42歳のイチローが元気だとか、レジェンドだとかいう日本向けの記事がたくさん出ている。MLBはいつからシニアクラスができたのかと思う。


私は1994年以来イチローを見てきた。
その驚異的なパフォーマンスをわがことのように喜んできた。
NPB時代の圧倒的な打棒、さらに定規で引いたような右翼からの三塁、本塁送球にしびれるような快感を覚えた。
MLBに移籍してからも、異能は衰えなかった。パワーはあらかた失われたが、安打を量産する技術は磨きがかかった。
そして外野守備も「レーザービーム」が売り物になった。
小さな日本人選手が、MLBで大きなアメリカ人たちを驚嘆させている。それはわがことのようにうれしいことだった。

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10年連続3割、200本安打、シーズン最多安打記録。
イチローはレコードブレーカーだった。
マリナーズ時代は「やつは個人記録にこだわっている」という陰口もたたかれたが、リーグで誰よりも多くの安打を打ち、リーグ上位にランキングされている数字を残している限り、文句を言われる筋合いはなかった。
イチローは個人成績をあげることで確実にチームに貢献していたのだ。

イチローは2011年を境に衰えが見えた。
安打数が減り、長打はほとんどなくなり、守備でも冴えが見えなくなった。

37歳という年齢を考えてもやむを得ないことだと思われた。
徐々に成績が落ちてきた。

イチローは自分がプレーのクオリティを維持できないと思った時点で自ら身を引くものと思っていた。

ヤンキースの2年半は、時折素晴らしい輝きを見せたものの、不本意な成績に終始した。
この時期のヤンキースは「宇宙一」といわれたスター軍団が崩壊し、外野はガードナーやアンドリュー・ジョーンズ、カルロス・ベルトランなどの顔ぶれだった。イチローはその中では守備では優位だった。
また.280くらいは打てたから、打者としても「標準的」だった。

しかしマーリンズに移った昨年の、特に夏以降は目も当てられなかった。
7月は77打数15安打.195、8月は89打数24安打.270だったが、9月は72打数10安打.139。
月間50安打を何度も記録した打棒ははるかに昔のことになった。

9月の成績を見る限り、引退はまぬかれないと思った。

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しかしマーリンズは、イチローと早々にメジャー契約した。200万ドルというお手軽価格ではあったが、イチローは他の選手であれば絶対にFAになるようなパフォーマンスでメジャー・リーガーの座を確保したのだ。

それは明らかにあと65本に迫ったMLB3000本安打、43本に迫った日米通算最多安打を記録させんがための契約であり、それを“お祭り”にして商機につなげようという球団側の思惑が絡んだものだった。

イチローはチームの勝利に貢献しなくても、パフォーマンスが低くても「特別扱い」されているのだ。
これは晴れがましいことではなく、恥ずかしいことだと思う。

3000本安打はもはや単なる「数字」だ。日米通算に至っては「記録の捏造」である。
イチローはこの数字をクリアしなくても殿堂入りは確実だ。
力が衰えてまで、現役にしがみついてまで達成すべき数字ではない。

かつて、NPBには2000本安打目前で引退した選手が何人もいた。
あと22本で引退した飯田徳治、23本の毒島章一、37本の小玉明利。
名球会のない当時は、それに大きな意味がなかったからだが、その時代とて通算記録は強く意識していたに違いない。
しかし、力が衰え、チームに貢献できないのに、個人の成績を優先するのは潔しとしない判断が働いたのだと思う。
そういう選手を私は立派だと思う。飯田徳治以外は殿堂入りしていないが、それに等しい価値がある。

メディアは16年目のイチローが相変わらず素晴らしい脚力を見せ、鋭い打球を飛ばし、抜群の肩を見せていると書いている。
「お客が読みたいことを書く」という今のメディアのつまらなさが表れている。
シーズンが始まって、イチローが脚力や打力、肩を発揮できなかった時には、そのことをきっちり報道してほしい。

私もイチローの3000本安打を待望する。
しかしそれは、記録達成を喜ぶためではなく、これで老残のみっともない姿をさらすことなく、イチローが引退できると思うからだ。

それ以上の意味はもはやない。


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