案の定、東海大菅野智之が、日ハムに指名されたことに対して、老人がかみついた。
昭和10年生まれの原貢氏は、挨拶にも来なかった日ハムが、孫を1位指名したことに「人権蹂躙」とかみついた。大正15年生まれの渡邉恒雄読売新聞社主は、ドラフト制度は「憲法違反」と吠えた。
しかし、昔と違うのは、こうした老人の発言が、世論の共感をほとんど得られなかったことだ。

江川卓をめぐる同様の騒動では、読売新聞は「ドラフト制度は職業選択の自由に反する」と論陣を張った。しかし、今は、渡邉社主膝下のスポーツ報知も、読売新聞も、第三者的な報道にとどまっている。ドラフトの問題は、法的にも社会的にも、世間に認知されている。たまたま自分たちに不利な結果が出たからと言って、異議を申し立てるのは、まともな言論機関にはできない。世の中は進歩したと思う。

野球愛好家のブロガー諸氏の意見も、ドラフトの結果を受けて、菅野は日本ハムに行くべし、との見方で一致している。巨人はもはや人気実力両面で普通の球団であり、特別視すべきことは何もないからだ。

あのドラフトの席上で、日本ハムの津田社長が当たりくじを引いたときにおこった拍手は何だったのか。もちろん、日ハムファンの快哉の拍手が多かったとは思うが、それに加えて過去2年、長野久義、澤村拓一と、その年のドラフトの目玉選手を、おめおめと巨人に単独指名させていた腰抜けの他球団が、悪しき因習を打ち破って菅野を指名し、指名権を獲得したことへの賞賛もあったと思う。

世間は、菅野智之が日本ハムに指名されたことを「ふつうの出来事」と受け止めている。また、菅野がどんな選択をするかは彼の自由だが、概ね日本ハムに行った方が良いのでは、という意見が大勢を占めている。

しかし、である。スポーツ紙はこうも報道しているのだ。サンケイスポーツ。

「プロ野球ドラフト会議で2球団競合の末、希望する巨人入りの夢が断たれた日本ハムのドラフト1位、東海大・菅野智之投手(22)に、祖父で東海大系列校野球部顧問の原貢氏(76)が28日、“一浪のススメ”を説いた。同氏は、事前に指名あいさつのなかった日本ハムが「だまし討ち」したと憤った上で、菅野は入団を見送り、来年のドラフト会議で希望球団の指名を待つべきだと主張。原一族の家長の注目発言で、菅野の入団拒否-一浪が決定的となった」


菅野智之は、野球がしたいのか、巨人のユニフォームが着たいのか。自分の頭でしっかり考えてみるべきだ。巨人の指名を待って浪人をするのも手だろうが、それで成功をした例は今年の長野くらいしかない。たいていは売り時を誤って、中途半端な選手で終わっている。野球選手の「旬」はそれほど短いのだ。

さらに言えば、老人というものは、若者のために碌なことをしないものだ。30年近く前の話だが、柔道の金メダリスト山下泰裕は、育ての親である祖父の山下鯛蔵に、プロレスへ売られそうになった。孫に良かれと思う気持ちはあるが、長期の展望が描けない上に、古い因習にどっぷりとつかっているために、近視眼的な行動しかできないのだ。
「僕がここまで成長できたのは、祖父や親や周囲の人々の協力があったからだ」というのは、老人や頭の固い大人向けの単なるお世辞だ。菅野智之は、自分の能力と努力で、今の価値を獲得したのだ。菅野は、一個の人間として、自分の道を選択する権利がある。どの道を選ぶにしても、自分の意志だけで選んでほしい。