「野球史」という長い物差しで見れば、「今」はどういう時期なのだろうと思う。
「清原覚せい剤事件」や「野球賭博事件」が起こった2016年は、大きな節目となる年なのか、それとも単なる1年で終わるのか。
阿部珠樹氏の「野球賭博と八百長はなぜ、なくならないのか」によれば、大相撲の不祥事は、必ず1人横綱などで相撲界が盛り上がっていない時代に発生するという。
確かに2010年の「大相撲野球賭博事件」「大相撲八百長事件」も、朝青龍から白鵬へと時代が移り変わる過渡期に起こった。
「柏鵬」「若貴」など両雄が拮抗し、大いに盛り上がっている時期には、スキャンダルは噴出しないのだ。
もちろん、その時期に犯罪行為が皆無になるわけではない。いつの時代にも不心得ものはいる。しかし人気があって繁栄していると忙しくなる。賭博や不正を働く余裕がなくなるのだ。
また実入りが良いと、他で金を稼ごうという気持ちもなくなるものだ。
野球界でも同様だ。
1969年にパ・リーグを中心に巻き起こった「黒い霧事件」は、巨人がV9を独走中で、セとパの格差が決定的に大きくなった時期に起こった。
パの選手とセ、とりわけ巨人の選手との待遇の格差は、年俸以上のものがあった。
パの選手は主力級でも、新幹線は普通席を使っていたが、セは裏方でさえもグリーン車で移動した。
プライベートでも、生活水準の差は明らかだった。
是より少し後の話だが、長谷川晶一さんの本によれば、永射保は、オフには身分を隠して自衛隊でアルバイトをしていたという。二軍選手ではなく歴とした一軍選手でもそうしなければ食えなかったのだ。
パの選手には時間があった。巨人の選手のようにテレビへの露出は少ないし、スポンサーによる夜の町で派手な交際も少なかった。その間隙を縫って裏社会の人間が接近したのだ。

今回の事件も「ダメな方のリーグ」で発生したという点で「黒い霧事件」と同様だという見方ができる。
巨人は今も人気随一のチームではあるが、パ・リーグの勃興によって、相対的な影響力は下落した。観客動員も頭打ちであり、おそらくは沈滞ムードが漂っていたのだろう。
特に、一軍半で浮き沈みしている選手は、それなりに金もある上で時間もある。そこに裏社会の手が伸びたという説明ができるのではないか。
セ・リーグのチームがパに歯が立たなくなっている背景には、選手や球団のモチベーションの低下もあると思う。
組織全体が弛緩し、緊張感がなくなっているために、スキャンダルの温床となったという点でも「黒い霧事件」と軌を一にしている。
ただこうしたスキャンダルの背景に、「黒い霧事件」以前からNPBには野球賭博や違法ギャンブルが蔓延していたことは補足しておく必要があるだろう。
プロ野球は発足した当初、アマチュア野球から「サーカス」「旅興行」とさげすまれた。これは金銭を取って野球をすることを卑しむ気風が学生野球にあったからだ。
東京六大学のスターだった鶴岡一人が南海に入ったときに、法政大学のOB会を破門になったのは有名な話だ。
しかし学生野球が職業野球を蔑む根拠もないわけではなかった。
戦前の職業野球では、八百長や賭博は蔓延していたのだ。
戦後になって何人かの選手が雑誌等でカミングアウトしているが、戦前は野球賭博が公然と行われ、八百長も行われていた。
野球殿堂入りするような大選手が元締めとなって、八百長を仕組むこともあった。
戦後になってもその風潮は残った。
何度も触れているが、鶴岡一人は復員して兼任監督になって、チーム内に八百長行為が蔓延していることに愕然とした。鶴岡は警察に相談するとともに、疑わしい選手を放出し、新たに選手をスカウトしてチームを浄化した。
他球団でも同様だった。
その温床は「合宿所」だった。
合宿所の大広間には麻雀卓がおかれ、選手たちは試合や練習が終わるとこれを囲むのが通例だった。
記者たちも加わることがあった。
当時、一般の野球選手と記者の年俸はそれほど格差がなかったから、同じレートで麻雀をすることもできたのだ。
賭け麻雀だけでなく、様々な賭博が行われていた。
野球賭博もその一つだったのだ。
「黒い霧事件」以降、野球賭博は八百長への第一歩であることが認識され、他のギャンブルとは別物という認識が一般化したが、それでも根絶はしなかった。
私は見ていないが、当サイトの読者によれば先日のテレビ放送で金村義明が
「二軍選手が野球賭博ができるなんて、巨人はやっぱりすごいですね」
と発言したようだ。
端なくも、野球賭博が高額な金が行きかうギャンブルであり、他球団では一軍の高給取りの遊びだったことを露呈させてしまったのだ。
金村は翌日の「昼おび」では「パチンコや競艇など、公営ギャンブルをやるのは構わないが、違法な野球賭博をするなんて」
とフォローをかましていたが、要するに野球賭博は、他球団でも一般的なものだったということだ。
その手の賭博が、どういう規模かはわからない。しかし高額なものであれば、当然、胴元には専門知識とマネジメント能力が求められる。
裏社会と結びついていたのではないか、という疑念がわいてくるのだ。
NPBは、全力で全容解明に当たるといっている。
ぜひ、そうしていただきたいものだ。
球史を紐解けば、中途半端な幕引きがあだとなって、深刻な事態になったことが何度もある。
どうせばれるのであれば、他社に暴き立てられるよりも、自浄能力を発揮するほうが何倍もましだ。
最後の一滴まで黒い汁を絞り出してほしい。
1966年池永正明、全登板成績【ヒジ痛と闘いながらのピッチング】
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「柏鵬」「若貴」など両雄が拮抗し、大いに盛り上がっている時期には、スキャンダルは噴出しないのだ。
もちろん、その時期に犯罪行為が皆無になるわけではない。いつの時代にも不心得ものはいる。しかし人気があって繁栄していると忙しくなる。賭博や不正を働く余裕がなくなるのだ。
また実入りが良いと、他で金を稼ごうという気持ちもなくなるものだ。
野球界でも同様だ。
1969年にパ・リーグを中心に巻き起こった「黒い霧事件」は、巨人がV9を独走中で、セとパの格差が決定的に大きくなった時期に起こった。
パの選手とセ、とりわけ巨人の選手との待遇の格差は、年俸以上のものがあった。
パの選手は主力級でも、新幹線は普通席を使っていたが、セは裏方でさえもグリーン車で移動した。
プライベートでも、生活水準の差は明らかだった。
是より少し後の話だが、長谷川晶一さんの本によれば、永射保は、オフには身分を隠して自衛隊でアルバイトをしていたという。二軍選手ではなく歴とした一軍選手でもそうしなければ食えなかったのだ。
パの選手には時間があった。巨人の選手のようにテレビへの露出は少ないし、スポンサーによる夜の町で派手な交際も少なかった。その間隙を縫って裏社会の人間が接近したのだ。

今回の事件も「ダメな方のリーグ」で発生したという点で「黒い霧事件」と同様だという見方ができる。
巨人は今も人気随一のチームではあるが、パ・リーグの勃興によって、相対的な影響力は下落した。観客動員も頭打ちであり、おそらくは沈滞ムードが漂っていたのだろう。
特に、一軍半で浮き沈みしている選手は、それなりに金もある上で時間もある。そこに裏社会の手が伸びたという説明ができるのではないか。
セ・リーグのチームがパに歯が立たなくなっている背景には、選手や球団のモチベーションの低下もあると思う。
組織全体が弛緩し、緊張感がなくなっているために、スキャンダルの温床となったという点でも「黒い霧事件」と軌を一にしている。
ただこうしたスキャンダルの背景に、「黒い霧事件」以前からNPBには野球賭博や違法ギャンブルが蔓延していたことは補足しておく必要があるだろう。
プロ野球は発足した当初、アマチュア野球から「サーカス」「旅興行」とさげすまれた。これは金銭を取って野球をすることを卑しむ気風が学生野球にあったからだ。
東京六大学のスターだった鶴岡一人が南海に入ったときに、法政大学のOB会を破門になったのは有名な話だ。
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戦前の職業野球では、八百長や賭博は蔓延していたのだ。
戦後になって何人かの選手が雑誌等でカミングアウトしているが、戦前は野球賭博が公然と行われ、八百長も行われていた。
野球殿堂入りするような大選手が元締めとなって、八百長を仕組むこともあった。
戦後になってもその風潮は残った。
何度も触れているが、鶴岡一人は復員して兼任監督になって、チーム内に八百長行為が蔓延していることに愕然とした。鶴岡は警察に相談するとともに、疑わしい選手を放出し、新たに選手をスカウトしてチームを浄化した。
他球団でも同様だった。
その温床は「合宿所」だった。
合宿所の大広間には麻雀卓がおかれ、選手たちは試合や練習が終わるとこれを囲むのが通例だった。
記者たちも加わることがあった。
当時、一般の野球選手と記者の年俸はそれほど格差がなかったから、同じレートで麻雀をすることもできたのだ。
賭け麻雀だけでなく、様々な賭博が行われていた。
野球賭博もその一つだったのだ。
「黒い霧事件」以降、野球賭博は八百長への第一歩であることが認識され、他のギャンブルとは別物という認識が一般化したが、それでも根絶はしなかった。
私は見ていないが、当サイトの読者によれば先日のテレビ放送で金村義明が
「二軍選手が野球賭博ができるなんて、巨人はやっぱりすごいですね」
と発言したようだ。
端なくも、野球賭博が高額な金が行きかうギャンブルであり、他球団では一軍の高給取りの遊びだったことを露呈させてしまったのだ。
金村は翌日の「昼おび」では「パチンコや競艇など、公営ギャンブルをやるのは構わないが、違法な野球賭博をするなんて」
とフォローをかましていたが、要するに野球賭博は、他球団でも一般的なものだったということだ。
その手の賭博が、どういう規模かはわからない。しかし高額なものであれば、当然、胴元には専門知識とマネジメント能力が求められる。
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コメント
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何を今さら(笑)
「野球史」ということで一歩引いて考えますと、今回の不祥事はインパクトは強いものの過去に例のない新しい問題が起こったという訳ではない、という事実に気が付きます。外国人選手でしたが覚せい剤使用により追放された例、野球賭博と八百長の問題により危機的状況になった例、のように過去に一度は問題になり乗り越えたはずの案件でした。
ではなぜ再び起こしてしまったのか?という反省と分析が球界全体で為されなければなりません。個人的には、「歴史の軽視」が大きい要因と見ています。正の側面では過去の名選手へのリスペクト(”金村さん”は論外)、負の側面では”黒い霧”を危機感を持って伝える(軽い気持ちでも、手を出しえないように)、そういう努力が不足していたと思います。
平成28年が「プロ野球が歴史を大事にするきっかけになった年」となったならば喜ばしいことです。
最後に、「スポーツ史」とさらに二歩三歩引いて考えますと、世界の他のプロスポーツでも似た問題を抱えている訳で、何もプロ野球固有の問題が発生した訳ではないことに気が付きます。プロテニスやプロサッカーでも八百長はホットな不祥事です。他スポーツの取り組みを研究して良いものを取り入れるだけでなく、”共通の敵”へのスポーツの垣根を超えた共闘といった取り組みも模索して然るべきと考えます。
張本勲が、今朝の例の番組で、高木京介に「喝!」を出さなかったことが注目されているようです。それにしてもこの人は、他人(≒他競技)に厳しく、自分(≒野球)に甘い。まさにマスコミそのものです。
金村義明の一連の発言同様に、野球界の人間の中には「まあ、そういうもんだろう」という考えが染みついているんでしょうかね。パ・リーグの元スター選手にして「黒い霧」をリアルタイムで経験している人間にしてからこうです。病根はなかなか深そうです。
そりゃ、身に覚えがあれば厳しいことは言えませんよ。ましてや身内に。
未来の歴史家は「93年のJリーグ発足が契機となって野球人気は陰りを見せていたのにも拘らず、球界は20年以上適切な対応を取らなかった。そのため野球界は著しく衰退し、屈指の人気球団であった巨人の選手が賭博に手を出すほどになってしまった。」などと記述するのかもしれません。
この20年余りの間、適切な対応をとらなかった人物は今の現役選手ではありません。OBや指導者、フロント、オーナーです。
彼らのこの20年の行動は尊敬に値しません。野球界の危機に目を向けず、ただただ既得権益に拘泥し続けただけです。現役時代を知らない者から見たら、老害でしかないでしょう。
現役選手は偉大なる諸先輩の功績を勉強すべきとは思いますが、その諸先輩が老害化しているという現実も重要と思います。
・イメージを守るために建前としては禁止しているが、多くの者が守っていない。
・週刊詩に書かれる等で公になってしまえばやむなく処分するが、自ら徹底調査して違反者を炙り出すようなことは決してしない。
膿を出しきる事は出来なさそうです
本日の記事の戦前の賭博・八百長問題に関する記述はどこの文献を参考にされたのですか?
ただし、新たな問題ではなく、歴史が繰り返されたという点では、衝撃度は昔ほどではなかったかな。
もし、膿を出し切ることが最終目標だとしたら、巨人のみならずNPBの崩壊も覚悟しないとならないでしょうね。
清廉潔白な組織や社会にするというのは、一旦ゼロにしないと無理。
鶴岡一人の自伝です。また、大宅文庫で、戦後の週刊誌などを探して手記をいくつも見つけました。実名等は明かすことができませんが、相当な大物が関与しています。
「円陣の声かけ選手が、掛け金総取り」は驚愕ですな。つまり毎試合ベンチで野球賭博がされてた?
音声テープを残すぐらいなので笠原は確信犯で、ヤクザがたまたま野球選手だった。
きっと、その声のヌシが大物選手なのでしょう。
すでに巨人が笠原側にカネを払ってることはありませんか?
将来的に、ここ2、3年が日本野球界の(良い方の)ターニングポイントとなってくれることを願います。
私個人的には日常的に賭博は行われていると思える状況で、必死で火消しして1年後には無かった事にするでしょう。
野球のトップがこのような状態なのだから野球そのものに関わらないようにするのが一番なのかもと4児の子を持つ父としては考えてしまいます。