黒田博樹の身の処し方は全くの異例だ。こういうケースはかつてなかった。

主要な日本人MLB選手のMLB最終年と翌年

Kuroda-Retire001


投手の中で、黒田はただ一人、最終年に規定投球回数に達して、二けた勝利を挙げている。年俸も最高額、そして年俸の下落幅は最大だ。

野手も含めて、最終年に辛うじてレギュラークラスだったのは、黒田以外には吉井理人、長谷川滋利、井口資仁、城島健司くらいだ。

日本人NPB選手のMLBからの身の引き方はこれまで

1)成績不振 → FA → NPB復帰
2)成績不振 → FA → 引退
3)成績不振 →契約破棄 → NPB復帰


の3つだったが、黒田によって

4)成績好調 → FA → NPB復帰

というこれまであり得なかったケースが生まれた。

4)がなぜあり得なかったかと言うと、
1)2)3)の選手は、成績不振によって、すでに年俸が下落しているか、次年度はたとえMLBにとどまったとしても年俸下落が避けられない=市場価が落ちている。だからNPB球団でもオファーができたからだ。
4)の選手は年俸が下落していないから、NPBでは手が出なかった。
しかし今回は、黒田が大幅減俸を呑んだために、全く異例の契約が成り立ったのだ。

3)のケースは佐々木、城島と西岡だが、ことに前年に3年契約を結んだばかりの城島が契約期間を2年残してNPBに復帰したのはMLB選手会には看過できないケースだった。

MLB選手会は経営者との長い戦いによって、FA権や高額の年俸などを勝ち取ってきた。年俸、待遇、FAなどは、選手の権利である。これを選手の側から一方的に放棄するのは、権利の放棄であり、経営者を利する。
悪しき前例になる。辞めたいのなら、球団とバイアウト(残りの契約の買い取り)交渉をすべきである。
選手会は、城島がマリナーズとの契約期間中に、阪神と事前契約交渉をした=タンバリングの可能性にも言及した。城島の日本復帰は、かなり「やばい」ケースだったのだ。

黒田の事例もMLBの球団間で行われたのなら、選手会や他球団、機構が声を上げる大問題になっただろう(どう考えてもあり得ないが)。
アメリカは世界で一番組合が強い国だ。MLB選手会はその中でも自動車労組と並び称される強い組合だ。団結を破る選手は徹底的に排除される。

一方、MLB各球団のフロントも、この契約を注視しているはずだ。
MLBでは一般的に、選手は少しでも好条件(年俸、待遇)を獲得することを目指してプレーする。球団は良い選手を獲得するために他球団よりも良い条件提示をしようと努める。選手獲得ゲームは、こうした市場原理にのっとったシンプルなものである。
しかるにMLBの一流選手である黒田博樹は、75%ダウンを呑んで日本の球団に帰っていった。市場原理に反する行動をとった。

これは黒田だけの特殊なケースなのか、それとも日本人選手は誰でもこんな行動をとり得るのか。
もし黒田の取った行動が、日本人選手普遍のメンタリティから出ているのであれば、今後もNPB球団による「不当な買いたたき」が起きる可能性がある。

ことに、広島は、今季前田健太を引き留め、黒田博樹を呼び戻した。
今後、MLB球団は広島との交渉に慎重になるのではないか。

黒田はオクタゴン・ワールドワイドというスポーツマーケティング会社と契約している。彼らの役割は、契約した選手を少しでも高く球団に売ることだ。
オクタゴンにしても今回の黒田の選択に困惑したと思う。どのような交渉をしたのかはわからないが、異例のことだったと思う。

MLBは、NPB、日本独自の文化と、それに根差した球団、日本人選手の行動が、アメリカや他国の選手のそれとかなり違うことに気が付いたのではないか。
おりしもMLBではNPB選手に対する評価は非常にシビアになりつつある。
黒田の取った行動は、NPBからMLBへの人材流出ムードに水を差すことになるかもしれない。

長期的に見れば、MLBはNPBを傘下に置きたいと考えている。オーストラリアでそうしたように。それは非常に大変だが、そのためNPB球団の文化、風土も変えていくべきだ、という考えが加速するのではないか。

黒田の今回の選択は、NPBとMLBの関係が変化するきっかけになるのではないか。


私のサイトにお越しいただき、ありがとうございます。ぜひコメントもお寄せください!




クラシックSTATS鑑賞もご覧ください。
白仁天、全本塁打一覧|本塁打大全




広尾晃、3冊目の本が出ました。