片岡宏雄 「プロ野球 スカウトの眼は すべて 『節穴』である」


一昨日、朝日新聞は巨人軍に返答書を送った。内容的には巨人の抗議に対して「そうじゃありません」といったというだけで、ニュースでもなんでもない。

今後は朝日新聞が新事実を提示するか、巨人軍が告訴するかしなければ進展はないだろう。清武氏と巨人、読売側の裁判も2月2日に第一回口頭弁論があったのだが、今のところ報道はない。
そもそも清武氏も朝日新聞も、裁判で勝利することは目的ではない。言論の場で巨人の非を鳴らし、それがNPBの機構改革、制度改革につながることが本筋だろう。

さて、これから数日、野球界をめぐる問題への提言、考察をしている本を紹介していきたい。何冊か続けて読んだのだが、論点は共通している。NPBの病巣はある程度特定できているように思う。

「プロ野球 スカウトの眼は すべて 『節穴』である」

この本は、昨年出されたときに読んでいたが「くだらない」と思っていた。裏金の問題や談合など、プロ野球の内幕が暴露されているのだが、週刊誌などでスキャンダラスに書かれている内容をまとめただけだと思っていた。
が、しかし、改めて読み直してみると、朝日新聞が今回報道した内容と酷似している。この人は本当のことを言っていたのだ、ということがわかった。

著者片岡宏雄氏は、浪商では坂崎一彦、山本八郎の1学年先輩。立教大学では杉浦忠、長嶋茂雄らの1年後輩、プロでは水原茂の薫陶を受け、金田正一の球を受け、引退後は新聞記者を経てヤクルトでスカウト、取締役として活躍した野球人である。

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選手としては見るべきものはなかったが、スカウトとしてドラフト導入期から平成に至るヤクルトの主力選手の大部分を獲得してきた。

予算的に限界があるヤクルトは、大物選手を巨人に奪われてきた。片岡氏は巨人など他球団が目をつけない隠れた素材を見つけることに躍起となる。身体能力もさることながら、精神力、そして一種独特の雰囲気を持っていることが大事だ。片岡氏の職人的な勘がいきてくる。

このあたり「マネーボール」のビリー・ビーンや清武英利氏が「時代遅れ」と否定したスカウト像にあてはまる。片岡氏は多くの実績を上げただろうが、眼鏡違いもたくさんあったはずだ。

ヤクルトは監督や上層部がスカウトに口出しをしなかったので、やり甲斐はあったという。

片岡氏は1993年、逆指名制度が導入されてから、選手獲得に法外な金が飛び交うようになったという。その主役は巨人と根本陸夫氏によって札束攻勢の選手獲得法が根付いた西武、ダイエー(ソフトバンク)。そしてこのころからスカウトの仕事は独自の人材を発掘することよりも、特定の有望選手に攻勢をかける方にウェイトがかかってくる。

片岡氏は2004年に退職している。

2007年にはNPBはすべてのアマチュア選手に対する一切の利益供与を禁じる倫理行動宣言を行い、2007年には希望入団枠が廃止された。しかし片岡氏は、今も裏契約は存在すると言っている。指名された選手に拒否されないために、あらかじめ裏金を渡しているのだという。

さらに片岡氏はスカウトの中には私腹を肥やしている輩がいることにも言及している。

高橋由伸、長嶋一茂の獲得をめぐる騒動、野村克也との確執など改めて読み直すと恐ろしく内容が濃かった。

昨年の私はそういうことも含めて「くだらない」と思っていたのだが、今のNPBの状況を見れば、この本は非常に重要ではないかと思えてくる。

この本に書かれていること、そして他の資料なども合わせて、少し先に「裏契約をめぐる年表」を改めて作成しようと思う。

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