黒田問題は、今日で終わります。12/27にこのニュースが飛び込んできてから、たくさんのPVとコメントをいただいた。御礼申し上げる。飛距離のある切り口が提示できたと自負している。
改めて、黒田博樹が行った選択の影響について、日本、NPBサイドの側から問題点を整理しておきたい。

1)メディアの問題

27日、黒田が広島カープと契約すると報じたスポーツ各紙は、「男気、広島愛(ニッカンスポーツ)」「19億円より古巣愛(報知)」「使命感(スポニチ)」などと報じた。

オクタゴンを通じた黒田からメディアへのメッセージはこれだけである。

来季については、野球人として、たくさんの時間を熟考に費やしました。悩みぬいた末、野球人生の最後の決断として、プロ野球人生をスタートさせたカープで、もう一度プレーさせていただくことを決めました。今後も、また日々新たなチャレンジをしていきたいと思います。

「使命感」という言葉は、球団関係者が「黒田の言葉」としてメディアにもらしていたが、直接黒田の口から出たものではない。このタイミングでは、物理的にインタビューは無理だったはずだ。
当サイトは「直接取材もしていないのに、憶測で書くな」とよくお叱りを受けるが、主要メディアも取材無しで憶測記事を書いている。よくあることである。
たとえインタビューをしたとしても、今のスポーツ紙は大したことを聞き出すことができない。似たり寄ったりの見出ししかつけられない。

インタビューは私の生業の一つだが、ありきたりでない言葉を人の胸中から取り出すには、それなりのテクニックと熱意が必要だ。
しかし今の記者やインタビュアーはそれをしない。「テンプレート」のようなものが頭にあって、

他球団に移った選手が、元の球団相手に活躍したら「恩返し」
監督のアドバイスで選手が活躍したら「師弟愛」
弱かったチームが少しがんばったら「下剋上」


などと割り振るだけである。
黒田の場合も、黒田がインタビューで縷々説明したとしても、記者は半ばで
「それって、カープ愛ってことでいいんでしょうか」
と聞き、黒田はことさら否定すべきものでもないから
「まあ、そうですね」
といえば「カープ愛」という見出しと中身が決まることになる。こんな緩い感じである。

アメリカのメディアでは、こういうぼんやりした取材はあまりない。
まず事実関係をしっかり押さえて報道する。見出しは、そのまとめである。
インタビュー記事を書く場合も、オリジナルの見出し、言葉を見つけようとする。
有名選手はメディア対策をしているから、その言葉は優等生的でつまらないものが多いが、それでも自分の言葉で語ろうとする。インタビュアーも核心をつかもうとする。

日本でも雑誌や本などでは、選手の心の内奥に迫るものがあるが、新聞、スポーツ紙、TVメディアではほとんどない。しかしインパクトは、新聞、TVの方がはるかに強い。
かくして、「●●愛」の類が氾濫するのだ。

いい大人は、「●●愛」みたいないい加減な言葉で重要なことを決めたりはしない。
黒田自身も「熟考」「思い悩んだ」と言っている。「元の球団へのロイヤリティ」はもちろんあっただろうが、それだけで彼の決断を説明することはできない。
その葛藤を安物の焼酎のラベルのような「●●愛」でくくってしまうメディアには「まじめに仕事をしろ」と言いたい。

「お金じゃない」という言葉に至っては、何をかいわんやである。
16億のオファーを蹴って4億の契約を結んだのは黒田が「お金ではない何かを大事にしたから」ではない。
黒田は、表面的な「16億」「4億」からは見えない、さまざまなベネフィットを勘案して選択したのだ。
当サイトのコメントの中には、そのことを一生懸命私に教えて下さるようなものがたくさんあったが、それくらいのことはいい大人ならだれにでもわかることだ。
ベネフィットには「お金じゃない」ものも当然あっただろうが、すべてをひっくるめて「お金じゃない」と言われるのは黒田にとっては迷惑この上ないはずだ。
一個の大人、責任ある立場の人間として、黒田は大きな決断をした。それは「経済的な部分」も「それ以外の部分」も含むものだった。
外側から見れば、はるかに巨額のオファーを蹴るなど理解しがたいが、彼なりに整合性のある「大人の選択」をしたのだ。
その部分をちゃんと伝えたメディアはほとんどない。

メディアは、「黒田博樹がお金ではなく“広島愛”で古巣への復帰を決めた」と伝えているが、デマにちかい与太である。
黒田にしてみれば、今後の人生を送る上で「広島愛に生きる男」「お金じゃない男」というレッテルを張られるのは、迷惑なことだろう。

「私は〇〇愛に徹します」「人生にはお金よりも大切なことがあります」と恥ずかしげもなく大きな声で言うのは、政治家か詐欺師くらいである。

日本のメディアがいつごろからこの手の「お話」を大量に流布し始めたのかはわからない。スポーツだけではないが、「歯の浮くような話」に振り回される人々は、確実に増えているように思う。


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