新年にもお伝えした通り「野球があぶない!」は、この趣旨での新刊を出すことを前提に展開している。このほど正式に出版が決まった。遅くとも5月には出す予定だ。

サッカーと野球、どう違うか? 上|野球があぶない

サッカーと野球、どう違うか? 下|野球があぶない

「国際化」「すそ野拡大」サッカーと野球はどう違うか|野球があぶない!

「野球」からシェアを奪った「サッカー」|野球が危ない!

「課題と向き合う」真摯さの有無「サッカーと野球」|野球があぶない!

野球競技人口をめぐる疑問|野球があぶない!

中学野球部員の激減|野球があぶない!

繁栄しているように見える野球界に衰退の危機が迫っていると感じたのは、昨年6月のこと。読者より高知新聞が「高知県内の少年野球人口が激減している」ことを集中連載コラムで報じていると聞かされた。ちょうど藤川球児の記者会見を取材するため高知にいたので、高知新聞に立ち寄って、新聞のコピーをいただいた。
その内容は衝撃的だった。

1.高知県内の少年野球人口が毎年5%ずつ減少している
2.その背景に「野球が嫌いな子供、母親」の存在がある
3.高知県のサッカー界はこうした子供をサッカーに誘引している
4.しかし高知の野球界は何ら対策を立てていない


調べてみると、この傾向は全国で起こっていた。中体連のデータでは野球が「独り負け」になっていた。そしてサッカーが(野球の落ち込み分をすべて取り込むほどではないが)ほとんど唯一部員数を増やしていた。
さらに10代以下の若者、子ども層ではサッカー人気がダントツトップで、野球はダブルスコアで負けていた。

この数字を見る限りでは、2020年、東京五輪を迎えるころには野球は、衰退が顕在化するのではないか。
若年層の野球離れは、もはや応急措置では食い止められない。ではどうすればいいのか、という問題意識で「野球があぶない」を始めたのだ。

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野球の衰退は、メディアの扱いを見れば明らかだ。
地上波での中継は絶滅寸前だ。また日本プロ野球の発展に決定的な役割を果たした「プロ野球ニュース」の流れをくむ「すぽると」も地上波から消滅する。
昭和の時代、キラーコンテンツだった「プロ野球」は、今や「おわコン」になった。
スポーツを粗略にするテレビ、メディアに対する批判のコメントもあったが、現代にあってはテレビの評価基準は「視聴率」だけであり、その背後にある広告代理店、クライアントの意向なくしてはテレビは作れない。
今や公共放送であるNHKでさえも視聴率を最大のメルクマールにする時代だ。野球が地上波テレビで粗略な扱いを受けるのは「視聴率が取れない」からだ。
そして、この事実が「野球の衰退」をはっきりと物語っている。

しかし一方で、プロ野球界は昨年2400万人を動員。実数で動員数を発表するようになって以来の最多を記録した。
また、甲子園も次々とヒーローが登場し、日本中がわいている。これはどういうことなのか。
NPBの繁栄は、各球団営業サイドの徹底的なマーケティングによる。この辺りの事情は長谷川晶一さんのこの本に詳しい。



NPB各球団は、ファンクラブ会員を核とするコアなファン層に重層的にマーケティングを行っている。球場へ来させるため、グッズを買わせるためにパーソナルなアプローチを徹底的に行っている。
これによって、ファンはシーズン中に何度も球場に足を運ぶようになる。
さらに各球団はこれまで未開拓だった女性層にもアプローチをして、新たな顧客も開拓している。こうして球団は観客動員も、リピーターになるヘビーユーザーも増やしているのだ。
こうしたリアルな顧客の取り込みは、Jリーグから大相撲までのスポーツ各界、ジャニーズ、劇団四季などの芸能界でも行っている。現代日本の「ファンの収益化」は高度なレベルに達している。

甲子園は朝日新聞、毎日新聞という大メディアがグループのテレビも含めて一大キャンペーンを張ることで、高い人気を維持している。3月、8月のピークに向けて、メディアが大きく報道することで、大きな注目を集めている。

しかしながら、こうした取り組みはそろそろ限界に近くなっている。プロ野球の観客動員は、球場のキャパ以上にはならない。巨人の観客動員が頭打ちなのは東京ドームの動員率が95%を超えているからだ。
ソフトバンクや日本ハムの観客動員の伸びが悪いのもエリアマーケティングがほぼ飽和状態になっているからだ。
甲子園の観客動員も、いずれ限界が来る。民放が高校野球の中継時間を減らしつつあることを見てもわかるように、高校野球人気は天井が見えつつある。

こうした状況を打開するためには、観客動員以外のビジネス=ライセンス、マーチャンダイジングなどを拡充し、海外市場にも展開していく必要がある。そして、スケールメリットを高めるために、球団ではなく、NPBがビジネスの主体になるべきだ。
この辺りはこの本を参照。







しかしその前提となる「野球の支持率」が低下するとすれば、こうしたビジネスモデルは頓挫せざるを得ない。

マーケティングは、コアなファンから収益を上げることはできるが、「ファン離れ」を食い止めることはできない。


一球団の努力や、マーケティングではとうてい解決できないこの状況を打開するにはどうしたらいいのか、ということだ。

一方で、サッカーが追随者という不利なスタンスから、じりじりとファン層を獲得しつつある。野球は若年層を中心にシェアを奪われている。
サッカー界に問題がないとは全く思わないが、少なくともガバナンスの差は明らかだ。野球とサッカーでは当事者意識の差は圧倒的なのだ。

「答えはないのか」というコメントもいただくが、そんなに簡単に答えは出ない。
私は本の後半で、関係する各界のリーダーに話を伺う予定にしている。そうした中で、ある程度の方向性を見出したいと思っている。

こうして考えを進めていくうちにいろいろ疑問点が出てきた。

 1.なぜ2010年から少年野球、中学野球部の部員数は激減しているのか
 2.中学硬式野球の競技人口は増えているのか、減っているのか
 3.高校野球の部員数の数字は、実数なのか、水増しされているのか
 4.減っているのは競技人口なのか、愛好者なのか
 5.競技人口、愛好者、どちらの減少が野球にとって深刻なのか


これらの疑問点には、直接取材することも含め、迫っていきたいと思う。

月曜日からは「野球はなぜ一枚岩ではないのか」というテーマで考察をする。引き続きお付き合いいただきたい。


W.ウイリアムス、チーム別&投手別&球場別本塁打数|本塁打大全

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