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「カーネーション」が、朝ドラ屈指、ひょっとすると歴代ベストかもしれない名作なのは言うを俟たない、
あのドラマが成功したのは台本、役者は当然として、「生身の関西弁=方言」が、ドラマで本当に活き活きと躍動していたことが大きい。

ドラマの舞台はだんじりで有名な「岸和田」だ。泉州の中心都市だが、和歌山県にも近く、ことばは和歌山弁に近い。
「〇〇しちゃる」みたいな言葉遣いだ。「和歌山は日本で唯一敬語がない土地だ」とは、司馬遼太郎の言葉だが、言葉が荒いだけでなく、喧嘩腰に近い勢いがあるのだ。

ただ小原家は純粋の「岸和田」ではない。父親の善作は岸和田の様だが、母の千代は神戸育ちだ。神戸は同じ関西弁でも、「〇〇しとお」みたいにもっとおっとりしている。

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その娘の糸子は、岸和田弁をベースにしているから荒いが、神戸訛りも少し入っていると言う設定のはずだ。

つまり、ただ「関西弁が使える」だけではなく、その土地柄と、小原家の出自、経歴を感じさせる必要があったと思う。

小原糸子の尾野真千子は奈良県吉野郡の生まれ。吉野は「大和言葉」とも違う、古風で、素朴な言葉を使う。「あのなあ」が「えーてー」となるような、独特な言葉遣いで、古い関西弁の原型のような言葉だ。

尾野真千子は、今の大阪、梅田あたりの関西弁ではなく、古い関西弁のベースがあった上で、岸和田訛りを話していた。言葉の感覚がずば抜けていたのは言うまでもないが、彼女自身が編み出した、古風で、ワイルドで、しかもネイティブな、得難い言葉で話していたのだと思う。
彼女の言葉の「魅力」が非常に大きかった。

もう一人言うなら、祖母ハル役の庄司照枝の達者な関西弁が、ドラマに何とも言えない「奥行」と「風味」を与えたと思う。

周囲の演者は「習った関西弁」だったが、糸子とハルが、ドラマのリアリティをぐっと高めていた。

残念なことに、このドラマはモデルになったコシノ三姉妹の不興を買ったようだ。そりゃ母親の不倫や姉妹仲が悪かったことまで、全部ドラマにしてしまったのだから、いい気はしなかっただろうが、その不興を尾野真千子一人に押し付けて、60歳までで退場させ、最後は、コシノ三姉妹と親交がある夏木マリが、72歳以降を引き継いだ。

この人は、言葉の感覚が鋭いとは言えないし、そもそも関西とは縁もゆかりもない東京生まれだ。野性味あふれる関西弁を駆使した尾野真知子から、「習ったばっかりの関西弁」を教習所で運転を習う生徒のように使う夏木マリへ。
これによって、それまで構築されたドラマの「味」「色」は吹っ飛んでしまった。それでも台本が素晴らしいから、観ることができるが、なんでこんなことをしたのか?と14年経って思う。

おりしも、東日本大震災の年の10月に始まったドラマは、文字通り「画竜点睛を欠く」仕上がりになってしまった。




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