私は球場に行くと、ビールを1杯だけ飲んで、あとはひたすらスコアをつけて写真を撮っている。プレイボールから試合終了まで、席を立つことはない。これもかなり変態的だとは認識している。
球場には、本当にいろんな人がいる。

この間、京セラの三塁側内野席で、オリックスの夏のユニフォームを着たおっさんは、野球はほとんど見ずに、観客席を見渡していたが、突如、頭の上で扇子を拡げて、孔雀みたいな恰好をした。するとビールの売り子の女の子がやってきた。おっさんは嬉しそうに立ち上がって通路まで出て、ビールを買っている。「昨日は来てた?」「こないだの神戸は行ったんかいな」「〇〇ちゃんは今日どこまわってるの」と気安そうに語っている。
私はビールの売り子の取材もしたことがあるが、いつも同じ場所に座り、同じ売り子からビールを飲む常連は「顧客さん」と呼ばれている。
うわさに聞く「顧客さん」はこれか、と思ったが、おっさんは他の売り子からも次々とビールを買う。オリックスはこの日、快勝したのだが、おっさんはほとんど試合を見ていない。
試合終盤になって、後ろから来た売り子がおっさんの背中をぽん、と叩いた。おっさんはちょっとびっくりしたが、喜んでビールを買っていた。
売り子にとって「あと一杯」粘って売りたいときに「顧客さん」は重宝するようだ。

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日曜日は、家族連れもよく見る。小さな子供の手を引いたお母さんがまず座り、あとから胸に乳飲み子を抱っこしたお父さんが座る。
お母さんは、お弁当を出し、お父さん、上の子と食べ始める。試合は始まっているが、黙々と食べる。試合はちらっと見ている程度。乳飲み子が泣き出したので、お父さんは席を立って子供をあやしにかかる。上の子供がむずかるとお母さんはお菓子を与えている。
時どき試合を見て、ハリセンを叩いたりしているが、子供の世話にかかりきりになっている。なんとなくこの球場の片隅で「所帯を持っている」感じだ。
ラッキーセブンを過ぎたころに、この家族は出て行った。

屋外球場の試合前、ビールを飲んで気持ちよくなっていたときに、私の前に男女2人組が座った。男はビール、女はレモンチューハイを頼む。ビールを飲みだして早々に、男は、新しい部署に代わって仕事のやり方が変わったことについて、つらつらと話し始めた。女は話す男の横顔を凝視して、時々「それは大変よね」「わかるわかる」と相槌を打つ。男はどんどんビールを飲んで、会社の愚痴を延々と話し続ける。女はその間、ずっとその横顔を見続けている。このカップルも、試合はほとんど見ていない。なんとなくこの男女は「不倫ではないか」と思った。

試合の頭から「〇〇選手、ここではホームラン打ってもらいましょう、ソーレホームランホームラン〇〇」と応援リーダーに促されて(コロナ禍でもリーダーが声を上げるのはOKのようだ)、一生懸命応援しているお客もいるが、その一方で、いったい何のために球場に来た?というお客もいるのだ。それもありなのだ。

球場に行く目的、理由は様々だ。私のような客も含め、球場で何をするかは全く自由なのだ。
「ボールパーク構想」とは、野球場という「空間」で、試合という「時間」を好き勝手に使ってもらうという発想に基づいている。

楽しけりゃ何でもいいのだけど、応援べったりになるのではなく、いろんな人がいろんな楽しみ方をしてほしい。


NOWAR


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