北海道日本ハムファイターズは、福岡ダイエーホークスとともに、野球マーケティングを変革したチームだ。

これまでのプロ野球は、ほとんどが本州の大都市圏に存在していた。そしてセ球団は巨人戦の放映権料に依存して経営を行い、パ・リーグは親会社に赤字の損失補填をしてもらって存続していた。
九州には西鉄ライオンズがあったが、経営が行き詰まり、西武鉄道グループに買収されて埼玉県に移転した。
1989年にダイエーが南海ホークスを買収して九州に再び球団を移した。当初は古い平和台球場を使っていたが、1992年に福岡ドームを開場し本拠とした。ここから地域密着のマーケティングと、現在のことばでいう「ボールパーク」構想を開始し、観客動員を伸ばした。
ダイエーは経営難で撤退したが、これを買収したソフトバンクは、マーケティング施策をさらに推進し、2015年には巨人、阪神に次いで観客動員250万人を達成した。
ポイントは、福岡ドームの買収だった。ソフトバンクグループは、複雑な資本の入れ替えを行って福岡ドームをソフトバンク・ホークスの所有物にした。
これによって、球団の経営は劇的に改善した。球場使用料の負担がなくなったうえに、グッズや飲食物などの販売、球場内広告などが自由に行えるようになったからだ。

ホークスの成功事例を見て、多くの球団が地域密着型のマーケティングに本腰を入れた。
日本ハムは東京ドームを巨人とともに併用していたが、観客は伸び悩み、親会社の負担が大きかった。
そこで2004年、札幌に移転。2001年に開場した札幌ドームを本拠地とした。北海道は巨人などが夏季に試合をしていたが、未知のマーケットだった。しかし、地域密着のマーケティングによって観客動員は次第に増え、2016年には200万人を突破した。
日本ハムは、親会社からの支援を年間20~30億円程度受けているとされるが、親会社は赤字になっても追加補填はしない。実質的なネーミングライツのような形になっている。それだけに独立採算が求められているが、その上でネックになっていたのが札幌ドームだった。
年間使用料は6億円、しかも指定管理者ではないため、ドーム内のホットドッグに日本ハムではなく伊藤ハムのソーセージが使われるなど球場内の飲食、物販も自由に行えない。さらにコンサドーレ札幌との併用のために、使用できる日数も限られていた。

日本ハム側は、3セクの札幌ドームや実質的な親会社の札幌市とも永年交渉を続けてきたが、札幌市側は強気で、交渉は難航した。
そこで日本ハムは本拠地の移転構想を推進し、札幌市、隣接する北広島市を候補地として計画を策定した。
日経新聞
日本ハムグループは26日、北海道で計画しているプロ野球、北海道日本ハムファイターズの新球場建設地を札幌市に隣接する北広島市に決めた。2023年の開業をめざす。
(中略)
新球場は札幌市が保有する現在の札幌ドームと異なり、日ハムグループが主体となって建設・運営する。天然芝で冬場に備えて開閉式ドームか透明な樹脂素材を使った屋根を想定。建設費は全体で500億~600億円を見込む。
札幌市ではなく、はるかに小さな北広島市に決定したのは、日ハム側が札幌市側の強硬姿勢に嫌気がさしたという面があったのではないか。
札幌の他のエリアに球場を建設したとしても、札幌市はこれまでと同じくうるさく注文を付ける可能性がある。このことを考えたのではないか。
札幌ドームは、最大のテナントを失った。株式会社札幌ドームはずいぶん儲かっていたようだが、これから苦しくなるだろう。
2023年の開業が楽しみだ。「食とスポーツを有機的に融合させる」というコンセプトは魅力的だが、2020年のオリンピック以降、野球人気はかなり落ち込むのではないかと予想している。
日本ハムは自分の球団の経営だけでなく、野球の普及、発展に尽力する必要があるだろう。特に道内の掘り起こしに期待したい。
2017年髙橋聡文、全登板成績
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コメント
コメント一覧
スポーツ施設に税金を投じることは一概に悪いとは言えません。
2004年から日本ハムが使っていたので、少なく見積もっても80億円以上の使用料を支払ってきたはずです。運営会社はずっと黒字でしたから、減価償却はかなり進んでいるはずです。事業会社が破たんした大阪ドームと比べてもはるかに経営内容は良いはずです。
3セク事業の成功事例ではあるでしょう。
私は札幌に土地勘ないので分かりませんが、地元民の方々の意見を見るとなかなか厳しそうです。
インフラ整備も当然、進むはずです。年間200万人が来る施設の開業は、大きなプロジェクトを伴いますから。
広尾さんの仰るように、インフラ整備も進むはずです。懸念事項は観客をさばくだけの輸送能力を有した鉄道が用意できるかですかね。
現状でも本当に脆弱らしいので
ただJR北海道の輸送力、札幌「市」でなくなる精神的距離は私は道民ではののでわかりませんが。
スタジアムは「結局お金無いんで密閉式ドームにしました」と言うのはやめて欲しいですね。けちらず開閉式屋根天然芝の最高のボールパークを作ってほしいです。
スポーツ施設に税金を使うことは、私も意義があると思っております。このドームがあったからこそプロ野球も誘致出来たわけで成功事例と言えるでしょう。問題にしてるのはこれからのことです。年間60試合程度を行ってるプロ野球の穴が空くのは大きいでしょう。償却が進んでいるのであれば、なおさら球団と折り合いをつける方法もあったと思います。周辺の敷地も十分ありますし、球団が目指しているボールパークを、もっと低予算でこの場所で実現出来たのではないでしょうか。
それは三セク札幌ドームの問題であって、率直に言って知ったことではありません。
税金を投入したあらゆる施設の経営について、納税者だからと言っていちいち気にしたって仕方がないでしょう。
「税金を投入したのに」という常套句がありますが、行政も投資・回収の主体である点では、企業と何ら変わりはありません。失敗することも成功することもあります。トータルで収支が取れていればそれでよいわけです。
ただ、ここまでの経営には問題はなかったとは思います。
そう言われてしまえばその通りですが、まだまだプロ野球の本拠地として十分使える施設なのに、もったいないなあ、という思いです。もちろん、球団が出ていったあとも他の利用で十分生かされるのであればいいわけですが。
日本ハムは、これ以上高い使用料を払って理不尽な商売をする必要はないでしょう。
もちろんその通りです。横浜はもしあの時LIXILが買っていればすぐに外に出てしまったのでしょうが、DeNAになったあと良い形で協議が調いました。札幌市・札幌ドームは、まさか本当に出ていかれるとは無いとたかを括って高飛車な交渉をしていたのでしょう。それは移転が前提となったあとも一緒で、なんだかんだ言って札幌市内の候補地が残ると思っていたのでしょう。札幌ドームで知り合った知り合いが北海道に何人かいますが、みんな「札幌市は何をやってるんだ!」と怒ってます。
なお人口のはるかに少ないというハンデがありながら移転候補地を勝ち取った北広島市には本当にお見事と言いたいですし、上手くいけば地方の活性化のモデルケースになると思います。
一番の問題はプレイヤーに優しくないペラペラの人工芝。
北広島の交通アクセスについて楽観的なのが不思議すぎる。千歳線の現状知らなすぎる。
インフラ整備無くして大規模なスポーツ施設の開業はあり得ないでしょう。行政も税金を投じて大規模な整備をするはずです。今の交通事情は参考にはなりません。
日本ハムの広報の高山さんは、これまでの札幌市に対する感謝の記事をNumber Webに寄稿しています。
でも、他球団に比べてあまりにも条件が悪すぎたのは事実です。札幌市は強気すぎたし、既得権益の保護に走りすぎました。