10月末で、東海道新幹線の車内販売がなくなった。どうしても新幹線の車内で買いたいものなどなかったが、私はほぼ毎回、ホットコーヒーとアイスクリームを買った。
ホットコーヒーは割とおいしくて香ばしい。毎日何杯もコーヒーを飲むので、そのうちの一杯として嬉しいものではあったが、アイスクリームなど新幹線以外ではほとんど食べないのに、必ず買った。

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新幹線のアイスクリームはスジャータ製だ。スジャータと言えば、コーヒーフレッシュのメーカーで、ラジオでも時報の手前で「スジャータ、スジャータ、白いひろがり」というCMを流していて、耳の底に残っている。コーヒーフレッシュと言うのも「和製英語」のようだが。
で、新幹線のアイスクリームもスジャータ製だ。私は、この2つ以外の「スジャータ製品」を買った記憶がない。そもそも「スジャータ」が「めいらく」のブランドだったことも知らなかった。

車内販売では、ワゴン販売で、コーヒーとアイスクリームをセットで買った。アイスクリームはバニラとほかの味の2~3種類を常備していた。私は大人の男の人であれば「バニラ」を買うのがさりげなくていいな、と思っているのだが「ベルギーチョコです」とか「限定マンゴーです」とか言われると、ついついそれを買ってしまった。われながら人間ができていないな、と思ったものだ。
で、必ず「固くなっているので、しばらくたってからお召し上がりください」と言われる。それがいいのだ。その言葉に素直に従って、窓際に置いて、カップの外側についた霜が少し溶けたくらいでふたを開けるのだが、それでもまだ固い。昔は木のヘラだったと思うが、折れたことがあったように思う。プラスチックのスプーンで慎重に周囲から岩盤を削っていくのが楽しかったのだ。
コーヒー、アイスクリームを買うと、食べた後、全部まとめて入れてごみ箱に捨てることができる薄い半透明の袋をつけてくれるのも嬉しかった。

私はワゴン販売のお姉さんが前を通り過ぎるのをいったん見送って、そのお姉さんがまた帰って来るタイミングで手を上げて「ホットコーヒーとアイスクリーム」を頼んだ。いきなり頼むのは物欲しげで、いい年をした大人のすることではないと思ったのと、ちょっと心の準備をしたい気持ちがあったのだ。

昨日、慶應高校の取材のために11月になって初めて新幹線に乗ったが、新横浜に着く2時間少しの間に一度もワゴン販売のお姉さんは来なかった。大げさに言えば時代が変わったように思った。遥か昔、新幹線からビュッフェがなくなったときもそう思った記憶がある。

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それを見越して新大阪の駅で、自販機のアイスクリームを買いはしたのだ。もちろんスジャータの自販機から。
しかし、そのアイスクリームは、新幹線に乗ってすぐにふたを開けてもスプーンが易々と刺さるほどに食べごろだった。そのほうがいいだろうとメーカーは思ったのだろうが、こんなのだったら私は買わない。
そもそも自販機の取り出し口の下には、プラスチックのスプーンがぶちまけられていた。実に無造作なものだった。

私は「アイスクリームが食べたい」のではない。新幹線で高速で移動しながら「固い固いアイスクリーム」が食べたい。それが「旅の機微」になっていたのだ。そこに気が回らないとは。

スジャータの技術力ならば、自販機のアイスクリームを「かっちかち」にすることなど容易ではないか。そのうえで、お金を払ったら自販機から女性の声で「固くなっているので、しばらくたってからお召し上がりください」と言うくらいの気配りはできないのか、とも思う。

固いことを言うなと言うかもしれないが、新幹線のアイスクリームだけは「固いことを言う」のだった。


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