いろいろ取材をして中高の教師は、見方によっては「学校の囚人」のようだと思った。好きでやっているのならそれでいいだろうが、仕事と家庭を両立したい人には絶望的な職場だ。学習院大の長沼豊教授の意見を紹介したい。
文部科学省によれば、中学校では72.4%が週6~7日活動し、高校では77.8%が週6~7日活動している。

また日本の教員の1週間当たりの勤務時間は参加国最長(日本53.9時間、OECD参加国平均38.3時間)で、課外活動(スポーツ・文化活動)の指導時間が特に長い(日本7.7時間、参加国平均2.1時間)という結果が出ているとのこと。

これはあくまで「勤務時間」の話だ。部活は教師にとって「ボランティア」であり、勤務には入らない。仮に週6日、3時間部活をしているとすれば、これに18時間が加算される。OECD参加国平均の倍近い時間となる。

長沼先生の言う通り、部活は生徒には全員参加の義務はなく、教師にも顧問をする義務はない。あくまで「オプション」のはずだが、日本のほとんどの高校では、部活が必須科目のように最重要視されている。

教師には「教職調整額を月給の4%を支給するが、時間外勤務手当及び休日勤務手当は支給しない」。

中高の先生は「ブラック企業問題」をせせら笑っているかもしれない。本来、人権、民主主義を守り、健全な生活習慣を身につけさせるべき教育の現場が、ひどいことになっているのだから。

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こうした状況になったのは、一部の熱心な、熱心過ぎる顧問に学校全体がひきずられたことが大きいようだ。
日本人は、給料ももらえないのに家庭も顧みず生徒を指導している先生がいる横で、定時に「お先に失礼します」となかなか言えない。「自分は自分」とはっきり言えない日本人のダメな部分がここに表れている。

もう一つは、親の問題。部活は親から見れば「超安価な習い事」のようなものだ。ピアノでもバレーでも、水泳でも、学校外でやらせれば金がかかる。部活は部費や用具代はかかるが、はるかに安い。そして、土日も含めて毎日面倒を見てくれるのだ。共働きが多い今の親にとっては、これほど助かることはない。

こうした部活が、日本のスポーツ、文化の発展に寄与しているのは間違いないが、同時に部活の体質が、伸び悩みの原因にもなっている。

かなり変化してきているとはいえ、いまだに多くの部活は指導者の絶対的な指導力のもと、行われている。基本姿勢は絶対服従だ。そのために部員は「やらされる」ことに慣れて、自分で考えることが苦手だ、プロや一個の表現者となったときに、それが「限界」になることが多い。
また、自分で判断できないことから、インモラルな行動や反社会行為に無自覚に走ることが多い。

世界で活躍している日本のアスリートは、日本流の練習法から脱却し、海外の練習法やメンタルトレーニングを身に着けていることが多い。これも「部活」の限界を示していると思う。

もう一つ、日本人は「長時間何かをやることが美徳」だと思っている。これも部活由来だ。高校野球の強豪校は、授業のある日でも5時間以上、休日は10時間以上練習している。
桑田真澄も言う通り、人間はそんなに長く集中できない。練習が惰性になってしまう。非効率な練習の成果は低い。そして怪我や故障のリスクも飛躍的に高まるのだ。

プロ野球のキャンプに初参加したルーキーたちは、口をそろえて「高校や大学の練習の方がきつかった」と言うが、それは明らかに「練習のし過ぎ」なのだ。

敷衍するなら、日本に蔓延する「サービス残業」「過労死」の問題も、「部活問題」と同質だ。遊び、ゆとりを「悪」とみて、長時間働くことが「美徳」だとするおかしな風潮が、日本を停滞せしめているのだ。

トップアスリートは「意識高い系」となり、合理的でリスクの少ない練習をするようになる。また自分で考える力もしっかり身に着ける。
問題は、二線級以下のアスリートだ。旧弊な考え方の彼らこそが「指導者」になるのだ。これによって「ブラック部活」は再生産されるのだ。

野球は、すべての部活の中で最も成功した部類に入る。「部活問題」は、野球の問題でもある。
この問題がどう解決に向かうのか、注目したい。


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