毎年やっているNPBの2014年レビューのデータが無くなってしまった。復旧と言うより一から作らなくてはならない。考えるだけでうんざりする。
最後に作ったのは中日ドラゴンズの今年と前年の比較だった。
これを作り始めて5年になるが、落合中日は、近年まれなほどはっきりとした意志を持ってチームを作っていることが見て取れた。
目を見張るような改革が進んでいると言って良いと思う。

私が表を作るのは、読者各位にデータを提供するためだが、それと同じくらい「私自身が野球について学ぶ」ためでもある。試合を観戦したり、テレビやネットで試合経過を見たりして、野球について粗方知った気になることはできるが、例えば「この選手にどのような変化が起きているか」「このチームは、どんな方向に向かおうとしているか」などの変化は、印象論ではとらえにくい。
いろいろなデータを参考にしながら、自分で表を作ることによっていろいろなことが見えてくる。自分自身の実感として「この選手はこう変わろうとしている」「このチームは、こんなことをしようとしている」が見えてきたときは、本当にうれしいものだ。

今年の落合中日の変化も、そういう類のものだった。
中日の2014年レビューで詳述するが、それは端的に言えば「コストダウンをしながらチームを強化する」ということだ。
日米問わず、プロ野球は「金をかけたチームが強くなる」ものである。良い選手は高い年俸をもらっている。そういう選手をそろえなければ、チームは強くならない、のだ。

しかし落合GMは、そうした常識に逆らって「金をかけずにチームを強くする」ことに着手しているのだ。
一つは、新人の活用。今年、中日の投手陣の新顔は、移籍選手や外国人を一切使わず、新人投手だけだった。
ドラフトは高額の契約金を払うが、それでも他球団の出来上がっている選手を取ってくるよりははるかに安い。又吉、祖父江に代表される年俸1000万円以下の新人選手にチャンスを与えることで、少なくとも救援陣は昨年よりもグレードアップした

もう一つは、自軍や他球団で埋もれている選手の活用。お情けで巨人をFAにしてもらった小笠原道大を、代打の切り札にしたことでもわかるように、落合GMは、鋭い選球眼で選手を見極めた。

そして三番目は、選手の固定である。こうと決めたら選手を動かさず、徹底的に使う。ビジネスの世界にOJT(オンザジョブトレーニング)というのがあるが、まさにそれである。
そうした起用によって、大島洋平や平田良介は立派なレギュラーに育った。

恐らく、落合GMは、こういう形で再建計画を動かしているのだと思う。

しかるに、そうしたGMのグランドデザインを知る由もない大島洋平は、成績は上がったのは自らの手柄とばかりに年俸の大幅アップを要求し、ネゴシエーションに入った。
落合GMにしてみれば「何もわかっていない」と言いたいところだろう。



マスコミは喜んでこのやり取りを書きたてた。大島の「銭闘」だけでなく、親会社の派閥争いが落合GMの足元を危うくすると書くメディアもあった。
オフシーズン、球団側の構想をしっかり聞いて、それをちゃんと伝えた記事にお目にかかることは滅多にない。
中日だけでなく、しっかりしたGMなり、経営者なりは来季の構想をかなり精緻なレベルで打ち立てているはずである。大きなコンセプトがあって、その下にいろいろな取り組みがあるはずだ。
しかしメディアは、それを報じない。報じても面白くないからではあろうが、同時に彼らが経営やマネジメントなどの社会常識についてびっくりするほど知らないからでもある。

選手とフロントの年俸交渉のトラブルは、球団側の戦力補強の意図を選手側が理解しないためか、選手と球団側の「野球観」が異なったのか、選手の評価を球団が見誤ったのか、いろいろなことが考えられるが、メディアはそれを「人情」や「不平不満」など感情的な低レベルなものにしてしまうのだ。

「そういう小難しいものは読者に受けない」というかもしれないが、「マネーボール」はまさにそうしたことに題材を取ったドキュメントだ。今世紀の野球本の中で最も面白い一冊であることは言を俟たないだろう。

落合GMはアメリカのスポーツビジネスについてしっかり勉強しているに違いない。おそらくはオークランド・アスレチックスのビリー・ビーンGMがやったような球団改革に着手しているのだろう。

落合GMにも欠点はある。だれに対しても「ちゃんと説明をしない」点だ。マスコミが難しいことを理解しないのは、現役時代から良く知っている。だから「俺流」でやってきた。
選手やコーチにも腹心の者以外にはしっかり説明はしない。だから、大島のようにこじれる事態にもなる。
ただ、この点はビリー・ビーンGMも同様だ。彼は癇癪のあまり一気に数人の選手をクビにしたりするのだ。

メディアには、経営者や組織の長などもうならせるような、そういうドキュメントを現在進行形で書いてほしい。そういうストーリーが間違いなく動いている。

私は今オフもそういう目で中日や、他のチームのストーブリーグを追いかけていきたい。
その前に、データの再建が先ではあるけれど。


私のサイトにお越しいただき、ありがとうございます。ぜひコメントもお寄せください!




クラシックSTATS鑑賞もご覧ください。
小川弘文、全本塁打一覧|本塁打大全




広尾晃、3冊目の本が出ました。