愛媛、済美高校は最近、何かと話題の中心になっている。
一つは、屈指の好投手、安楽智大に関わる話題。
昨春の選抜で772球を投げて準優勝。しかし、一人で投げ切ったことが「酷使」であると、海外メディアから批判を浴びた。日本の野球界からの猛反発もあり、大きな話題となった。
安楽自身が「酷使」と言う批評に反論したこともあり、それを許した学校の体質にまで言及されることとなった。

そして今年になって発覚した「いじめ」問題。2年生が1年生に灯油を飲ませようとしたり、カメムシを食べさせたりした事件が発覚。
済美は秋の県大会を辞退。そして昨日になって、日本学生野球協会審査室会議が1年間の対外試合禁止を申し渡した。これによって春だけでなく、夏の甲子園への道も閉ざされた。
またこの不祥事によって安楽智大は「侍ジャパンU18」にも呼ばれなかったと言われている。

さらに、不祥事が発覚したさ中に、済美を強豪校にした最大の功労者である上甲正典監督が、67歳で急逝した。

学校、野球部関係者は、恐らく何も手がつかないような状況だろう。あまりにも多くのことが一度に起こりすぎている。

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済美は、愛媛県では数少ない私立高校である。もとは女子高だったが、男女共学となり、大阪桐蔭などと同じ「文武両道」で急速に実績を挙げ、大量の生徒を集めてきた。
特に野球部は2001年の創部ながら、宇和島東で実績のある上甲監督の招聘以来、急速に実力をつけて2004年の春に優勝、2013年にも準優勝するなど、愛媛県屈指の強豪校となった。
上甲監督のネットワークを生かして、県内外から優秀な選手が集まったのが大きいだろう。
公式HPでは
”生徒のために何をしてやれるか”厳しさの中にも優しさをもって、日々努力していきます。
と書かれている。部員数は70人ほどだが「甲子園出場」を目標として厳しい競争環境を作ってきた。

今回の不祥事は、そうした「促成栽培」のひずみだと思われる。
競争で敗れた上級生が、下級生をいじめて憂さ晴らしをする。過去に何度も起こっている類の話だろう。

今の私立高校野球部は「不祥事が起こっては元も子もない」と、生徒の生活管理を厳しく行うようになっている。また、監督も「能力のある子」だけでなく「試合に出られない子」にも気配りをするようになってきている。
そういう中で済美の事件は、ひと時代前の古臭い不祥事だとも言えよう。
上甲監督は、「甲子園至上主義」の昔気質の指導者でもあった。そういう体質をも反映しているのだろう。

ただ学生野球連盟、高野連の今回の措置はさっぱり理解できない。
上田龍さんも指摘していたが、カメムシを食べさされた「被害者」の1年生も含めて「甲子園への道」が閉ざされたからだ。
2年生部員が「連帯責任」を負うのはやむを得ないとは思うが、「被害者」まで希望を断たれるのは理不尽としか言いようがない。

そういう状況になると「お前らが告げ口しなければ、甲子園に行けたのに!」と二次的なトラブルが起こる可能性も出て来よう。

相変わらず高野連は居丈高で偉そうである。まるでお奉行様が
「えーい、諸事多様のみぎり、かかる不祥事で世間を騒がすとは不届き千万、その方どもに蟄居閉門を申し付ける!」
とお白州で平伏する学校を叱りつけているようである。

上甲監督と言う傑出した指導者が亡くなった直後でもあり、愛媛済美が今後弱体化するのは間違いないだろうが、世間は別にそれを望んでいるわけではない。

「爽やかであるべき高校野球の現場で、なぜこんな卑劣な事件が起こったのか?」
「責任者、指導者は何をしていたのか?」

をはっきりさせて、再発防止につなげることが一番だと思っている。

その部分は学校の自主性に任せるのかもしれないが、学校法人はどこも保守的で、隠ぺい体質が強い。自浄能力が期待できるとは思えない。
PL学園のように、指導者不在のまま迷走するような事態も考えられる。

高野連は高いところから「罪を与える」ために存在しているわけではない。国民的な娯楽、そして「教育の一環」としての高校野球の健全化のために、もっと具体的に学校を指導すべきだ。
「調査チーム」を結成して学校に送り込み、原因を究明し、学校側とともに改善案をまとめるなどの、まともな施策を展開すべきだ(そういう人材がいない可能性はあるだろうが)。

「高校野球」というご本尊を守るために、不祥事はすべて「一学校、一指導者の責任」とするようなやり方では、野球の未来はない。
もっと民主的で、公平で、具体的な施策を打つべきだ。

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