「引退表明」は、菊池雄星が「第1球」を投げたあとに、公表するという段取りだったという。NPBのちんけな引退試合とはまったく違う細心の心配りだ。私が知ったのは昨日の19時10分だった。

初球は146km/hの直球だった。

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試合後の会見の話を綜合すると、イチローと球団の契約はもともと昨日、3月21日までだったようだ。しかしイチロー本人は、マイナー契約のNRI(キャンプ招待選手)としてスプリング・トレーニングに出場して、それなりの成績を上げることができたら、本国開幕戦以降もロースターにとどまる可能性がある余地を求めていた。球団はこれを了承したのだろう。

しかし周知のとおり、イチローはスプリングトレーニングで19試合29打数2安打という極端な不成績に終わった。
日本に来る前に、彼の現役続行の可能性は断たれていた。NRIからアクティブ・ロースター入りはきわめて狭き門だが、イチローは「特別枠」で昇格を許された。その時点で、イチロー本人も、サービス監督も、球団も、今回の日本開幕戦の「意味するもの」について共通の認識を持っていた。
要するに、「いつ引退を表明するか」ということだった。
指定席にこのおばさんもきていたことではある。

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20日の試合の4回での退場劇は、セレモニーのひとつではあった。しかし、まだ監督の認識も揺らいでいたのだろう。
イチローの最終日のスタメンでの出場、そして8回までプレーは、率直に言えば、まことに残念なことだった。
イチローに、もう打者としての力はいくばくも残っていないのは、みんなが知っていることだった。であれば、単なる花相撲ではなく、最も重要な公式戦での勝敗がかかる場面では、躊躇なく代打を出すべきだった。

マリナーズの3-2で迎えた7回、先頭の8番ヒーリーが二塁打で出てイチローの打順。2打席力なく凡退しているイチローではなく、他の打者を起用すべきだった。イチローは見逃し三振。後続が打って1点を取ったが。
OAKが4-4に追いついた8回、2死二塁でのイチローの打席、ここでタイムリーが出れば決勝である。イチローを打たせるべきではなかった。

しかしいずれも打席もネクストにイチローが立つと大きな声援が起こり、サービス監督には代打を告げる勇気がなかったのだろう。日本の観客にサービスしたのだ。
イチローとて安打を打ちたくて仕方がなかった。8回の遊ゴロはきわどいタイミングではあった。

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この2回の得点機に代打を送ることができなかったのは、MLB公式戦、権威の維持という点で痛恨の極みではなかったかと思う。

この裏に、またイチローの退場のセレモニーがあった。

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サービス監督は、あと1アウトで勝利投手という菊池雄星をマウンドからおろす冷静さをもっているのだ。あそこで拘泥していれば、大物打ちがそろうOAKの打線に試合を奪われた可能性も大いにあったのだ。あれは正解だった。

要するにイチローに「マイウェー」を歌わせるために、2試合をプレゼントしたということだ。これまでのMLBではあまり見られなかったことだ。
結果的にオークランドをスイープすることとはなったが、このことは、汚点として記憶されるのではないか。

イチローの偉大さには異論の余地もない。しかしどんなに偉大な選手であっても、MLB、そしてスポーツの権威を乗り越えることはできない。

私はイチローの最後を見届けることができた幸せと、残念な気持ちを抱き合わせにしたように感じている。

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2018年鈴木博志、全登板成績

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