「試合での投球数」とともに「投手酷使」の問題で必ず話題になるのが「正しいフォーム」と「投手のトレーニング」だ。
アメリカのメディアが日本人投手の「登板過多」を指摘する記事を書くと、NPBのOBが「日本の投手は鍛え方が違う」「怪我をしない投法を身につけている」「アメリカの投手とは比較にならない」と反論する。

それはおおむね事実といってよいだろう。
ヤンキースの黒田博樹が、「怪我をしない投げ方」をMLBの投手に伝授したところ
「こんなことは全く知らなかった、もっと早く知っていれば」
と感謝されたというニュースが流れたことがある。

最近のNPBの投手コーチは理論立ててきっちりと投手を指導する。その投手の持ち味を生かしながらも、肩、ひじを故障しない投げ方をアドバイスする。
大学、高校などでもそうした「怪我のリスクが少ない投法」を教えるようになっている。
それらは昔からの「投手育成法」が近代化したものだと思われる。

また日本の投手は伝統的に「下半身の鍛錬」を十分にやってきた。NPB史上最も走りこんだ投手は金田正一だといわれるが、下半身をしっかり鍛えることで、上半身の動きをがっちりと支えることができ、正しいフォームが身につくのだという。

アメリカでは、日本で言う小、中学校の野球少年たちは基礎をしっかりと学ぶ。怪我をしない投げ方、プレーの仕方を教えられる。
しかし本格的な野球を始めると、投球フォームなどは選手が自分で作っていくことが多い。コーチはアドバイスするが、主体性を重んじるので口うるさくフォームを矯正することはない。
このために、ときとして非常に変わったフォームの投手が生まれたりする。

MLB中継で武田一浩が「このフォームじゃ怪我すると思うんですけどね」ということがあるが、NPBの指導者から見れば危なくて仕方がないフォームで投げている場合もあるのだろう。

MLBでは、理にかなったフォームで投げる投手もいれば、そうでないフォームで投げる選手もいる。彼らの故障するリスクの大きさはさまざまだろうが、いずれにしても投げすぎることで怪我のリスクが高まるのは間違いない。そこで先発投手は最大公約数的に「100球」という目安がもうけられているように思う。

それに対してNPBは、「しっかりしたフォームが身についていれば怪我はしない」という考えがあるから、球数制限をそれほどうるさく言わないのだ。



今週号の「週刊ベースボール」で、米田哲也が
「私はキャンプ中は毎日300球投げた、300球投げることができるから150球で完投できる。キャンプで150球しか投げないから試合で100球しか投げられない」
といっている。
米田のキャンプでの球数は5000球を超えたことだろう。

米田は体に負担のかからない安定感のあるフォームで投げて、22年間で350勝をあげた。昔の投手は徹底的に投げ込むことで、制球力とスタミナを身につけた。
「壊れるリスク」を考えないのなら、今もそれがベストのやり方かもしれない。

ただし、米田の時代から肩やひじを壊して選手生活を断念する投手はたくさんいた。また1年だけ大活躍をしてすぐに消えていった投手も非常に多い。

どんなに正しいフォームで投げても、すぐにつぶれる投手もいる。そうでない投手もいる。
また大活躍した選手でも、突然投げられなくなって引退した投手も多い。
昭和の時代は高校からプロまで「選手の健康管理」はあまり重要視されなかったから、投げられなくなった投手が問題視されることはあまりなかった。
(1942年の「野球界」を読んでいて岡田源三郎が「投手はチームの宝だから酷使してはいけない」と書いていた。投手の酷使を戒める声は当時からあるにはあったのだ)。

野球選手は「才能」「資質」の個人差が大きい。
成功者だけのいうことを鵜呑みにして、若い選手が同じようにしようとしてもできないことが多い。「過重な練習、トレーニング」ができることも「才能」だといってもよい。
仮説を立てるならば投手には

① 過重なトレーニングで鍛え上げて大成績を残す投手
② 過重なトレーニングはできないが、そこそこの成績を残す投手。

の2つがあるといえよう。

③ 過重なトレーニングをしなくても大成績を残す投手

も例外的にあるかもしれない。
②の投手が、①の投手になろうとして過重なトレーニングをすればつぶれてしまう。③の投手がさらに成績を上げようと思って過重なトレーニングをするのもよい結果にはつながらない。

投手コーチは①~③の適正を見抜く必要があるのだろう。また投手自身も自分の特性をよく理解して練習をする必要があるのだろう。

「正しいフォームで投げる」ことで、故障のリスクは少なくなる。
これは間違いないところだ。
しかし、だからといっていつまでも投げ続けられるわけではない。やはり球数制限は必要だ。日本にはその目安がない。

かつての大投手たちが、「今の投手はふがいない、もっと投げこんで肩を鍛えて、どんどん完投すべきだ」という言葉を鵜呑みにするのは禁物だ。
こういう人たちは「たまたま素質があって」過重なトレーニングにも耐えて成績を残したのだから。
その影で素質がありながら消えていった投手がたくさんいるのだ。
誰もがそんなことができるわけではない。

「正しいフォーム」と「適正な投球制限」の二つを組み合わせることで、投手の起用法はより安全になる。
安っぽい精神論や、「俺の若いころは」という老人の自慢話とは次元の違う「野球理論」が生まれるべきだ。
特に高校野球で、この研究が進んで、何らかのメソッドが生まれることを期待したい。


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