すでに55年もたっている漫画の世界ではあるが、スポーツ根性物の原点が「巨人の星」なのは間違いないところだ。
星飛雄馬は元巨人軍選手の星一徹の子として生まれた。星一徹は川上哲治と同い年の内野手だったが、応召して復員するも退団。以後は日雇い労働者として市井に暮らす。巨人入団前に知り合った妻との間に明子と飛雄馬をもうける。

妻の死後、一徹は、飛雄馬に野球のスパルタ教育をするようになる。赤貧あらうがごとき生活だが、私学の青雲高校に飛雄馬を入れる。その後一徹は星雲高校野球部監督になり、高校を甲子園に行けるレベルまで引き上げる。

一徹は日雇い労働の収入から野球用具を買い与え、学費が高い私学の青雲高校にやった。野球部監督になったのは、学費免除してもらうと言う条件があったのではないか。

飛雄馬は子供のころから、父の厳しい指導を受けた。しかし、それ以外の指導は受けていない。星雲高校では自動車メーカー社長の息子の伴宙太と親友になるが、その当時でも、赤貧あらうがごとき生活だったのは間違いない。それが巨人に入団してエースにまでなったのだ。

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昭和の時代、野球は「ジャパニーズドリーム」を実現するための代表的な手段だった。それもあって、男の子たちは「なりたい職業」に「プロ野球選手」と書いたのだ。
立浪和義は、パーマ屋を経営する母の女手一つで育てられたがPL学園に入ってスター選手になった。
貧乏でも「野球さえうまければ」「根性で頑張れば」、成功者になることができたのだ。

しかし、それは「昔話」になろうとしている。今や、甲子園に出ようと思えば、中学からボーイズなど少年硬式野球に入らなければならない。そこでレギュラーになるためには、プロテインなども摂取しなければならないし、場合によっては「野球塾」で個別指導を受ける必要がある。親は車で送り迎えしないといけないし、高価な練習用具も買い与えないといけない。

そして、甲子園出場実績のある高校に入ると、24時間野球漬けの生活をするために、野球部寮に入る。学費、寮費、部費と高額の教育費がかかるのだ。

もちろん、佐々木朗希のように東日本大震災で父親を亡くし、公立の大船渡高に入って頭角を現した選手もいるが、星飛雄馬のように「日雇い労働者の父と安長屋に住む」ような境遇から、スター選手になる道は、事実上閉ざされたと言ってよい。

中学、高校世代の親が「野球を選ばせたくない」理由に「金がかかる」ことがある。
今や金属バットやグローブは数万円。もっと安いものもあるが、高野連公認用具は高いのだ。ユニフォームもトレーニングウエアも、スパイクも高額だ。遠征費もかかるし、栄養費もかかる。大学に入れば、寄付も必要になったりする。

今の時代、日雇い労働者の父子家庭に生まれた子供が、プロ野球のスターになるためには、よほどの幸甚がなければならない。多くは野球を選択することもなく、自分も非正規雇用者になって「貧困の再生産」に取り込まれていくのだ。もう「巨人の星」は輝かないのだ。



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NOWAR


1960~62年柿本実、全登板成績