も言っているが、日本人は少年が「艱難辛苦」するのを見るのが好きだ。若者が感極まって泣いたり、雄たけびを上げたりするのを見るのが好きだ。
観衆が少年たちのドラマを共有し、一緒になって泣いたりわめいたりする。
そこで繰り広げられるドラマは、スポーツと言うより、文楽や歌舞伎に近いように思う。
「死んだ親に活躍を見せたい」「怪我をした友人の分も頑張りたい」
成功も失敗も含めて、そういうドラマを見たがる。
「青春の汗」「友との友情」「郷土の期待」
メディアも、ウェットな見出しで派手に書きたてる。朝日新聞などは予選レベルで一面である。

日本の野球史は、アマチュア野球、学生野球の時代が約60年続き、その後にプロ野球が生まれた。甲子園大会はプロ野球よりも12年も早く生まれている。
それだけに、甲子園は日本野球の「正系」と言えるのかもしれないが、世界レベルで見れば、高校野球は他国の人には理解できない「民族の祭典」になっているのだろう。

先日、大和広陵の立田将太の試合を見ているとき、隣のおじさんは立田が投球制限をチームに公認してもらっていることを聞いて

「なんちゅうやっちゃ、それでも高校生か」。
「そんなこと言うてるから、投げ込み不足で歩かせるのや」

と、怒りはじめ、それからは立田がグラブを仲間に持ってきてもらうと

「自分で取りに行かんか、えらそうに」
「何様やおもてるねん、仲間も嫌てるわ!」

「水ばかり飲むな、根性無しが」

と事あるごとにこき下ろした。

日本人の何割かは、甲子園で若者が「野球生命を失っても構わない」と思っている。
そう思わないまでも、将来のことを考えて酷使を回避したり、怪我を恐れたりするのは「卑怯だ」と思っている。
そうした考えは、甲子園と言う大舞台が「命を懸けるに足る」と思うところから出てくる。

外国人が異様に思おうとも、選手が実際に選手生活を縮めようとも、「甲子園は変わらない」と実感する。
難しい問題だ。

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