東京ドームから帰ってきた。今日、あ、もう昨日だが、昨日の試合は、いかにもMLBらしい面白い試合ではあった。しかし、ことイチローと日本メディアに関して言えば、非常に残念なものでもあった。そのことは明日書くとして、1時間ほど前に終わった出来事について書いておきたい。
11時過ぎに試合は終わった。延長12回。長い試合だった。
イチローは8回に退いていたが、マリナーズの勝負が決まると真っ先に駆け出して、ナインを迎えた。場内は大いに沸いた。
イチローに迎えられているビショップは、イチローに代わって試合に出たが、これがメジャーデビューだった。

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しかし、それ以外には何も起こらなかった。でも観客は席を立とうとはしなかった。三塁側のベンチに向かって拍手や声援を送り続けていた。

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引退を表明したイチローは、必ず出てきて挨拶するに違いない。東京ドームの客はみんなそう思ったのだ。

おそらくそういうセレモニーは予定されていなかったのではないか。
MLBでは引退セレモニーはあっさりしたものであり、日本のようなくどいスタイルはあまりない。
それに、形式的とはいえ、この試合はアスレチックスの主催試合であり、マリナーズには敵地だった。

しかし観客は待ち続けた。「イチロー!」の大声援や、ウェーブなども起こり、このまま何もなければ、暴動でも起こりそうな雰囲気だった。
場内アナウンスは「終わったから帰れ」とも言わなかった。
そしてメディア、ビブスをかぶったカメラも、ベンチの前に集まっていた。イチローが出てくるのではないか、彼らもそう思っていたのだろう。

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15分ほどして、ついにイチローが姿を現した。彼は報道陣を引き連れて、グランドを一周し始めた。場内は大歓声に包まれた。三塁側から外野を回り、ぐるっと本塁へ。さらに一塁側にふたたび歩くと、今度は報道陣から抜け出す形でマウンドのあたりまで行き、帽子を取って挨拶をした。真っ白になった頭が痛々しくもあった。

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そしてイチローはベンチへと消えていった。
このタイミングで場内アナウンスが「最後までご観戦いただき、ありがとうございました」といった。

私の世代は、どうしても1974年の長嶋茂雄の引退試合を思い出してしまうが、イチローのこのパフォーマンスは球団や放送局が仕組んだものではなく、自然発生的なもののようだった。
しかしそれだけに自然で、作り物でない温かさを感じた。エンカ―ナシオンやブルースなど、マリナーズの選手も混じっていた。

観客も、メディアも、チームメイトも、「イチローと別れたくない」「もっと一緒にいたい」と思ったのだろう。
その直ぐな気持ちが、イチローをも動かして、こういう出来事になったのだ。

私は今年60歳になる。上の席に座っていた兄ちゃんのように嗚咽を上げて泣く気にはならない。それに、もろ手を挙げて称賛する気もない。

しかし、イチローという野球選手を27年も見つめてきたことを、誇らしい気持ちとともに振り返ることができた。
今日で、イチローの物語は終わった。それを実感できたのは佳かったと思う。


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