台湾の細いネットでとぎれとぎれになる侍ジャパンTVの画像を食い入るように見ていた。
則本が絶好調。坂本と中田に2ランが出て、また日本の勝利か、少々気まずいなと思ったが、それどころではなくなった。

9回までノーヒットノーランに抑え込まれたMLBのベンチは、笑顔が全く消えていた。抑えの西野に対してアルチューべが三振、サンタナが二ゴロ。
データ放送では「アルチューべは変化球打ちが上手い」などと盛んに解説しているが、そうしたデータが空しく聞こえてしまう。
ついにモルノーが一ゴロでノーヒットノーラン。

1971年11月2日、ボルチモア・オリオールズのバット・ドブソンは、富山で行われた日米野球で巨人に対して3四球を与えただけのノーヒットノーランを記録したが、それから43年後、今度は日本がお返しをしたのだ。

Shibakawa氏が速報されたように、先発則本の出来が良かったのが最大の要因だろう。彼だけでなく、各投手が「外角低め」に素晴らしい球を決めていた。
そして菊地涼介が、異様に球を拾いまくった。
中田翔の一発は、二塁打のような弾道からぐんぐんと高度を上げて左中間スタンドへ飛び込んだ。
要するに侍ジャパンの各選手が絶好調だったのは間違いない。

これに対して、MLBはまず投手陣が大きく見劣りした。もともと良い投手を連れてこなかったのだ。
一番ましな先発投手であるシューメイカー、続く岩隈を使ってしまったから、あとは二線級にならざるを得ない。成績は上げてなくても若手の伸び代のある投手でもいればまだしも、NPBへの「再就職」に色気がありそうなベテランばかり。
野手陣もアルチューべは動きが悪かったし、モルノーも本調子とは言えなかった。

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コンディションの差は歴然ではあった。
それにしてもこの惨敗。ファレル監督、元の上司のフランコ―ナ―コーチの顔から表情が消えていた。
ベンチは沈み込んでいた。敗戦が決まると、グランドに出ることなく引き上げたが、彼らのプライドは傷ついたはずだ。

「ついに日本はアメリカを超えた!」と快哉を叫ぶべきだろうか。
私には手放しで喜ぶことはとてもできない。
MLBオールスターは昔のように「遊山気分」で日本にやってきたわけではない。
前日はガスリーらが茶室で茶のお点前を体験したようだが、彼らが臨戦モードでなかったわけではない。体は動く状態だ。

しかしながら162試合に及ぶレギュラーシーズンを戦ってきた彼らは、今、チャージのモードにある。フルスロットルとはとても言えない状態だ。来日前の練習は1日だけだった。

それに対して「侍ジャパン」は、シーズン中から主力選手を指名し、その他の選手も体をほぼ完調にしあげている。実戦モードのままでアメリカに対峙したのだ。

「一部の連中だけが異様に本気になっている」。WBCなど野球の国際大会は、アメリカではそんな風に見られているようだが、それだけに、極端な試合結果は、彼我の実力差と言うよりは、温度差を表すのではないかと思えてくる。
「なんでやつらは、エキシビションゲームで必死になっているんだ?」
そんな声が聞こえてきそうだ。

あす以降のMLBオールスターズには奮起を促したいが、二線級の投手陣しかいない中、挽回は難しいだろう。
おまけにカノが死球で足の小指を骨折。チームの牽引車がいなくなった。10年2.4億ドルで契約をしたマリナーズ関係者は「なんてことをしてくれたんだ」と思っているだろう。

この結果を受けて、アメリカ側は日米野球に本気モードで戦うようになるとは思えない。金銭的にもイメージ的にもとても引き合わないからだ。
賞金総額1億円は、カノの半月分の収入に過ぎない。
億万長者になったMLBのスター選手にとって、ビジネスの場は極端に言えばレギュラーシーズンだけなのだ。

日米野球で日本は常に「本気モード」だったが、それでも「遊び半分」のアメリカには歯が立たなかった。彼我の差はそれほど大きかったのだ。
しかし、今は、いかにMLBオールスターと言えども本気で戦わなければNPBには勝てない時代になっているのだ。

アメリカ、そして韓国や台湾などの野球強豪国に働きかけて、オフシーズンの常設リーグ(カリビアンリーグのような)でも作らないかぎり、「侍ジャパン」は武者修行をしようにも相手がいない、と言うことになりかねない。


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