今回のできごとの背景には、NPBとMLBの間の大きな経済格差がある。
2)経済格差
日米と国力比較と、NPB、MLBの経済格差を一覧にしてみた。NPBの数値はほとんど公開されていないので、故大坪正則先生の推測値などを加工した。

Nichibei-Kakusa


アメリカは日本よりも人口比で2.5倍ほど大きい国だ。だからGDPは、アメリカの方がかなり大きいが、所得で見れば似たようなレベルになる。経済格差はそれほど大きくない。

しかしながら、NPBとMLBには極端な経済格差がある。

球団数はほぼ人口比と同じ。
1試合当たりの入場者数は、MLBの方が少し多いだけだ。
しかし球団の売上高は、MLBはNPBの5倍弱。1球団当たりで見れば、2倍弱。
入場者数ではそれほど差がないのに、売り上げでは2倍もの差がある。

さらに年俸総額では8倍強、平均年俸では12倍、最低年俸でも2.5倍の差がある。

また利益ベースで見ても、MLBは最終黒字をキープしているが、NPBはほとんど利益がない。
MLBはすべての球団が独立採算だが、NPBは広島と日本ハムを除けば、親会社の連結企業である。それでも赤字。もちろん非上場企業の決算は、はっきりわからないのだが。

要するに、経済環境は大差ないのに、NPBとMLBの経済格差はけた外れに大きいのだ。

NPBのスーパースターがMLBに流出するのは、「経済格差」が存在するからだ。もちろん「よりレベルが高い野球」「より高いステイタス」も魅力ではあろうが、プロである限りそこに「より高い収入」があることが前提となる。
端的に言えば、NPBの選手はMLBに「出稼ぎ」に行っているようなものだ。

人材流出を止めるために、NPBは海外FA権を設定するなど障壁を設けているが、流出は食い止められない。
ここでは詳しく述べないが、MLBとNPBではビジネスのスタイルも、マーケティング手法も大きく異なる。率直に言えばNPBには「儲けるための仕組み=ビジネスモデル」が存在しない。これでは儲かるわけがないのだ。
本当に人材流出を食い止めるためには、NPBがMLBと大差ないところまで経済規模を大きくし、NPBの各球団がMLBなみの年俸を選手に支払えるようになるしかないのだ。

今回の広島は、まず「これだけしか出せない」という既成事実を作ったうえで、選手の個別の事情に付けこんで、異常な安値でバリバリのMLB選手との契約に成功した。
札束で顔をはたくような金満球団の商法を「金持ち商法」というなら、「金がない」ことを盾にとった広島の商法は「貧乏商法」ということになろうか。
違法行為ではないから、ビジネス的には「してやったり」ということだが、NPBとMLBの間に横たわる「経済格差を打破する」という本質的な解決策とは何の関係もない、小手先の技だと言うことができよう。



「NPBの4億円はMLBの16億円に相当する」というコメントをいくつもいただいたが、ボーダレス化が進む中で、そういうローカルなレートは存在しない。また、日米の経済環境は、選手の年俸がここまで開くほどの格差はない。

要するにNPBの経営手腕、マネジメントが無能だから、MLBに人材は流出するのだ。
これを引き留める手は、NPBがしっかりするしかない。広島の今回のような手は、あくまで「イレギュラー」であり、NPBが目指す方向性とは無関係なのだ。


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