出版系の仕事をして日が浅いので、私は先日急逝された佐野正幸さんと面識はない。いつかお目にかかる日があるとは思っていた。
お人柄を語る資格はないが、「スタンドから野球を語る」という視点に、私は大いに力づけられた。

北海道のご出身、札幌光星高校卒だから、高校時代は大阪明星高校の私と同じ制服を着ておられたはずだ。ちなみに今日、選抜で戦っている長崎海星高校も同じ制服。
近鉄百貨店に勤務したのち、近鉄、パ・リーグを中心とした著作を多数ものにされた。

私は佐野さんの本はだいたい読んでいる。
中で強烈な印象だったのが
「プロ野球の世界に生きるということ フェンスの向こうの特殊性」
という本だ。



多くの選手との交流にもとづいて、プロ野球選手の「常識」が、一般の人々とどれだけ違っているかを具体的に紹介している。

「時間を守らない、また時間を惜しむように大切にする」

プロ野球選手は、シーズン中に限り、極めて自己中心的に時間を使おうとする。オフになると時間を守るようになる。

「ご馳走されても、物をもらってもお礼を言わない」


高額所得者の選手は、おごってもらってもうれしくはない。むしろ「顔を立てて付き合ってやった」という感覚なのだ。

「女は誰でも『やらせる』ものだと思っている」


あの素晴らしい肉体を見れば、男でも納得ではあるが、素人の女性にもそういう感覚で付き合うからトラブルが起こる。
ある選手は
「プロ野球選手に電話番号を教えるということは、やらせるということと同じだ」
とうそぶいたという。すさまじい話だ。

「待ち合わせ場所など、一度聴いたらもう繰り返さない」

監督に「二度といわせるな」と怒鳴られながら育ったからだ。

「何でもやってもらって当たり前と思っている」

エリート選手は十代のころからそういうおぜん立てをされて育ってきた。
だから一般の社会人が知っていることを何も知らない。むしろそれがエリート選手の勲章でもある。

「上の指令には恐ろしく従順である」

とにかく理屈を言わず、上司や先輩の言うことを素直に聞き、実行する。

「プロ野球経験のない人の野球に関する意見には素直に従わない」


アナウンサーやスポーツライター、著名人なども含めて素人の理論を認めるのが嫌。
私はプロ野球の実況中継のブースにお邪魔したことがあるが、アナウンサーは、はるかに年下の解説者を立てて「教えていただいている」と言った。その心がけでないと、うまくいかないのだろう。

佐野さんは、こういう選手を「体育会系」といい、そのほかに「常識人系」の選手もいると説明している。

アメリカでもアスリートは特殊な社会にいる人々ではあるが、こういう「体育会系」の選手は、日本独特なのではなないか。

今、球界に渦巻いている野球賭博や金銭授受に関する話は、まさにこの「体育会系」の選手たちが引き起こしているのだと思う。
プロ野球選手はほとんどが「天才」の域に達する人たちである。それだけに、世間的な常識や倫理観、気配りを知らずに育った選手が多い。

野球賭博、金銭授受の問題を根底から解決するには「体育会系」の選手をはじめとする「プロ野球選手」に対する新しい教育が必要なのだろう。

佐野さんには、この事件の核心を突くような著作を期待したかった。合掌。

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