筒香嘉智や秋山翔吾がMLBで全く通用しなかったのは、近年のMLBが大きく変化したことが大きい。
しかしそれをNPBとMLBの「実力差」が拡がったとみるべきかどうかは、異論があるところだと思う。

MLBの近年の変化の淵源は、セイバーメトリクスの浸透にあったことは間違いない。投打守備のあらゆるデータが数値化され、統計学的な処理を経て選手を評価する数字となる。その数字が年俸など選手査定の最重要な指標になる。

そのことによって「OBP」「OPS」「K/BB」「QS」「WAR」などこれまでなかった数値が重要視されるととともに「打率」「防御率」「勝利数」「完投数」「完封数」「勝率」などの数値が等閑視された。

変化が最も大きかったのは「守備」の分野だろう。打者ごとの打球の方向が数値化され、極端な守備シフトが導入された。三遊間に4人の野手が並ぶような、これまでなら強打者でなければ見られなかったようなシフトが常態化した。
イチローが2010年を最後に3割、200安打が打てなくなったことと「極端な守備シフト」は無関係ではないだろう。

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これによって打者は不利になったが、この状況を打破するために、どんなシフトを敷いても絶対届かない「フィールド外」に打球を飛ばす技術が編み出された。いわゆる「フライボール革命」だ。
打者が「バレル」と呼ばれる一定の角度でバットを出して、一定以上のスピードでバットを振ることでホームランになる確率が高くなる。
スタットキャストなどトラッキングシステムに基づくデータの進化によって「本塁打を打つ技術」が飛躍的に上がったことで「フライボール革命」は成立した。

これに対抗して投手は、さらに変化の鋭い変化球をいくつも編み出して打者を打ち取ろうとする。

今のMLBは、あたかも「軍拡競争」のように投打が次々と新しい技術を開発して実践の場に投入している。

MLBでは、NPBでよく言う「走者を進めるバッティング」など「スモールベースボール」は消滅し、アクロバティックな野球が日々繰り広げられるようになった。

しかし日本の打者は基本的に「球に逆らわない打撃」を重視し、打ち上げるのではなくライナー性の打球を打つ技術を磨いてきた。
もちろん吉田正尚や村上宗隆は「ホームランを打つ技術」も一流ではあるが、MLB選手のような突出した技術であるかどうかは疑問だ。そもそも相手にしている投手のレベルが違う。

大谷翔平は、シアトルの野球トレーニング施設「ドライブライン・ベースボール」でデータに基づく動作解析を行っていると言われるが、要するにそういう形で「軍拡競争」に参戦しているわけだ。

NPBはこうした状況に比べれば、はるかに「平和」だと言えよう。

日本の平和な世界から「軍拡真っ最中」のレッドオーシャンに飛び込むことがどれほど困難なことかは筒香や秋山の「現実」が証明している。

ここまでくれば「どちらが正しい進化か」は断言できない。さらにMLBは投球間隔の短縮、守備シフトの禁止、各ベースの大型化などのドラスティックな改革を来年度から実施する。さらに2024年にはストライクボールの判定をAIが行うともいわれている。
私にはマンフレッドコミッショナーは「暴走している」ように見える。

こんなMLBに、ブルーオーシャンなNPBから挑戦することが、本当に「夢をつかむ」ことだと言えるのか、私はかなり疑問を抱いている。


NOWAR


1982・83年松沼博久、全登板成績

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