三木谷オーナーの愛読書は「マネーボール」だそうだ。これまで注目されなかったセイバーメトリクスを駆使して、選手の新たな能力を開発し、チームを勝利に導いたビリー・ビーンは、三木谷氏にはベンチャーの鏡のように見えるかもしれない。
しかし三木谷氏は、ビリー・ビーンには絶対になれない。
ビーンは、オークランド・アスレチックスの共同オーナーだが、もとは1980年ドラフトの1位指名を受けた外野手だった。同期にはダリル・ストロベリーらがいる。挫折したものの、MLBにも148試合に出場した歴としたメジャー・リーガーだった。

彼が指導者、フロントとしてユニークな仕事をし始めたのは、自らの失敗を教訓としたからだ。セイバー系のデータを導入したのも、トップクラスのプロ選手としての経験、そして職業的な直感があったからだろう。
ビーンは気に入らない選手を数人まとめて放出するなど、暴君としても知られるが、彼自身もマイナー落ちや移籍、戦力外を経験している。
情け容赦のない処断をされた選手も、ビーンを恨みながらも納得することもできる。いわばビリー・ビーンは身内であり、「その道のプロ」なのだ。
しかし三木谷オーナーには、そのすべてがない。私たちと同様、素人だ。セイバーなどの戦略、戦術は本や情報によって頭で理解しただけだ。
同じことを言っても全く説得力が違う。おそらくはそれ以前に、データを用いて的確に指示することさえ不可能だと思われる。
三木谷氏は「独裁ではない、オープンディスカッションで合意してやっている。“鶴の一声”で何かが決まることはない」というが、どんなに猫なで声を出しても、絶対的な権力者に逆らう人間はいない。
ベンチャー企業の会議は、トップが出席する限り、必ず独裁になる。
最もたちが悪いのは、絶対的なオーナーである三木谷氏は、失敗しても、判断が裏目に出ても、誰からも責任を問われないということだ。
敗北の責任は、自分以外の誰かに押し付けることができる。なんとでも言いくるめることができる。
ヴィッセル神戸は2004年に三木谷氏が実権を握ってから、12年で17人もの監督を起用しているが、J1では9位が最高。J2にも2度落ちている。
普通のGMがこういう成績を続ければ、2~3年で首が飛ぶだろうが、成績不振でオーナーの首が飛ぶことはない。
ダメでも誰からも責められない指導者が独裁するチームが、勝利へ向けて邁進することは考えられないのではないか。
結局、イーグルスもサッカーチームと同様、三木谷氏のおもちゃになるのではないか。
昔の経営者は、ベンチャー企業の経営者のように果断な決断はできなかった。ビジネス界の流れもそれほど早くはなかったし、経営者もそれほどシビアではなかった。
そのかわり、昔の経営者は自分と異なる能力を持つ「人」を活かす方法を知っていた。
職人、技術者、特殊な才能のある人、一癖ある人をうまく使うには、どうすればよいかを知っていた。
ベンチャー企業がNPBに参入することは歓迎すべきこととは思うが、新しい経営者たちは選手や指導者、そしてその先にいるファンのことを第一に考えて手腕を発揮していただきたい。
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コメント
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仰るとおり、三木谷氏の最大の弱点はココでしょうね。指示された側はカリスマオーナーに従わざるをえず、心底からその意図を理解して従っているわけではないでしょう。
ただ、それでも、結果が出続ければ、守旧派や叩き上げの現場人も納得し、このような事態にはなっていなかったはず。今季は結果が出ていないので、アレやコレやの騒動になっていますが。
しばらくは様子を見たいと思います。
私はあり得ないと思いますし、やってはいけないと思います。人間社会の機微とはそういうもんではないでしょう。
これ、マネーボールを映画で観ただけの人にありがちな事実誤認です。
ビーンは、ビーンの前任のGMで、選手経験のないサンディ・アルダーソン(元弁護士)の方針を引き継ぐ形でセイバーメトリクスに傾倒しました。アスレチックスのセイバーシフトは野球選手ではない人によって始まっています。
映画しか見ていないなんてことありえないでしょ!
それは読みが浅すぎると思います。アルダーソンの提案を理解したのは野球人としてのビーンです。
ビーンがいなければ、セイバーがMLBに普及することはあり得なかった。
広尾さんがミッキーのことが大嫌いなのはよくわかったとして、私はこういうチームがあってもいいとは思います。会議がご本人の言うとおり本当に「オープンディスカッション」で行われているのなら、ミッキーがすることは紛糾した際に最後の決断の部分でしょう。それ自体は決して咎められる性質のものではありません。また、一時期の堤義明氏や数年前までの宮内義彦氏などの「やる気がない」などというオーナーよりは数百倍マシです。
もちろんいますぐに結果が出るようなものでもないでしょう。そもそもチーム強化の主軸はいつの時代もドラフトです。壮大な実験としてこういうチームを運営していくのもアリだとは思いますよ。
少しだけ野球界にふれたものとしていうと、野球は素人がデータを活用すれば勝てるようなそんな生易しい世界ではないと思います。極めて特殊な世界です。
外部の人間が踏み込めるのは編成、フロントまででしょう。監督、コーチの代役はできない。
三木谷さんはそこまでやろうとしている。
たとえ素人のデータを活用するにしても野球人としての判断がなければ、おそらく活用することは不可能でしょう。
私がいま扱っているデータは、あくまでファン向けだと自覚しています。率直に言ってチームが戦略的に用いるデータには興味がありません。
私はベンチャー企業の役員でした(端っこの)。楽天の内情も少し知っているので「オープンディスカッション」は嘘だと思います。そんな人ではありません。
確かにお飾りオーナーよりはましですが、問題点も多いと思います。
野球人「崇拝」が加速し、野球人の既得権益がさらに保護される方向に進むと、改革をしうる有能な人材が球界に入ってこなくなります。
三木谷に問題はありますが、背広とユニフォームどちらが偉いか、どちらが主導権を握るべきかという話にしてはだめでしょう。どちらであろうが、有能な人間が主導権を握るべき、という空気をつくるべきです。
色々議論が深まっていますが、話がざっくりとしすぎて、問題が混同されているんじゃないかと。
フロント、編成面において背広を着た人間が主導権を握るというのはアメリカでもよくあることですし、日本でも少しずつ進められてきています。これに関しては皆さん仰るように、旧来のざっくりとした戦力編成を改善する作用も働くでしょう。
しかし、今回明らかになったのは、現場における采配への介入です。
素人のオーナーが投手交代、選手交代にまで口を出すというのはいかがなものか、そういうことを言っているのであって、データを活用して戦力編成をするということにまで否と言っているわけではないでしょう。そこはごっちゃにしてはいけないでしょう。
どんなに能力があっても、現場介入は無謀でしょう。
どんなビジネスでもマネジメントと現場は一線を画するものです。
社長が直接、工房や研究室や店頭に指示を出すなんてありえないし、そんなことをしたら現場が崩壊する。
そういうことですな。
「オープンディスカッションで、誰でも平等に意見を言える空気だった」
「フロントと現場に一体感があった」
「それによる成功例も多々あった」
…という話が出るのならまだ信じられます。
しかし、いわば容疑者である三木谷氏本人が言っても信憑性が無いですよね。
今後、楽天は良いスタッフ・選手を集めるのに苦労しそうな気がします。
「悪い噂のある楽天に行くのはちょっと…」と二の足を踏む人が多いのでは。
ただ、他の方もおっしゃっていますが、
壮大な実験・通過儀礼としてこういう運営スタイルをNPBが経験しておくのも大切な気がします。
今後もベンチャー企業がチームを持つことは十分あり得る訳ですから。
失敗は反面教師としてNPB(またその他のスポーツ団体)が財産としていけば良いのではないでしょうか。
野球の采配にもこれと同じようなポイントがあるのではないかと思っていて、抽象化されたデータに対して、現場では本当にたくさんのファクターが絡み合っている状況が現れてきます。今現在、思考を省略できないアナリストでは、経験に裏打ちされた洞察・勘の力をもつ監督コーチに太刀打ちすることは不可能でしょう。実際に野球を見ていると、セイバー的な発想では一見非合理だが、一段二段深く考えると腑に落ちる采配は多いものです。
※ただ上にも上がっていますが、トラッキングシステムなどで過程までもデータとして扱えるようになれば、多少状況は変わっていくかもしれないと、個人的には思っています。
それにしても、三木谷さんには、こうした暗黙知へのリスペクトを持っていただきたいですね。
面談くらいはしてるんじゃないかと思うんですが、なぜ後からこんな問題が出てくるのかがわかりません。
ん? ではビーンの現場介入もおかしいというお考えなのですか?
その考え方を基軸に書いたのであれば、元選手であろうが、選手でなかろうが、現場とマネジメントは分離されるべきだという話にならないとおかしい。
元選手ならば、現場とマネジメントの分離という鉄則が破られていいわけではないでしょ。
「三木谷はビリー・ビーンになれない。なぜなら選手じゃないから」と書くのではなく、現場とマネジメントの分離の鉄則を三木谷が破ってると書けばいい。ビーンの仕事の大半はマネジメントで、その部分を三木谷が担える可能性はあるのだから。
>最もたちが悪いのは、絶対的なオーナーである三木谷氏は、失敗しても、判断が裏目に出ても、誰からも責任を問われないということだ。
>敗北の責任は、自分以外の誰かに押し付けることができる。なんとでも言いくるめることができる。
私は、広尾さんのこの言葉にこそ、今回の問題の本質があると思います。
権力だけ振りかざして責任を負わない絶対的権力者は、絶対悪ではないかと思います。
実際に楽天ファンの方はどのように思っているのか聞いてみたいです。それによってどうこうと言うわけではありませんが...。
楽天の現場レベルには同情しますが、この壮大な挑戦の結果がどうなるか見ものです。もっとも、程度の差はあっても、セイバーを取り入れている球団は実際には他にもあるんでしょうけど。
現場レベルにコミットし過ぎることで勇み足になることもあるでしょう。三木谷さんがどこまで自制心をもって現場レベルとの距離をたもてるか、一つのポイントになりそうです。
優秀な人がたくさん入って来るが、2年ぐらいで辞めてしまう
些細な事一つ自由にならない、三木谷さんのワンマン企業だと。
その方は楽天を辞めた人材を斡旋するビジネスなんかどうだろうと冗談交じりにおっしゃっていました
辞めた人間の言葉なので話半分にしても、広尾さんの分析は的を射ていると思います
今思えば楽天がオーナーのおもちゃなのは田尾監督解任の時から見えていたわけですね
野球選手上がりか否かの違いは決定的に大きいでしょう。ビーンであってもGMが試合の采配に口出しをするのは問題でしょうが、現場の抵抗感が違うと思います。
それからビーンはGM専業ですが、三木谷さんは自分の仕事の何十分の一しか野球にかけられないはずです。ビーンにはなれるはずがありません。
初年度に3年契約した田尾氏を、全面的に信じて任せる的な口約束があったのにもかかわらず1年でクビにしたり
またチーム作りの段階でユニフォームへの楽天のロゴは無しで行きましょうと田尾氏が発案したことに対して、最初OKを出しながら最終的には反故にしたり(田尾氏証言より)
ヴィッセル神戸は元々ユベントスのようなゼブラカラーのユニだったのに
自分の好きな色ワインレッド一色に変えたり(イーグルスも同じですね)
私はこの人に独裁者のイメージしかありません
インタビュー読みましたが、結果が出ていないし、もうすぐ最下位ですよね、フロントと現場の一体化が進んでいる成果ってことですかね?
>ヴィッセル神戸は元々ユベントスのようなゼブラカラーのユニだったのに
>自分の好きな色ワインレッド一色に変えたり(イーグルスも同じですね)
新球団のイーグルスはともかく、ヴィッセルのチームカラー変更は古参のファンからはかなり反対の声があったようです。サッカークラブではまずあり得ないことですからね。
ちなみにこのクリムゾンレッド、三木谷氏の母校であるハーバード大学のスクールカラーだそうです。
ただ三木谷オーナーを含め楽天には、強く言えない事情が宮城県民にはある。
築55年の県営老朽化球場を誰が改修した、と言われれば…。
グラウンドも荒れ放題、内野スタンドはコンクリート打ちっぱなし、ロッカールームもエアコンもシャワールームもダメ、室内練習場も無い、プロ野球選手が二度とプレイしたくない地方球場ワースト1、がほんの11年前まであったということ。
大きな「借り」がある以上は強く言えない。
かと思えばTHE PAGEにはこんな記事が…。
オーナーの現場介入の是非(本郷陽一 筆)
三木谷オーナーに関しては、筆者はこんな言動を直接聞いたことがある。楽天が球界に新規参入した際、仙台に本拠地を構え、現在のkoboスタジアム宮城を楽天が改修して県に寄付する形をとったが、三木谷オーナーは、「お金をドブに捨てるようなもの」と、ハッキリと口に出したのだ。思わず本音が出たのだろうが、彼は、文化として地域に愛される公共財としての野球チームの価値を理解していないのだと思った。その後、三木谷オーナーがどう変節したかを知る余地はないのだが、今回の報道を目にして、そこからつながっていくものを感じた。
…何なんだろうこのやるせなさは。
9/11~13とコボスタ宮城でE-H戦があるが、この3連戦でHがリーグ優勝決定し監督に続いて孫オーナーが胴上げされ、優勝インタビューで内川か松田あたりが「チームが強くなるために尽力してくれたオーナーにお礼を言いたいです。勝てない時があって色々言いたいこともあったと思いますが、黙って現場に任せてくれた、そして監督・コーチ・選手を見守って頂いたオーナーに感謝いたします!」とか言わないとオーナー、球団、ファンは目が覚めないだろう。