NPBとMLBの野球の質的変化と実力の推移を見るために、1950年以降の両球界の主要な出来事を年表風にまとめてみた。
色の濃い部分は、野球の質的変化に強く関連性があると思われる事象

1950年代以降のMLBは「市場拡大」の道をひたすら突き進んできたことがわかる。
チーム数は1950年の16球団から30球団に。
西海岸への進出、三度のエクスパンションによって、MLBに触れる人々の数は急増した。
これによって選手の数も倍増した。
江本孟紀など日本の評者は、エクスパンションによるMLBの実力低下を指摘したが、MLBはエクスパンションと歩調を合わせて、選手を調達するエリアも拡大させてきた。黒人のMLB参入に始まり、中南米地域からの選手の流入、さらにはNPBやKBO、CPBLからの選手の移籍。
マイナーリーグは、アメリカ、カナダだけでなくメキシコにも創設された。さらにドミニカ共和国、ベネズエラ、プエルトリコはMLBの市場と化した。
現在ではMLB選手の4割は外国人選手となった。
一時的には実力低下をきたした時期はあったかもしれないが、こういう経緯を見れば、むしろエクスパンションによって、MLBのレベルは向上したのではないかと思われる。
こうした急拡大の背景には、MLB以外の北米4大スポーツの発展がある。国内市場での伸びが期待できない中で、MLBは世界を市場とせざるを得なくなった。今では国内でのファン層は中高年層を中心に、限定的だが、ビジネスの多様化によって収益を維持している。
市場拡大によって、MLBの経済規模も巨大化した。選手はFA権を獲得、年俸も高騰した。
MLBの野球の変質は、こうした市場や経済規模の拡大、国際化を背景として起こった。選手の数が増え、その出自も多様化することで、野球のスタイルは変化していった。分業、大型化、スピード化などは、こうした中で進行した。
21世紀に入って、選手年俸の高騰化に対抗する形で、“マネーボール”に象徴される野球選手の新しい評価基準が生まれる。セイバーメトリクスによって明らかにされる選手の資質の特定の部分(出塁率、長打率、制球力、守備範囲など)がクローズアップされ、その総合指標たるWARが、一番の評価基準となる。
これまでの打率、打点、本塁打、勝利数、防御率などの指標は色あせる。今世紀に入って「良い選手」の基準が変わった。これによって、選手のプレースタイルも変化した。

1950年代初頭、NPBはまだ日本野球のトップリーグでさえなかったが、長嶋茂雄の入団を契機として大学野球から覇権を奪う。
以後、野球界の最も優秀な人材がNPBに入ることになる。これによって60年代、NPBの実力は飛躍的に向上したと思われる。これをリードしたのは間違いなく巨人だ。MLBの戦術、戦略を取り入れて、NPBに革命をもたらした。しかし巨人一強の時代が長期化する中で、野球人気は低迷する。
1965年のドラフト制度の導入によって、70年代半ば以降に球団の実力の均衡が進み、優勝チームが多様化する。この時期、NPB全体の選手のレベルアップがあったと思われる。
1988年の東京ドームの開設は、画期をなした出来事だと思う。これを契機に、各球団のフランチャイズ球場の大型化が進んだ。「チープホームラン」は一掃された。
松井秀喜がMLBでも30本塁打を打つことができたのは、球場の大型化があったからだ。NPBのパワーアップは東京ドーム開設以降に進んだと思う。
そして野茂英雄のMLB挑戦以降、日本人トップ選手の意識は海外に向くようになった。日本の野球少年の最終目標が変わったのだ。
イチローやダルビッシュ有に代表される「自己管理能力の高い選手」は、NPBの国際化によって生まれた。日本での成功に満足しない選手が、さらなる高みを目指すようになったのだ。
2005年の球界再編によって、結果的にNPBの市場は全国に広がった。交流戦も始まり、この時期以降、巨人、阪神以外のチームの観客動員が急増する。
MLBが市場拡大を続けてきたのとは対照的に、NPBはこの間、球団数は増えず、むしろ減少した。経営者の無能によって、市場拡大は進まなかった。しかし現場の努力によって質的に深化した。MLBとの交流の深まりによるところも大きい。
ここ65年、MLBは劇的に変化し、実力も向上したが、NPBは、これにかろうじて追随してきたのではないか。
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こうして俯瞰して見ると、MLBはしばしば「将来の収益増のため、いま自腹を切って投資や合理化を行う」という経営者の視点が感じられます。
一方でNPBは、渡邉恒雄の提唱した1リーグ制に顕著なように、現在の難局を乗り切るため、しばしば将来の収益を犠牲にしている。
「経営者主導」「現場主義」という違いは、両国の企業文化とも通じるものがあり、どこまでも研究できそうなテーマになるでしょう。
広尾さんの仰る「自己管理能力の高い選手」がNPBの基準、あるいは最低ラインになった時に、ようやくMLBに互角の勝負を挑めるレベルになるんじゃないでしょうか。
身体能力で劣る以上、アメリカの選手よりも努力しないと同じステージに立てないことは、ダルビッシュが強く主張することでもあります。