WBCが始まった2006年から、私はオーストラリアに注目してきた。日本とは真逆の方向へ進化しようとしている、そう感じたからだ。
オーストラリアに本格的なプロリーグができたのは1989年のことだ。しかし財政難から休止や離合集散が続いた。
2010年に至ってMLBが資本を投下してオーストラリアン・ベースボール・リーグ(ABL)が誕生し、実質的にMLBへの人材補給源として現在に至っている。

WBCは、独自資本のリーグから米MLB傘下のリーグになる過程で、オーストラリアがどのように進化したかを見る良い機会だった。

2006年頃のオーストラリア代表は「下手くそ」の一語だった。守備のレベルは低く、打撃も振り回すだけ。予選D組みでドミニカ、ベネズエラ、イタリアに負けて敗退。イタリアにも0-10の完敗だった。

2009年のWBCの練習試合、予選は日本で行われ、私も見に行った。京セラドームの練習試合、オーストラリアには屋根つきの球場はない。雰囲気に気圧されたこともあっただろうが、オーストラリアナインは普通のファウルフライでさえも取れないような感じだった。
シートノックも拙く、全くの草野球レベルのように思えた。自国にプロリーグがあるとはとても思えなかった。

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当時、NPBではジェフ・ウィリアムスと言うオーストラリア人の投手が活躍していた。しかし彼は高校卒業後アメリカにわたり、大学野球で頭角を現している。オーストラリア育ちとは言い難い。私はオーストラリアのようなレベルのリーグでは、プロは生まれないと思っていた。

2013年は、オーストラリアのプロリーグがMLB傘下に入った最初のWBCだった。私はどのようにオーストラリアが変化したか注目していたが、台湾ラウンドであっさりと敗北。
結局、何も変わっていないのだと思えた。
しかし同年秋台湾で行われた「アジアシリーズ」で、オーストラリア代表のキャンベラは、日本の楽天や韓国の三星、台湾のLamigo、統一などを差し置いて優勝したのだ。

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私はこのシリーズの全試合を観戦したが、オーストラリアの守備は相変わらず下手だった。
グラブの出し方がおかしいと思えるプレーがしばしばあったし、体の動きも緩慢だった。

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内野手の肩は強かったが、スナップスローもほとんど見なかった。
打撃も振り回すだけ。小技はほとんど使えなかった。投手は大雑把な制球の投手が多かった。

しかしながら、そうしたチームが鋭い球を投げるアジア各国を破って優勝したのだ。
MLB傘下になっても野球は精緻にはならなかったが、一人ひとりの「打つ」「投げる」「走る」能力は向上したように思えた。
この年のキャンベラには、昔のプロリーグの主力だった40歳近いベテランと、MLB傘下に入ってから加入した若い選手が混在していた。
彼らの能力の差は明らかだった。ベテランたちはキレのある球についていけなかったが、若手はどんどんこれを攻略した。

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MLBの傘下に入ると言うことは、MLBの野球のスタイルが移植されることではある。しかしそれは「作戦」や「プレーのスキル」を教えることではなかった。
のびのびと野球をさせる中で、素材を発見し、チャンスを与えることが中心であって、細かな技術を身に付けさせることではなかった。
低いレベルでそうした「スキル」を身に着けても、出世できるわけではない。あくまで「素材」を大きく育てるのが目的、という感じだった。
MLBの「マイナー」とはまさにそういうものだったのだろう。

今年の21Uワールドカップ、台湾代表もオーストラリアプロリーグの選手が中心、しかもリザーブクラスだった。
私はチェコとの試合を見たが、守備の拙さはチェコとそれほど変わらないように思えた。

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さすがの投手のレベルは高く、打撃も力強かったが、チェコのような後進国とも大差はないように思えた。

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しかしそのオーストラリアが、日本に対して0-5の劣勢から4回には5安打を集中させて6-5と一時は逆転したのだ。相手は中村勝、今季日本ハムの一軍で8勝を挙げた投手。オーストラリアの“素人”たちは、中村に6安打を浴びせたのだ。
試合は9-7で日本が逃げ勝ったが、オーストラリアと言うチームのポテンシャルを見せつけた。

恐らく今後もオーストラリアは「精緻化」はされないだろう。あくまで「素材」を伸ばす野球で底上げを図るだろう。
しかし、その底辺が上がってきたとき、つまりスケールの大きな選手が何人も出てきたときに、NPBの「箱庭野球」は、歯が立たなくなるのではないか、そんな想像がひろがっていくのだった。

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