今、高知に来ている。昨夜は取材関連のジャーナリスト氏と飲んでいた。おわりかけに、テレビを見たら、なでしこの試合結果を伝えていた。

よもや、と思ったが、なでしこにはまた白星がつかなかった。
朝、ホテルのテレビをつけたらまたやっていたが、もうこのニュースは見たくないなと思った。

澤穂希が引退したとたん、なでしこジャパンは一気に弱くなったように見える。
昔の日本サッカーもワールドカップの予選を勝ち抜くのに四苦八苦していたが、同じような状態に戻ったようだ。
メンタル面が大きいのかもしれない。

この結果、単になでしこジャパンの選手や佐々木監督の責任が問われるとかいう次元ではすまされない影響があるだろう。

サッカー人気は、1998年以来、ワールドカップのたびに階段を上るように盛り上がっていった。
Jリーグやサッカー協会の首脳も「国際大会で活躍することで、サッカーそのもののステイタスを上げる」という目的を持っていた。
有名高校サッカー部の監督に話を聞く機会があるが、そういう指導者も「世界に通用するサッカー」を目標の第一に挙げていた。指導者のライセンスも「国際化」を重視していた。
その結果、多くの日本人がサッカーに興味を抱くようになった。海外の有名選手も知られるようになった。
その割にJリーグの観客動員やスポンサー収入は伸びていない。人々の関心が「世界」に向いて「Jリーグ、国内」に向かないのは大いに問題だが、国際化なくしてサッカー人気の浮揚はありえなかった。

男子に遅れて女子サッカーも日本中に知られるところとなった。これも国内リーグではなく、国際大会の活躍による。2011年のFIFA女子ワールドカップで日本が奇跡的な優勝をしたことで、一気にサッカー人気が盛り上がった。
私は現役時代の宮本ともみに2回インタビューしたことがある。彼女は「伊賀くの一」というチームに所属していたが、スポンサーが抜けて苦労をしていた。彼女は伊賀の地元の男性と結婚し、夫の実家の協力を得て遠征をしていたが、他の選手の多くはコンビニやスーパーなどでバイトをし、夜練習に参加していた。プロとは名ばかりの苦しい状況だった。
宮本は一歩間に合わなかったが、2011年の優勝で、女子サッカーは日本中に知られるところとなり、澤穂希などはスターダムに上がった。
2012年のロンドン五輪では銀メダル、そして2015年のワールドカップは惜しくも準優勝だったが、女子サッカー人気は維持されてきた。
多くの人々は「日本の女子サッカーは世界トップクラスだ」と思ったはずだ。

ストーリーでいえばブラジル五輪も当然出場して、メダルに絡むはずだ。

当たり前のようにそう思っていたが、わずか2試合で自力での五輪出場の目が消えてしまった。

ここ5年ほどのなでしこの奮闘によって、若者世代の女子の好きなスポーツランキングで、女子サッカーが急上昇した。
オリコン調べでは、昨年には好きなスポーツ選手の8位に川澄奈穂美、9位に澤穂希にランクインするようになった。浅田真央や吉田沙保里などには及ばないが、認知度は飛躍的に上がった。
男子サッカーも、ワールドカップのたびにランキングが上がったが後発の女子サッカーもその道をたどりそうになっていた。

しかし五輪出場を逃せば、そうしたムードは一気にしぼむだろう。国際大会は開催頻度が少ない。
それだけに、チャンスを逃すとダメージが大きい。
もちろん2019年のワールドカップを目指すだろうが、スポンサー獲得なども厳しくなるだろう。
たった数試合の結果が、そのスポーツジャンル全体の未来に暗い影を落としてしまうのだ。

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野球はドメスティックなスポーツとして発展してきた。人気に陰りが見えて、将来は決して明るくないが、サッカーに比べると年配層を中心にした「基礎票」が強固だ。

野球においては「国際大会」の比率は高くない。
MLBもNPBも国際化が大命題になってはいるが、WBCやオリンピックで敗退しても、壊滅的なダメージは受けない。
そのあたりが新興のサッカーとの大きな違いだ。

野球界はこうした「資産」を大事に使うべきだ。
国際大会に力を入れるとともに、高齢化しているドメスティックなファンを掘り起こして、多世代での野球の普及などをもっと積極的にやるべきだ。

まさに他山の石だと思う。

松中信彦本塁打全史


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