私は「阪神ファン」を侮っていたのかもしれない。彼らは単なる「あほ」ではなく、大阪、関西の「煮凝り」のような濃密な「あほ」であることを、昨日、身をもって知った。
私のすぐ後ろにいた60がらみのおっさんが、とにかく最強だった。息子、妻と家族で見に来ていた。自分のことを「おとうさん」というのだが、4回くらいにこんなことを言った。

「さっき、煙草を喫いに行ったら、横にいてたおっさんが『さっき、阪神が点取ったときに、ワーッと立ち上がった拍子に屁、こいたった』と言いよってん。それええなあと思って、おとうさんもそうしようと思てるねんけど、なかなか阪神、点取れへんやないか」

すると妻がくすりとも笑わず
「そうやねえ、点取ってもらわんといかんわねえ」
と言う。

すぐに点が入った。私は耳をダンボにして後ろの声を聴いたが
「あかん、立ち上がったけど、屁、でえへん。難しいな」
妻は
「ほんまやね、難しいわ。また点はいるから、そのときにしたらええがな」
おっさん
「そうや、きばり過ぎて中身まで出たら。いくらおとうさんでも困るしな」

これを全く笑わずに言うのだ。隣の息子も黙って聞いている。阪神ファンの底知れぬ深さに触れた気がした。

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この日は、オリックスのマーウィン・ゴンザレスが素晴らしい守備を何度も見せた。
すると斜め横のにいちゃんが

「ゴンザレス、だるいわー」という。
最近の関西の若者は「めざわり」とか「わずらわしい」とか「邪魔だ」というのを「だるい」と言う言葉で表現するのだ。このにいちゃんは、頓宮も宗も紅林も「だるい」で片づけていた。

代打でセデーニョが出てくると、別のにいちゃんが
「うわ、セデーニョや、あかんであいつ」
隣のにいちゃんが、
「なにがあかんねん?」
「顔がいかついねん」
「どんな顔してるねん?」
「セデーニョ!っちゅう顔や」

掛け合いである。その挙句に安打が出た。

9回は全員が立ち上がった。私の顔の5センチほど横で、女性のファンが
「いったれー、大山いったれー!」と絶叫した。
鼓膜が破れそうである。
「これであかんかったらどないしょ、どないしょ」
とほとんど泣いている。

大山がサヨナラ安打を打って、ひとしきり盛り上がってから、後ろを見ると、かのおっさんはもういなかった。サヨナラ安打で屁をこくことはできたのだろうか?

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1972年外木場義郎、全登板成績【3度目の無安打試合達成】