21年前に亡くなった私の父は一応国立大の薬学部を出て薬剤師の資格も持っていたが、私が知る限り、ただの1冊も本を読まなかった。
平日は接待交際費で得意先と飲み歩き、休みはゴルフ、マージャンが好きで茶屋酒も大好きだった。私が買ってきたガルブレイスや井上靖を貸してくれと言ってよく持って行ったが、ページは1枚も明けられた形跡はなかった。会社や飲み屋で見せびらかしていたのだろう。
海外出張にもよく行った。観光もよくしたようだが、夜っぴて飲んでいたので翌日どこへ行っても半ば寝ていた。何かを見て感心した、みたいなことは聞いたことがないし、どこに行ったかも不確かだった。
しかしそれでも平社員から入って役員になり、最後は社長になって現役中に死んだ。
いろいろな部署にいたが、どこでも熱心に働き、評判は良かった。「約束は守る男だ」とよく言われた。偉くなってからパソコンが出てきたが、自分では触ろうとはしなかった。

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「昭和のサラリーマン」とは概ねこういう人だっただろう。彼らは「会社のためにすべてを捧げた」と思っているし、事実そうだったはずだ。若いころは上の言うことをよく聞いて身を粉にして働き、偉くなると会社の金でぜいたくな飲み食いをする。それがサラリーマンの理想であり「生きる道」だった。「喜劇駅前社長」の世界だ。

もちろん、そんな中でも一握りのリーダーは革新を興し、世の中を変えていったのだろうが、多くの人は後からついていっただけだった。

世の中はどんどん変化し、世界の国々のビジネスモデルはめまぐるしく変化している。日本もその余波を受けているのだが、日本の大多数の企業の上層部には「昭和の時代のサラリーマン」が多数わだかまっていて、どんな波を食らってもなかなか変わることができない。
そもそも若いころから気を使ったり、体を使ったりはしてきたが、頭はそれほど使わなかったので、改革の波が来ても、どうしてよいかわからない。だからひたすら「お家大事」「現状維持」「自己保身」に走ってしまう。

コロナ禍とウクライナ侵略によって世界の経済が激震している。日本はかつてない円安に苦しんでいる。アメリカなど他の先進国では物価上昇とともに人件費も急上昇しインフレ機運が高まったために、中央銀行は大胆な利上げをしてインフレを抑制し、経済そのものを変えようとしているが、日本は低金利政策を継続するという。
一つには国債の利払いの問題があるが、もう一つには「変革の機運を促進すると、中高年の既得権益層が困る」ということが大きい。
彼らの本音は「改革とやらは俺らが死んでからにしてほしい」であって、新しいことは何もしたくないのだ。変革の機運が起これば、自分たちの無能が明らかになるし、立場も危うくなるからだ。

この間、地方都市で都市銀行出身の若い市長が、議会の最中に居眠りするような議員に激怒して、議員定数を半減する議案を出して否決されたが、これなど今の日本社会を象徴している。

日本の国は、そういうおじさんでさえもまともに生きていけないところまで落ちぶれてやっと、変革の機運が出てくるのだろう。
情けないけど、日本人は「ぬるま湯」に浸かるのが本当に大好きなのだと思う。



NOWAR


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