サラリーマンだった時分に、職場の人を誘って野球に行くことが何度かあった。
あまり野球を知らない人を誘うときに「掛布が出るから」「清原が出るから」という誘い方をした。
テレビでおなじみ、甲子園でおなじみのスターを生で見てみないか、ということだ。
野球の試合にそれほど興味がなくても、そういう誘い方を知れば「いく、いく」という人も結構いた。

関西では掛布の人気は抜群だった。
掛布が結婚したのは私が高校2年の時だが、相手の女性の可愛さと、若さ(確か19歳くらい)を知った時の教室は、異様な興奮状態になった。やり場のない性欲を持て余している男子高校生にとって、それは衝撃的だった。

それはさておき、甲子園で掛布雅之が左打席に立って、お決まりのルーティンを始めると、一塁側のアルプススタンドから「カ・ケ・フ、カ・ケ・フ」という歓声が、滝のように落ちてくるのだ。
甲子園の内野スタンドは大鉄傘におおわれている。ここに大音声がぶつかって、音が渦巻いた。腹に響くような音がしたものだ。
気乗り薄だった同僚も、上気して見ていたものだ。

清原は大阪球場や西宮球場ではアウエィだったから、それほどの声援はなかったが、ヤジを飛ばす一塁側を睨みつけながら、悠々とスイングをする姿には大物の風格があった。清原はわざと一塁側スタンドにファウルを打ち込んだりしたものだ。

少し後になるとイチローがそういう対象になった。
左打席に立つと「イ・チ・ロー!」という絶叫が降ってくる。掛布のときよりも女子の含有率が高いような気がしたが、気のせいだろうか。
そんな一途な声に励まされるように、イチローは安打を打つ。グリーンスタジアム神戸で私はイチローの2打席連続本塁打を見たことがあるが、確かに彼は輝いていた。

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大選手でも、野球を知らない人があまりぴっと来ない選手もいる。
「門田博光がでるねん」と誘って「誰?それ」と言われたことを覚えている。

そういう人は野球ではなく、有名人を見に行っているということになろう。
それは野球ファンとしては邪道のようにも見えるが、実は大事なことだと思う。

私たちの世代がMLBに触れたのは1977年のことだ。フジテレビがMLB中継を始めたのだ。
ベースボールマガジン社からそれに合わせてMLBのガイドムックが出た。私は今も大事に持っているが、私たちはこの本を見て、テレビでパンチョ伊東さんや八木一雄さんや、岩佐アナウンサーや、池井優先生などの解説を一言も聞き漏らすまいと聞いていたのだ。
オープニングで、サングラスのレジー・ジャクソンが笑いかけていたのを覚えている。
スティーブ・ガービー、ピート・ローズ、レジー・スミス、ロッド・カルー、スティーブ・カールトン、トム・シーバー、そうそうたる大スターたちは、テレビとベーマガの本で勉強したものだ。

しかしMLB中継は長くは続かなかった。だんだん時間が短くなり、ダイジェスト版になっていった。
私のようにMLB選手を知ろうと努力して、思い入れを寄せる人はそれほど多くなかったのだろう。
多くの人にとっては、スティーブ・ガービーもトム・シーバーも「よく知らない外人さん」であり、有名人にはならなかったのだ。

MLBが本格的に根付くのは、それから十数年後、野茂英雄が海を渡ってMLBに挑戦してからだ。
パ・リーグとはいえNPB屈指のスターだった野茂がアメリカで野球をしている。私たちが知っている「有名人」があっちで野球をしている。
これが大きかったのだ。
NHKのMLB中継は大きな注目を集め、事業を始めたばかりのBSの加入促進に大きな役割を果たしたという。
この時期に日本でMLBで最も名前を知られたのは、当時の大選手だったバリー・ボンズでもロジャー・クレメンスでもなく、野茂の相方のマイク・ピアッツァだった。

この流れを決定的にしたのは2001年のイチローのMLB挑戦だった。
野手のイチローはほぼ毎日試合に出る、すでにNPB一の人気者だったイチローが、むくつけきMLBの投手を向こうに回して縦横無尽の活躍をする。これに日本中のファンがはまったのだ。

こうして考えてみると「有名人」を生産し続けることは、野球の発展のために非常に重要だということがわかる。
その後も野球界は松坂大輔、ダルビッシュ有、斎藤佑樹、田中将大、最近のオコエ瑠偉、清宮幸太郎まで、「有名人」をずっと輩出し続けた。
彼らがライトユーザーを常に惹きつけて、野球界を盛り上げてきた。

率直に言って、有名人がいなくても、地味でもいそいそと野球場に出かけるようなヘビー・ユーザー(私もその一人だが)は、ほっといてもいいのだ。

それよりも「スターを見たい」「一緒に応援したい」という「有名人好き」をいかにしっかり惹きつけておくか、が大切なのだ。

そういう意味ではどういう形であれ、「地上波キー局」での露出は非常に重要なのだと思う。

2015年武藤好貴、全登板成績【陰ながら投げまくって60試合登板】

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