この試合の9回裏、3人の日本の打者は地に足がついていない感じだった。
中田翔は、打率は低いが、勝負強さは圧倒的。体をぐっと沈めて構え、好球を待つ。一発で仕留める勝負強さはNPB随一だ。しかしこの打席ではグレガーソンの内角、見逃せばボールかもしれない速球を打って投ゴロだった。
坂本勇人、昨年のセ・リーグの首位打者は、ボールをとらえる技術にかけてはずば抜けているが、彼もグレガーソンの初球をひっかけて遊ゴロに倒れた。
そして松田宣浩、小久保ジャパンの内野のリーダー格。何度も起死回生の好打を打ってきた。今日は、三塁守備での一瞬のジャッグルで決勝点を許してしまっている。何とかしたい、その気持ちがこちらまで伝わってくる。しかしグレガーソンの投球は、もう松田には見えてなかったのではないか。2ストライクの後、外角に投じた変化球に他愛なく空振りして、ゲームセット。
この3人は、数々の大舞台を経験してきた。
中田翔は大阪桐蔭ではエース兼4番、日本ハムでも日本シリーズの決勝打を打つなど、大舞台になればなるほど強かった。
坂本勇人は、リトルリーグでは田中将大とバッテリーを組むエースであり、巨人に入団してからは20代で1000本安打。大選手への道をひた走っている。
松田宣浩は、中京高、亜細亜大から逆指名でソフトバンクに入団。私はこの年のキャンプで颯爽とプレーする松田を見ている。彼は"熱男"という名前でチームを引っ張り、小さな体ながら30本塁打も打った。
実績も経験も十分で、自他共に許す「野球のエリート」の彼らをして、ここまで追い詰められ、プレッシャーに押しつぶされた。そしてアメリカの前に、手もなく凡退した。
彼らのようなトッププレイヤーでさえも、経験したことがない大きな圧力を感じたのだ。
今日、目の前で起こった事実に、私はWBCというイベントの特殊性が凝集されていると思う。
このイベントは、日本、世界のそうそうたる野球選手を、さしたる報酬も与えずに召集し、トーナメントに近いような厳しい環境に放り込むというものだ。
まるで熱々の坩堝に放り込まれたように、彼らは1戦必勝の試合の熱に焼かれ、消耗していく。怪我や故障のリスクもある。厳しいストレスもある。自らのキャリアを考えれば、辞退した方が賢明だっただろう。事実、その選択をした選手もいた。
しかし、彼らはそこに進んで身を投じた。
それは「国を背負う」高揚感だろう。それとともにに「世界で一番野球がうまいのはどの国か、一番いい打者は、投手は誰か？」を決めるイベントに出てみたい、という好奇心だったのではないか。
小さいころから命を駆けて打ち込んできた自分の「野球」が、世界の舞台でどれだけ通用するか試してみたい、という思いだったのではないか。
その気持ちはおそらく、他の国の選手も同様だっただろう。
「天下一武道会」に出る腕自慢、力自慢のような、まっすぐな熱情と好奇心で、彼らは侍ジャパンのユニフォームでプレーした。
その純情と、野球への愛情の深さに深い感動を覚える。
最終回、緊張と絶望感で体が動かなくなるまで頑張ってくれたことに感謝したい。
おそらく選手たちは「このチームを解散したくない」「もっと一緒に戦いたい」と思っているに違いない。しかし、侍ジャパンは今日で解散する。小久保裕紀監督も退任を表明した。
まさに一期一会だったからこそ、こんないい試合ができたのだ。
侍ジャパンは「野球」のために戦った。他の国の選手もそうだった。いい加減な大会かもしれないが、その真実がある限り、WBCは存続する価値があると思う。
楽天 開幕投手一覧
私のサイトにお越しいただき、ありがとうございます。ぜひコメントもお寄せください！
↓
好評発売中！
坂本勇人、昨年のセ・リーグの首位打者は、ボールをとらえる技術にかけてはずば抜けているが、彼もグレガーソンの初球をひっかけて遊ゴロに倒れた。
そして松田宣浩、小久保ジャパンの内野のリーダー格。何度も起死回生の好打を打ってきた。今日は、三塁守備での一瞬のジャッグルで決勝点を許してしまっている。何とかしたい、その気持ちがこちらまで伝わってくる。しかしグレガーソンの投球は、もう松田には見えてなかったのではないか。2ストライクの後、外角に投じた変化球に他愛なく空振りして、ゲームセット。
この3人は、数々の大舞台を経験してきた。
中田翔は大阪桐蔭ではエース兼4番、日本ハムでも日本シリーズの決勝打を打つなど、大舞台になればなるほど強かった。
坂本勇人は、リトルリーグでは田中将大とバッテリーを組むエースであり、巨人に入団してからは20代で1000本安打。大選手への道をひた走っている。
松田宣浩は、中京高、亜細亜大から逆指名でソフトバンクに入団。私はこの年のキャンプで颯爽とプレーする松田を見ている。彼は"熱男"という名前でチームを引っ張り、小さな体ながら30本塁打も打った。
実績も経験も十分で、自他共に許す「野球のエリート」の彼らをして、ここまで追い詰められ、プレッシャーに押しつぶされた。そしてアメリカの前に、手もなく凡退した。
彼らのようなトッププレイヤーでさえも、経験したことがない大きな圧力を感じたのだ。
今日、目の前で起こった事実に、私はWBCというイベントの特殊性が凝集されていると思う。
このイベントは、日本、世界のそうそうたる野球選手を、さしたる報酬も与えずに召集し、トーナメントに近いような厳しい環境に放り込むというものだ。
まるで熱々の坩堝に放り込まれたように、彼らは1戦必勝の試合の熱に焼かれ、消耗していく。怪我や故障のリスクもある。厳しいストレスもある。自らのキャリアを考えれば、辞退した方が賢明だっただろう。事実、その選択をした選手もいた。
しかし、彼らはそこに進んで身を投じた。
それは「国を背負う」高揚感だろう。それとともにに「世界で一番野球がうまいのはどの国か、一番いい打者は、投手は誰か？」を決めるイベントに出てみたい、という好奇心だったのではないか。
小さいころから命を駆けて打ち込んできた自分の「野球」が、世界の舞台でどれだけ通用するか試してみたい、という思いだったのではないか。
その気持ちはおそらく、他の国の選手も同様だっただろう。
「天下一武道会」に出る腕自慢、力自慢のような、まっすぐな熱情と好奇心で、彼らは侍ジャパンのユニフォームでプレーした。
その純情と、野球への愛情の深さに深い感動を覚える。
最終回、緊張と絶望感で体が動かなくなるまで頑張ってくれたことに感謝したい。
おそらく選手たちは「このチームを解散したくない」「もっと一緒に戦いたい」と思っているに違いない。しかし、侍ジャパンは今日で解散する。小久保裕紀監督も退任を表明した。
まさに一期一会だったからこそ、こんないい試合ができたのだ。
侍ジャパンは「野球」のために戦った。他の国の選手もそうだった。いい加減な大会かもしれないが、その真実がある限り、WBCは存続する価値があると思う。
楽天 開幕投手一覧
私のサイトにお越しいただき、ありがとうございます。ぜひコメントもお寄せください！
↓
好評発売中！
コメント
コメント一覧
そんな大会でプレッシャーに押しつぶされるってね
しかし、あれほどあっさりと三者凡退になるとは。
プレッシャーなど感じないと思っていた3人でしたが、想像
もつかないほどのプレッシャーを感じていたのでしょうね。
根性が腐ってると目も心も曇るんですなあ。かわいそうに。実生活も大変でしょう。
手に汗握る好ゲームに多謝！
広尾さんもお疲れ様です。
いつもながら、ライヴで見れない者にも簡潔なのに詳細で感動的なレポートを有難うございます。
素晴らしい試合を見せてくれてありがとうございました。
やっぱり野球は面白い。
アメリカ戦に絞ってコメントしますと、得点が全てミス絡みだったのが本当に悔やまれます。
8回の山田のバントは、小久保監督が数字には表せないメジャーリーガーの重圧を感じていたことの何よりの証ではないのでしょうか。
9回裏は歴戦の彼らでもとてつもないプレッシャーを感じていたんでしょう。
ほとんどのスポーツにおける代表戦でも同じような条件でしょう
大谷がいたら、試合では違った局面も増えたでしょうけど、もしかしたらここまでチーム一丸となれたかどうか分かりませんね。
常に課題を残しながら、それでも勝ちを拾い、成長し続けた。チームとしての魅力あふれる今回の侍Ｊでした。よいものを見せてもらいました。
違いますよ。
サッカーならギャラだけでなく、世界的な知名度がアップするなど、有形無形の報酬があります。
他の競技でも、世界戦に出ればステイタスが上がります。
でもNPBは、侍に選ばれても年俸も上がらないし、野手に限れば、今はMLBの注目度もそれほど上がりません。
どこが同じですか？
選手のレベルアップがありながら、それでも勝ち抜けなかったのは、やはり他の国の出場選手のレベルがあがっているってことでしょう。前回、ドミニカ共和国が優勝して、特に中南米の選手のモチベーションが上がった感じですね。
実は今回、日本に優勝してほしかったのはもちろんですが、ＷＢＣがもっと盛り上がるためには他国が優勝したほうがいいんだろうなーとも考えていました。ＷＢＣが、トップクラスの選手が当たり前に出場する大会になっていくといいですね。
CMのオファーが来るかもしれません
メジャーのスカウトに目が止まった選手もいるでしょうし、有形無形な報酬は野球選手にもあるのでは？
ほとんどのサッカー選手は有形無形の報酬求めてＷ杯出てる訳じゃないと思いますが
ベッカムみたいな億万長者がＷ杯直前に怪我しても何とか出ようとします
過去の大会では、WBCで頑張った選手のシリーズはあんまりよくないという結果になっているようなので、そんなことのないようにお祈りします。
さた、明日の決勝戦は米国が勝つか負けるか、違った意味で興味深いものです。
米国は、属領に負けるわけにいかんでしょう。
一方で、トランプ大統領にも、目にも見せてやるという、プエルトリコの意識もすごいものでしょう。
日本のサッカー選手はワールドカップ出場を経て海外に移籍しています。
2013年のWBCがきっかけでMLBに移籍した選手はマエケンと田中将大がいますが、田中は2013年の前に海外挑戦が既定路線でした。
CM？そんなの期待して野球する選手はいないよ。
説得力がないし、つまらないので、もういいでしょう。
いい表現だね。この差がなかなか縮まらない。
他国が盛り上がるということは、日本が勝ちにくくなるのでしょうが、
日本国内にも上手くフィードバックして欲しいですね。
気づいたら「古豪」になってたなんてならないように
昨日のオランダもですが、正直二次ラウンドのF組のレベルがあまりに高く、アジアラウンド代表のオランダ、日本が惨敗するのではと大変余計かつ失礼な心配をしておりましたが、杞憂で良かったです。
日本の敗戦はやはり残念ですが、WBCの今後を考えると米国プエルトリコというのはいい組合せだと思います。やはり米国内で少しでも盛り上がることが大事ですので、明日も熱戦に期待します。
あと皆さんおっしゃってますが、チャレンジ頻発は考えものですな。あと決勝Tのタイブレークは、せめて延長13回くらいからで良いのでは。そしてロサンゼルスもこの時期は雨も降るので、結果試合出来て良かったですが予備日は取って欲しかったですね。
改善の余地はあれど、これまで本当に素晴らしい大会。野球の未来に希望が持てました。
広尾さんもお疲れ様でした！！
準決勝アメリカ対日本、アメリカでやったのにガラガラ‥‥‥？？？
どこが盛り上がってるの？‥‥
そうですね。今はまだ、2度優勝が記憶に新しいので、『お疲れ様』ムードでしょうが、次回以降も（同じ大会形式とは限りませんが）勝てない様なら、『強かったのはイチローがいた時だけか、進歩してないな』…と、失望に変わるでしょう。
東京Dで本塁打を打てる事に惑わされずに、高打率ヒッター中心のスモールベースボールを貫くとか、MLBの様なツーシーム投手を育成するとか、米国に遠征しての親善試合をするとか、明確に解決の為の行動が必要でしょうね。
広尾さんが再三指摘される通り、問題解決が進まないNPBではそこが心許ないですが。ただ、異文化と触れ合う故に、問題解決や進歩を迫られると言うのも、国際大会の良い所なのだとも思います。課題が見えた事をムダにしないNPBであってもらいたいモノです。
選手の志とファンの熱でよりよい大会に育ってほしい。
しかし、バレンティンが日本国籍を取っていたら勝ってましたね。やはり世界との差を埋めるピースは長打力ではないでしょうか。
ほぼリアルタイムの実況中継、本当にお疲れ様でした。
今回は「野球崩壊」を読んだ直後だったので、日本野球のために何としても優勝を！という思いがいつも以上に強く、祈るような気持ちで試合を見ていました。それだけに今回ほど負けて脱力した国際大会は無かったです。
負けたからではなく試合内容としては準決勝が一番つまらない試合でした。蛭間さんも寄稿されていましたが、最終回に内野ゴロで全力疾走しない中田と坂本にもガッカリしました。子どもたちがあの姿を見たらどう思うでしょうか。
（そう言えば筒香選手だけが「子どもたちのために」というコメントを連呼していたそうですが、広尾さんの本を読んだ影響でしょうか！？）
さて、私の感想ですが、今回の人選で危惧していたのは力勝負タイプを中心に据えたことでした。数少ない機動力を活かせる選手もベンチを温めることが多かったです。
2次ラウンドまでは打ち合いでも勝てて、ある意味目論見通りだったのですが、やはり好投手を擁する相手になるとなかなか打てません。スモールベースボールとはバントを多用することだけではありません。
日本人MLBが青木だけだったからとの意見もありますが、ダルや田中、岩隈、前田がいたところで彼らでも1試合で1、2点は取られます。やはりいかにミスを少なく失点を防いで少ない安打で点をもぎ取るかが重要だと思いました。
４年後への課題は多彩な攻撃、堅実な守備がキーですかね。
また、次回もアメリカでベスト４をやるならば天然芝対策は必須です。
気候的に難しいかもしれませんが、日本Rもマツダスタジアムなどの天然芝球場でやるか、各球団の本拠地の天然芝化を考える必要があるかもしれません。豊洲移転後に築地に天然芝球場ができたら嬉しいですけど。
広尾さんには侍ジャパンとしての課題とWBCそのものの運営についての課題をまとめて記事にしていただくことを期待しております。
バントにしろ、動く球への対応にしろ、野球エリートたちに作戦面や指導で型にはまった思考パターンが多すぎる。
日本国内で同じ思考パターンをもった者同志で試合をしてる分には問題が顕在化しないが、違う思考の相手が現れた時、対応できない。
甲子園などで同じ思考パターンの指導の純化を進めている限り、WBCの準決勝の壁は破れないのではないか？
第一、二回大会の出場者たちが指導者になりつつある現在、これまでの日本野球の常識を打ち破る指導を見いだしていってほしい。
野球ファンは一体どれぐらいの人が決勝戦を見るのでしょうか？世界一を決める訳だしブラジルワールドカップのドイツＶＳアルゼンチンの視聴率と同程度ぐらいはいくんでしょうかね？
ＷＢＣ決勝戦に要注目です！
野球は面白い、ということが再認識された大会だったと思います。
（特に短期決戦の）野球が一流のコンテンツだということが世間で認識される、この点をもって、WBCの開催意義があると考えます。
また、今回の敗戦により、選手も他では得られない経験を得られるメリットがあるのではないかと感じました。
今回ミスをした菊池選手が四年後にどんな選手になるのか、とてもなるのか楽しみです。
選手にとって名誉以外のメリットがないと考えられていた大会が、得難い経験を得て、選手の価値を上げることができるというのはとても明るい材料ではないかと考えました。
四年に一度の大会で、一つ負けたらそこで敗退、一つのミスが勝敗を分ける、という緊張感が選手の成長を促し、観戦側の面白みを際立たせる。選手にも私たちにもとてと良い大会であり、存続の意義は大アリです。
今回、アメリカに負けたのは悔しいですが、アメリカが決勝で勝とうが負けようがこの大会への考えが変わるのではないか。特に負ければ悔しいですし、次こそは、と盛り上がらないか、そんな期待をしています。
前回大会でドミニカやプエルトリコ、オランダがそうなり、今回アメリカ、メキシコ、イタリアが変わることが期待をされます。
やはり世界大会は野球の裾野を広げると期待されます。その意味でもWBCの意義は大きいと考えます。
そうですね。野球ファンにとっては野球だけは特別です。
スポーツファンって何ですか？
「決勝のESPNはスペイン語放送のみ」
プエルトリコに敬意を表してだろか？
＞いい表現だね。この差がなかなか縮まらない。
言葉の意味を厳格にして「世界一との僅差」とでもするべきです。
あいまいな概念は日本のスポーツメディアの弊です。
どうでもいい。