さらに球数の問題について。「これくらい投げても大丈夫」の「大丈夫」についてである。
指導者が考える「大丈夫」とは、どのくらいの期間のことを言っているのか?

翌年の甲子園でも同じくらい投げることができることを「大丈夫」と言っているのか?
それとも大学に進学し、そこで活躍できることなのか。
さらにプロ野球に行って、そこで十分活躍できることなのか。
さらにさらに、MLBにまで進んで、そこでも活躍できることなのか。

米での最新の研究では、「十代の投手の登板過多は、二十代、三十代になって、その選手の肩、ひじに深刻な影響を残す」というデータが出ている。

甲子園史上最多の投球数を投げた斎藤祐樹は、早稲田大学ではエースの働きをしたが、プロ入り後はぱっとしない。私は彼の「臆病投法」にも原因があるとは思うが、右肩の関節唇損傷という故障は登板過多によると考えてもよさそうに思う。

2年前のドラフトの目玉の一人、東浜巨は、沖縄尚学時代に選抜優勝、亜細亜大学で頭角を現した。彼は「投げこんで制球力を作る」タイプで、ブルペンで1日300球も投げることがあったという。
しかしプロ入り後はその抜群の制球力を十分に見せてはいない。故障がちで今季も一軍では5試合しか投げていない。
一説によると、東浜の「投げ込み過ぎ」を敬遠して他球団は指名しなかったともいう。



田中将大が故障した時にも、アメリカのメディアは日本での登板過多、とりわけ高校野球での酷使を指摘した。
日本人投手はアメリカに移籍するときに、ほぼ例外なく「棘下筋」が摩耗している。今年7月にも触れたが、この筋肉の摩耗は、投げ過ぎによって起こる。過重な投球によって筋肉がすり減るのだ。「肩の酷使」とはせんじ詰めればこのことなのだ。
腕と肩をつなぎ、支えるこの筋肉が摩耗していることによって、肩、ひじへの負担は大きくなる。この状態のまま登板過多や無理な投球をすれば、故障をするリスクは高まる。

ひょっとすると日本の指導者のいう「大丈夫」とは、「来年も投げることができる」「大学でも投げることができる」程度の長さなのかもしれない。
これに対し、アメリカの関係者が言う「大丈夫」は、「30歳、35歳になっても活躍できる」長さのことだ。

実はアメリカでも十代の選手の酷使が問題になっている。
選手年俸の高騰とともに、若い選手にもスカウトが食指を伸ばしている。また代理人も暗躍し、アピールをしようとする。
試合で速い球を投げさせるために「促成栽培」をする指導者も出てきているようだ。
トミー・ジョン手術を十代で受けさせる親や指導者がいるのも、そうした傾向と関連性があるという。
プロアマの垣根が全くないアメリカでは、子どもでさえもマネーゲームに巻き込まれる。
メディアや医療関係者からこうした傾向に、強い警鐘が鳴らされている。

たとえプロ野球で大活躍ができなくても、いつまでも野球を楽しむことができるのは、スポーツ選手にとって理想だ。
スポーツ障害は日常生活に大きな支障をきたすこともある。登板過多で腕が曲がってしまったり、十分に動かすことができなくなるケースもある。

長いスパンで「投手の健康」を考えることも、指導者にとっては重要なことだと思う。

「将来的な影響も考えて、適正な投球数を設定する」ことが、日米で求められているのではないか。


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